2024年 4月 20日 (土)

「下町ロケット」はブラック企業か?!(後編)専門家に聞くと「法律的にはアウトの可能性があるが...」

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中小企業は夢とビジョンで勝負しないと生き残れない

   ――それこそが「やりがい搾取」だという批判があります。経営者が社員に「夢をかなえる」「自分が成長するためだ」と叩きこんで、「やりがい」を意識させ、長時間労働を不当に利用するというものです。

岩田さん「そうでしょうか。本当のブラック企業というのは、従業員を人とは思わず、酷使し続けるような会社のことをいうのだと私は思います。ドラマでは佃社長が、無理やり社員を新潟の農家に行かせたりしているようには見えない。それが『やりがい搾取』と言われればその通りかもしれないです。しかし、やりがいがない会社とそうでない会社であれば、やりがいのある会社で働きたいのは当然ではないでしょうか。

心理学の世界で、人間の欲求に関して『マズローの五段階欲求説』があります。(1)生理的欲求(2)安全欲求(3)所属欲求(4)承認欲求(5)自己実現欲求の、5つの段階があります。今の日本では、1と2番目の生理的欲求と安全欲求は満たされているでしょう。会社にただいるというのは、3番目の所属欲求のレベルです。会社で評価されて報酬が上がると4番目の承認欲求のレベルでしょうか。そして、やりがいを感じるうえで大切なのは5番目の『自己実現』です。

佃製作所の夢と、従業員の夢が一致しているのであれば、従業員は会社に所属したまま自己実現することができる可能性があります。通常、自分のやりたいことをやろうと思ったら、勤め人ではなかなか難しいです。その夢を、会社で勤めながら達成できるのであれば、その人にとってはそれが幸せなことなのではないでしょうか。だいたい、佃製作所のように社員に夢を見させることができる企業がどのぐらいあるのでしょうか」

   ――なるほど。確かに社員に「夢を見させてくれる会社」は少ないですね。

岩田さん「『社長の仕事は社員に夢を見させることだ』と言っていた零細企業の経営者さんもいました。実際に零細企業相手に社労士の実務をしていると、いくら努力をしても回避不可能な一時的な長時間労働は現実にはありうることです。元請けの大企業が自分の社内では『働き方改革』と言っておきながら、下請けには無理な納期を押し付けてくることもあるからです。下請けの働き方改革も考えていただきたいです。

零細企業の場合、大企業とは違って、社長と社員の距離感が近い。その距離感は家族同然ぐらいに近い場合もあります。そういう会社にまで大企業と同じ法律を適用するのは、現実に合致していないと私は感じます。

法律を企業に守らせる側面も持つ社労士としては言いにくいことですが、法律を厳密に守ることが果たして本当に従業員の幸せにつながるか疑問に思うことがよくあります。法律を厳密に守るがゆえに仕事が成り立たず、最終的には倒産してしまう可能性だってあるからです。本来、国は最終的には会社に労働者の雇用を守ってほしいはず。しかし、法律を厳しくしすぎて、社会保険料負担を会社に押し付け続ければ、廃業する会社だって出てきます。それでは、本末転倒です。

従業員は、収入が保障されている代わりに自由がありません。自由がないにもかかわらず、夢を見られるということは決して悪いことではないと私は思います。

求職者に会社が見せることができるのは、労働条件とやりがいです。経営学の世界に労働者が何に満足するかを示す『ハーズバーグの二要因理論』があります。それによると、収入や労働時間などの『労働条件』は不満の材料になっても満足の材料にはなりません。しかし、やりがいなどの『動機づけ』は不満の材料にはなりませんが、満足を与えられる要因になる可能性があります。労働条件で大手にかなわない零細企業は、夢とビジョンで勝負しないと話になりません」
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