2024年 4月 26日 (金)

ビジネスマンの最終兵器 予測不能な時代にこそ学んで損しない「経営学」(気になる本の散歩道)

『ビジネスマンに経営学が必要な理由 成長の壁を突き破る3つの力』(陰山孔貴著)クロスメディア・パブリッシング

   1980年代後半のバブル期、「MBA(経営学修士)」取得がブームになった。金融機関や企業から多くの社員らが米国などのビジネススクールに派遣され、なかには希望の転職を果たすため、勤務先を辞めて自費で挑む人たちも少なくなかった。

   しかし、費用と時間をかけてモノにしたMBAも、いつのまにか熱は冷め、デキるビジネスマンのステータスとしての位置づけも薄れていった。

   そんな「経営学」が再び注目されはじめている。

  • いまこそ、ビジネスパーソンは「経営学」に通じることが求められる
    いまこそ、ビジネスパーソンは「経営学」に通じることが求められる
  • いまこそ、ビジネスパーソンは「経営学」に通じることが求められる

予測不能な「VUCAの時代」

   ビジネス界では10年ほど前から「世界はVUCA(ブーカ)の時代を迎えた」とか「現代はVUCAワールド」などといわれている。

   「VUCA」とは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(不透明性)」の頭文字をとった造語。ITやインターネットをテコにビジネス環境が加速度的に変化し、その移り変わりが「予測不可能」として、軍事用語から転用されるようになった。

   予測不可能なのはビジネス環境ばかりではない。2016年、英国の欧州連合(EU)離脱が決まり、米国では世界の予想を裏切るようにドナルド・トランプ氏が大統領選に勝利した。この二つの出来事は、なお予測不能な事態が続いており、日本の身近でも、韓国が予測不能な動きを続けている。経済でも国際情勢でも、不確実性は今後ますます増えていくようだ。

   その一方で、ITの急速な進歩でビジネスシーンも激変。年功序列や終身雇用が当たり前ではなくなり「ビジネスパーソンは今、『有名企業に就職して定年まで働く』というプランは持ちづらく『企業の枠を越えてキャリアを構築していく』という発想が必要」になっている。

   そうした中で、「経営を担う存在になりたい」あるいは「市場価値の高い人材を目指したい」という希望を持っているならば、新しいテクノロジーや経営手法を学ぶことを怠らず、常に向上心を持たないと時代に取り残されてしまう。 いまの時代こそ、ビジネスパーソンには「経営学」に通じることが求められているというわけだ。

MBAのなにが必要なのか?

   MBAは経営スキルを修めて得られる。その取得を足掛かりに目指すのは「経営のプロ」だ。バブル崩壊後、年功序列の日本的経営が行き詰まるなか、MBAを取得した社員らは米国など現地で、あるいは帰国後に外資系企業で学位を生かせるチャンスをつかんだ。

   2008年のリーマン・ショック後、企業負担によるMBA留学は一気に少なくなったものの、景気の悪いときほど、企業は「MBA」を求め、またその真価が期待された。

   それは、たとえば損益計算書(PL)上の指標を、目先で最大化するようなテクニカルなスキルではなく、組織の諸機能の相互依存を認識し、そのうちの一つの変化がどのように影響を及ぼすかなどを測れるコンセプチュアル・スキルを持っていることだ。

   著者は、そういったスキルを磨くことを心がけよと説き、そして問題解決能力ではなく、どの問題に対応すれば企業としてより良くなれるのかを見極める、問題発見能力の養成に向かわねばならないという。

働き方改革で失われる「学び場」?

   ビジネスシーンのもう一つの変化に、ここ数年の「働き方改革」があり、企業は残業を減らすなどの労動環境の改善を図っている。働きやすくなるのは結構なことだが、じつはその進捗とともにビジネスパーソンの学ぶ時間や学ぶ機会が切り捨てられているとの指摘がある。

   かつては「仕事をしながら、それを勉強の材料にしていた」ものだが、効率重視のためにそうした時間がなくなり、仕事への習熟は、個人がプライベートな時間を使って学ぶかどうかに任されているケースが多いためだ。

   終身雇用の時代には企業は人材育成に熱心だったが、転職市場が拡大したことで、成果のみを求める企業が少なくないという。「人材の流動性が高まれば企業が人材教育にお金と時間をかけにくくなるのは当然といえば当然。その結果、人が学ぶか否かはますます個人に委ねられることになる」と著者。

   本書では、MBAを「大学・大学院で学ぶ」ほか、独学や仲間と学ぶ方法などを解説している。

   著者、陰山孔貴(かげやま・よしき)さんの経歴は異例だ。1977年、大阪府豊中市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科で電子・光子材料の研究を重ね修士課程を修了し、家電大手のシャープに入社。ヒット商品の一つである調理家電「ヘルシオ」などの企画開発のほか、経営不振に陥ったシャープの再建などに携わった。

   この再建業務をきっかけに、「経営」について学ぶ。同社に勤務しながら、神戸大学大学院経営学研究科専門職学位課程に籍を置き、博士課程を修了。経営学者の道に転じ、2013年から獨協大学経済学部経営学科で専任講師となり、17年から准教授。18年からは、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター技術経営研究部会招聘研究員を務めている。

「ビジネスマンに経営学が必要な理由 成長の壁を突き破る3つの力」
陰山孔貴著
クロスメディア・パブリッシング
1480円(税別)

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