2019年 3月 26日 (火)

南海トラフ 巨大地震発生! さあ、あなたの会社はどうする? 緊急シミュレーションを体験取材した

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   近年、取り組む企業が多くなった「BCP」(事業継続計画)という言葉をご存じだろうか。「Business Continuity Plan」の略で、自然災害や大火災、テロ攻撃などの緊急事態を想定し、会社の事業を継続する対応策をまとめたものだ。

   2011年3月の東日本大震災後に、「BCP担当者」を置いたり、従業員の安否確認訓練を行なったりする企業が増えた。現在、南海トラフ巨大地震や東京湾北部直下地震が切迫しているといわれており、「BCP」の関心も高まっている。

  • 大震災の中、次々と来るメールへの対応に追われる参加者
    大震災の中、次々と来るメールへの対応に追われる参加者

本社や工場に津波が! 仙台出張中のあなたが出す指示は?

   あなたの会社は大丈夫ですか――。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部記者は2019年2月27日、東京都江東区青海で行なわれた、南海トラフ地震の発生を想定した「BCP」のシミュレーション訓練に参加、体験取材した。

   このシミュレーション訓練を実施したのは、企業向け教材開発・研修・セミナーの「株式会社インバスケット研究所」(大阪府堺市、鳥原隆志社長)だ。東日本大震災の被害を研究している東北大学災害科学国際研究所の丸谷浩明教授の指導を受け、南海トラフ地震を想定したパソコンを使った「BCP」の教材「WEBインバスケット」を開発した。

   東日本大震災から8年目の3月11日に「WEBインバスケット」を一般に提供するのに先立ち、各企業の「BCP」担当者を招いて体験会を開いた。「WEBインバスケット」の開発に携わった講師のインバスケット研究所の岸本昌也さんによると、大震災発生の場合、企業の対応には三つ段階がある。従業員の救助や安全確保、会社施設の消火などにあたる「当日」、協力会社との連携を図り、復活に向けて動く「3日以降」、そして、企業活動を開始、資金面のやりくりを始める「10日以降」だ。

   今回のシミュレーションは「当日」、しかも、南海トラフ地震が発生してから30分以内という大混乱を想定している。まさに、最初の勝負の段階だ。岸本さんは、30人の参加者にこう語った。

「みなさんにはあるメーカーの生産ラインの責任者になってもらいます。30分のうちに会社の各地から、あなたに指示を求めるメールが20通届きます。それらに対して的確に指示のメールを返信してください」

   参加者全員の設定人物は、静岡市に本社がある大手住宅機器メーカー「アレックス」の生産本部長・坂谷だ。アレックスは、静岡本社の下に東京支社、大阪支社、仙台支店があり、生産拠点として、浜松、三重、鳥取に3つの工場を持っている。坂谷はそれら工場の生産ラインの責任者だった。

   南海トラフが発生したのは昼の12時56分。震源地は静岡沖で、最大震度は7を記録した。静岡、三重、大坂、東京と各地に3~20数メートルの津波が押し寄せた。特に三重の津波は26メートルに達し、標高3メートルの低地にあった三重工場は壊滅、静岡の本社も大被害にあった。

   しかし地震発生時、坂谷は仙台市に出張しており、各地の工場が深刻な被害にあったことは知る由もない。昼食後にコーヒーを飲んでいる最中、めまいのような揺れに襲われ、あわててスマホでニュースを見ると、「大災害発生」が報じられていた。坂谷は静岡本社に電話したが、まったくつながらない。坂谷のスマホには指示をあおぐ社内メールが各地から矢継ぎ早に飛び込んでくる。それを30分以内にいかにさばいて的確に指示を与えるかが課題だ。

「津波で行方不明の従業員を助けに行っていいですか?」

   たとえば、東京支社からはこんなメールだ。

「静岡本社の被害状況は不明だが相当ひどいようだ。東京支社に災害対策本部を立ち上げたので、こちらに向かってください。なお、三重工場から連絡がありません。そちらで状況はわかりますか」

(これは簡単だ)

「了解。至急東京に向かいます」

と返信する。(おっと、三重のことを書くのを忘れた)と思ったとたん、鳥取工場からメールが入った。

「鳥取は震度4で被害が少ないです。工場長が有給休暇で不在なので指示を願います。工場に戻って内部の点検、けが人の確認を行なってもいいでしょうか」

(うん、震度4なら大丈夫だろう)

「了解。気をつけて行ってください」

と返信する。すぐに先ほどの三重の件で、恐ろしい第一報が三重工場から入った。

「状況を連絡します。工場で2名行方不明です。すでに津波に襲われて今も津波警報が出ています。高台に従業員を引き連れて避難しましたが、○○と××が見当たりません。従業員の中には津波の危険のギリギリまで戻って探そうという者もいます。また、家に戻って家族を助けたいという者もいます。どうしたらよいかわかりません。会社としての判断を教えて下さい」

(これは大変だ。どう指示をしたらいい?)。パソコンを打つ手が止まった。東日本大震災が頭に浮かぶ。結局、こう返信した。

「捜索に向かってください。くれぐれも気をつけて」

(これでよかったのか? 高台にとどまれと言うべきだったのでは)と迷う間もなく、浜松工場からも緊迫メールが。

「有給休暇で不在の工場長に代わり、指示をあおぎます。建物3棟中2棟が半壊です。近隣に火災が発生しています。すぐに指示を出してほしいことが3つあります。従業員の安否確認のため工場に戻っていいですか。家族を心配する従業員にどう指示を出すべきですか。帰宅困難な従業員がたくさんいます。何をすべきですか」

(参ったな。地元で判断できないのか)と思いつつこう返信する。

「気をつけて安否確認してください。家族を優先させて。壊れていない会社施設に泊めてあげて」

大混乱のさ中に営業部長が秘密のメールを

   東京支社の災害対策本部からも矢のようなメールが。

「被害が少ない鳥取工場から、救援物資を静岡本社や各工場に送りたいと言ってきています。関西と東京は大混乱状態なので、被害が少ない仙台を中心に物資を買い集めてほしいと思いますが、いかがですか」

(東京に来いと言ったり、仙台に戻れと言ったり。あれ、そもそも自分はどこにいるのか、東京行の電車に乗ったのだろうか?)と頭が混乱してくる。

「了解です。仙台に戻ります」

と返信すると、営業本部長の長戸から「CC」なしの秘密めいたメールが飛び込んでくる。

「本社が大混乱の状況なので、社長に話す前に内密の相談があります。2か月後に納期が迫った札幌のホテルの案件があり、これが達成できないとホテルチェーンとの取引を失うのではと懸念しています。浜松や三重の工場が無理なので、鳥取工場の生産ラインをやりくりして使えないかという相談です」

(従業員の命や生活が先なのに、そっちかよ。札幌のホテルだって、この大災害の状況をわかってくれるはずだ!)と思いつつ、

「了解です。鳥取工場に問い合わせてみます」

と返信してしまった。

メールへの返事に苦戦するJ-CAST会社ウォッチ記者
メールへの返事に苦戦するJ-CAST会社ウォッチ記者

   その後もどんどんメールが殺到した。結局、20通中16通にだけ返事をして30分のタイムアップ。営業部長の秘密の案件で鳥取工場に問い合わせることも、仙台支店に物資購入の指示を出すこともできず、ただ来たメールに「了解です」「気をつけて」と返事を出すことに追われ続けた。

   「WEBインバスケット」が終わった後、グループ内でフリートーキング。全メールに返事をできた人はいなかった。こんな意見が出た。

「三重工場の津波行方不明者を助けにいくべきかどうかでは、やはり、高台にとどまれ、が正解でしょう。津波は何度も襲ってきますから」
「浜松の工場の対応も難しいですね。津波や火事がどんな状態かこちらではわからない」
「何でもかんでも上の指示をあおがず、地元で判断しろよ、と言いたい」

(やはり、三重工場の件は『捜索に行け』と言うべきではなかった)と後悔した。

すべてのメールに返事してはダメ、無視する勇気も

   講師の岸本昌也さんが、こう解説した。

「ひとつひとつのメールの返信で、これが正解というものはありません。ただ、実際の震災の時はこのように次々と判断を求められる状況がやってきます。その時に、全部自分で判断を下していいかというと、そうでもありません。了承する、条件付きで承認する、拒否する、現場に一任する、判断を留保する、判断を延期する、メールを無視するといったさまざまな選択があります。また、メールが来た順番に答えずに、ざっと全体を読み、重要なメールから返信していくという取捨選択が大切になります。特に命の優先が大事です。そのためには、あえて返事をしないという選択もありうるのです」

(そうか、自分の場合は何でもかんでも「了解」「行け」と承認ばかりしていた。命に関わる時は黙って現場に任せる、あるいは重要ではないメールには返事をしないという方法もあった)と反省した。

   自分が返信した内容に関する自己採点の結果を見た。あくまで5人一組のグループ内での比較の採点だ。記者の場合は、「判断決定」と「創造性」で平均を上回り、「問題把握」と「対人関係」で平均並み、「報告連絡」「指示へのフォロー」「関連性」が零点に近かった。どんなメールにも「了解です」とすぐ肯定の返事をするのだから「判断決定」が高いのは当たり前。しかし、その判断が的確だったかどうかは別の問題だ。

   「創造性」は救援に行く指示を出す時に、「気をつけて」とか「危険になったら戻るように」などと提案することを指すらしい。「報告連絡」「指示へのフォロー」がダメなのは、メールに返信するだけで、営業部長の案件で鳥取工場に問い合わせることや、仙台支店に物資購入の指示を出さなかったためだ。

   「関連性」も零点だったが、これは、ほかのメールで浜松工場の状況報告があったのに、その内容をすっかり忘れて、無理な指示を浜松工場に返信してしまったためだ。「WEBインバスケット」の中には、「メモ」のコーナーがあり、次々と来るメールからわかる各地の状況を簡潔に要約することができるのだが、そんな余裕はまったくなかった。

   岸本さんはこう語る。

「その人がどんな人間か、一度このテストを体験しておくとよくわかります。全部自分で判断する人は、日頃の仕事ぶりでもそうで、人に任すことができないワンマンだったりします。一方、何も判断しない人は、日頃の仕事も人任せで無責任だったりします。会社組織の中で課長、部長、さらにもっと上のクラスの人にこのテストを行ない、人事担当者だけに結果を見せると、誰がBCP担当者として適格か、判断する参考になります」

(福田和郎)

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