2024年 4月 25日 (木)

後継者問題解決に妙案! 廃業やM&Aの道を選ぶ前にやってみること(大関暁夫)

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   金融機関が主催する有識者会議に出席しました。テーマは「事業承継」。近年、廃業やM&A(企業の合併・買収)などで、地方では地元経済を支える老舗企業を失うという事象も多くなりました。

   彼らのメインバンクである地方銀行は古くからの取引先を失い、ただでさえ貸出先を確保するのに苦労している地方銀行にとっては、ますます厳しい状況に追い込まれる事態になっています。なにか、解決策はないものかと--。

  • 後継者問題、うまくいけばいいけど……
    後継者問題、うまくいけばいいけど……
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後継社長になるにもカネがいる

   中小企業が廃業やM&Aに追い込まれる原因は、何と言っても後継難です。血縁者の跡取りが存在しない、あるいは後継ぎ拒否という事態に陥ると、もはやそれまでの延長で事業を続けることが難しくなってしまいます。

   ならば、従業員を後継として育てればいいじゃないか、と思われる向きもあるかもしれませんが、それは口でいうほど簡単ではないのです。

   ひとつは、株式譲渡の問題。経営権を従業員に譲ろうとも、株式を前社長が持ち続けていたのでは、後継社長はどこまでも身分保障のない雇われの身。社長が亡くなって株式が相続され、相続人がもし他人に譲渡するようなことがあれば、新たな株主の意向次第で後継社長は有無を言わさずクビになるかもしれず、そんな不安定な社長のイスなど誰も座りたくないわけです。

   では、社長のイスを譲り受けると同時に、前社長の持ち株を買い取って、名実ともに実権を握ってしまえばいいのですが、それがまたたやすくはないのです。

   社長のイスを引き継いで、会社を継続させる価値がある企業であればあるほど、企業価値はそれなりにあるわけで、株式の買い取りにはそれ相応の資金が必要になるわけです。

   しかし、たとえ後継候補が社長の右腕の幹部社員であろうとも、一介のサラリーマンには変わりがないわけで、おいそれと株式を買い取る大金など手元にないのがふつうです。ならば、銀行がお貸ししますという流れもあるにはあるのですが、ウン千万円単位の借金を背負い込むのは、家族の反対にあうことも含めて高いハードルが存在するのです。

雇われ社長じゃ落ち着かない!

   よく耳にするもう一つの障壁は、それまでの会社の借入金に対する連帯保証人になるということ。

   創業家としてそれなりの成功を収めて創業者利益があるようなオーナー経営者やその跡取り経営者と違って、一介のサラリーマンが社長のイスに座るなら、万が一借入金が返済できなくなった時には自宅をはじめコツコツと築いた個人資産を売却してでも返済しなくてはいけなくなるわけで、それは自分が新たな借入をする以上に躊躇を迫られるもののようです。

   というわけで、社内で同族以外の後継者を探すというのは至難の技。そこで最近、俄然注目を集めているのが、M&Aによる事業譲渡です。

   この場合、事業譲渡によって事業は継続され、社員の雇用は守られるのですが、たいていは自社よりも少し規模の大きい、異なる地域の企業の傘下に入るということが多くなります。それにより、実質的に地元企業でなくなると同時に、資本が入れ替われば銀行取引は当然そちらの企業の取引銀行に移ることになります。

   すなわち、地元としては空洞化の進展を黙って見送る意外に、手の出しようがないというわけなのです。

   そうなると問題解決のポイントは、いかに同族の後継者をつくるかです。有識者会議の当日、出席した銀行、弁護士、税理士、社会保険労務士、コンサルタントなどの中小企業経営にかかわる人たちが口を揃えていたのは、「物理的な同族の後継不在の場合はやむなしとしても、同族に後継候補がいるのなら、廃業やM&Aに向けて動き始める前に血縁での事業継承の可能性について、もっともっと掘り下げるべきではないのか」ということでした。

   確かに、経営者から「息子たちはうちを継がないので、廃業するか買ってくれる先を探すかしたい」と結論ありきで周囲に持ちかけられた場合、銀行も士業やコンサルタントも後継の可能性が本当にゼロか否かを十分検証せずに話を進めてしまう傾向が強いように思います。

「社史」を作って、家族に読ませる

   社労士のHさんが、自身の経験から興味深い話をしてくれました。

「父は10人規模の小さな会社の経営者でした。私は弟と二人兄弟。父は仕事の話を息子たちにしない、後を継げなどとは絶対に言わないタイプだったので、家業は父の代で終わらせるつもりなのだろうと、私は社労士に弟は大企業の社員になりました。ところが父が入院することがあって、番頭さん役の古い社員から相談があったのです。『このまま社長が復帰できなかったら会社は終わり、社員は路頭に迷う』と。そんなことから親父を交えて兄弟であれこれ相談して、結論として弟が後継で入って私も役員として手伝うことになりました」

   Hさん兄弟が稼業継承を決断したキッカケの話に、血縁後継づくりのヒントがありました。

「じつは親父は密かに手書きの社史を作っていまして、それを読むとうちの会社は社会的存在意義もあって、大変やりがいのある会社だとわかったのです。僕ら兄弟は全然知らない事実でした。
クライアント先でも、後継となるべき息子や娘たちが、家業の真実をよく知らずに後を継がないと安易に決めているケースはじつに多いのです。そこで私はいずれ後継問題にぶち当たるであろう取引先経営者には、簡易版社史を作って家族に読ませましょうと進言して制作を手伝っています。社史というのは周年行事で作って読まれないものというイメージが強いですが、本当は事業承継にものすごく役立つツールだと思うのです。社史の役割の見直しが、血縁での事業承継促進の手助けになると信じてそんな活動を続けています」

   中小企業オーナー、なかでも創業者の社長は、プライドが高くワンマン、頑固などの要因から、自身が作ってきた事業の歴史について、家族には意外に無口で、そのことが本来の後継者を家業から遠ざけていることは確かにありそうです。

   血縁後継づくりには、まず家族に自社のことをよくよく理解させることが一番。社史という、一般的には陰の存在と思われがちなツールがじつは血縁後継づくりに役立つかもしれない。そんなHさんの経験談は、目からウロコの思いで聞かせていただきました。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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