2019年 6月 26日 (水)

食品ロス削減推進法成立、残るハードルはまだまだたくさんありそう(気になるビジネス本)

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   食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」を減らすことを目指す「食品ロスの削減の推進に関する法律案」が2019年5月24日の参院本会議で全会一致で可決、成立した。コンビニの季節商品が大量廃棄されていることが知られるようになり、国民のあいだで盛り上がった「もったいない」の声を受けて実現したものだ。

   食品と繊維製品の理不尽な処理を指摘した「大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実」(光文社)は、これに先駆けて出版されたタイムリーな一冊。それによると、問題の深刻さは法律ができたからと片付くようなものではなく、消費者は一層「もったいない」の声を強めることが求められている。

「大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実」(仲村和代、藤田さつき著)光文社
  • 食品ロス削減推進法が成立し「食べられるのに廃棄」の問題はあらたな段階に入った(写真はイメージ)
    食品ロス削減推進法が成立し「食べられるのに廃棄」の問題はあらたな段階に入った(写真はイメージ)

きっかけは東日本大震災

   食品ロスの問題を指摘し社会的な問題に引き上げたのは、ジャーナリストの井出留美さんだ。本書でも紙数を割いて、その活動などを紹介している。

   井出さんが食品ロスに取り組むようになったのは、2011年3月11日に起きた東日本大震災がきっかけ。同日は自身の誕生日でもあった。当時は外資系食品メーカーで社会貢献業務を担当していて、被災地への食料支援に従事。この際、食べ物が行き渡っていないにもかかわらず大量の支援食品が捨てられている状況を目の当たりにし、この経験に突き動かされたという。

   独立して事務所を開き、委託を受け日本初のフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」の広報業務を担い、その後、東京大学大学院の農学生命科学研究科で食品ロス問題を研究して修士(農学)を取得。著作活動や、ヤフーニュースなどでの記事配信で、問題への関心を促してきた。「食品ロス削減推進法」が成立した直後にもヤフーに寄稿。「ついにこの日が来た、という思いだ」などと歓迎の声をあげた。成立の時は参院本会議場の傍聴席にいたという。

節分当日に恵方巻が処理工場に

   井出さんはヤフーへの投稿で「強調しておきたいのは、法律はゴールではなく、スタートということだ。法律ができたから完璧、というわけでもない」と述べる。本書で報告されているような食品ロスの現実を知っていれば当然の発言だろうと肯いてしまう。

   本書の食品ロスのセクション「コンビニ・食品業界編」の冒頭で、廃棄食品を飼料化する工場の様子が描かれる。工場は井出さんから紹介を受けたものだ。著者の一人が訪れたのは昨年2月3日、節分の日の午後だ。その"当日"にもかかわらず、恵方巻の残骸や、その食材がいっぱいになった容器がもう並べられている。工場の関係者によれば、ふだんのご飯ものの2倍という。著者は腐臭などを覚悟して現場に赴いたが、せっかくの覚悟は肩透かしを受ける。まだ食べられるものだからそうした臭いがしないのは当然で、「ロス」を象徴するリポートだ。

   とくに恵方巻や、クリスマスケーキなどの季節商品で「ノルマ」に対する悲鳴が店舗やアルバイトらからあがるようになり、コンビニを舞台にして問題が注目された経緯がある。コンビニをめぐる食品ロスの問題は、恵方巻きやケーキなどだけではなく、弁当やおにぎりなど通常の食品にも共通のこと。原因となっているとみられるのは、店舗の仕入れで本部の利益が高まるようなっている「コンビニ会計」や、消費期限にまだ間があっても2~3時間前になるとレジでチェックできなくなる「販売期限」があるという。

   コンビニチェーンによっては、指摘されている食品ロス削減を狙い、消費期限が近くなった弁当やおにぎりの購入者にポイント還元の形で実質値引きする方針を打ち出している。

社会が変わらないと...

   食品ロス削減推進法は国が基本方針を策定し、都道府県や市町村がそれに基づき推進計画を策定する。実効性が分かるのはこれからだ。コンビニ側が消費期限について弁当の販売を柔軟化しても、コンビニ会計などの仕組みがそのままで大量廃棄も続きそうだ。削減をなお推進するには消費者の意識改革や、社会全体での取り組みが必要のようだ。

   本書では、あるコンビニオーナーの声として、こんな発言が紹介されている。

「おにぎりの棚が薄くなっている時、お客さんから『これだけしかないのか』と苦情をいわれたことがある。その人が買うのはどうせ一つか二つで、梅とおかかみたいなオーソドックスなものだとしても、『たくさんの中から選ぶ』ことが当たり前になっていて、それができないと不満を感じる消費者も少なからずいる。そういう消費者の気持ちを満たすために、廃棄が出ることがわかっていても、いつでも多くの選択肢を準備しておくことが必要になっている」

   こうした指摘とは対照的に、意識を高く持つ人もいるのだが、社会がそれに報いるようになっていない場合も。たとえば「ドギー・バッグ」だ。飲食店で食べ残した料理を包んでもらい持ち帰るもので米国では広く行われている。日本では、自宅でのトラブルの原因となることを店側が嫌がりハードルが高い。著者の一人は、4歳の長女と出かけた料理教室で持ち帰りにダメ出しを受け「自己責任で...」と食い下がったが、応じてもらえなかったと嘆いてみせた。

カウントされない田畑で廃棄の野菜、未利用魚

   農林水産省によると、2016年度に国内で廃棄された食品は約2759万トン。このうち、まだ食べられたもの約643万トンが含まれていた。本書によると日本では、需給調整として田畑で廃棄された農作物や、水揚げされても流通しない「未利用魚」が食品ロスにはカウントされていないという。農作物については量が把握されていないが、未利用魚は水揚げ全体の3割を占めるとされる。

   英仏など欧州各国では、出荷されなかった農産品などを調査したうえ、あるいは推計値として、その量を示し廃棄削減策を講じているという。著者らが農水省にただしたところ、同省からは「田畑の生産調整は、農業政策において生産性という観点で考えるべきだと考えている」との答えが寄せられた。

   法律ができたこれからは、行政の丁寧な取り組みが期待されている。

   著者の仲村和代さん、藤田さつきさんはともに朝日新聞記者。両記者は、朝日新聞が、NHK「クローズアップ現代」で長くキャスターを務めた国谷裕子さんと共同で立ち上げた「持続可能な開発目標」をめぐる企画に参加、食品ロスや服の大量廃棄を取材した。本書で国谷さんは解説を担当している。

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「大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実」
仲村和代、藤田さつき著
光文社
税別880円

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