2024年 4月 26日 (金)

「パンプス強制は業務上必要だ」根本厚労相の発言が大炎上! なぜ、あえて女性を敵に回したのか

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   女性に職場でのパンプスやハイヒールの着用強制をやめるように訴える運動が、「靴」と「苦痛」を掛け合わせた「#KuToo」のハッシュタグでインターネット上に広がっており、約2万人の署名と要望書が厚生労働省に提出されていた。

   この問題について、根本匠厚生労働相が2019年6月5日の衆院厚生労働委員会で、「社会通念に照らして業務上必要」と述べ、事実上容認する考えを示したことが、ネット上で炎上騒ぎを引き起こしている。「そこまで言うか!」「オッサン、履いてみなよ」という女性たちの怒りの声が多いが、なかには大臣に同情の声も......。

  • 女性たちを悩ませているハイヒール
    女性たちを悩ませているハイヒール
  • 女性たちを悩ませているハイヒール

メディアの報道が真っ二つに分かれた理由は?

   根本大臣の発言は、立憲民主党の尾辻かな子議員の質問に答えた際に飛び出したものだが、発言のニュアンスについて、翌日の主要メディアの報道は真っ二つに分かれた。

   見出しで「パンプス強制 厚労相容認」、あるいは「パンプス義務付け『業務上必要』厚労相容認」などと、根本大臣が「業務上必要だ」として肯定したことを強調したのが朝日新聞、産経新聞、共同通信だった。

   一方、「パンプス強制『パワハラの可能性も』」「職場のヒール着用『パワハラ』になりうる 厚労相」などと、むしろ「パワハラ」に言及。否定的な考えを示したように伝えたのが読売新聞、毎日新聞、NHKだった。

   こうもニュアンスに差があるのは、メディアの間で「発言の切り取り」が行なわれたからだろうか。いったいどちらが正しいのか、各紙の報道から厚労委員会での尾辻議員と根本大臣とのやり取りを要約すると、こうなる。

尾辻議員「職場の中でハイヒール・パンプスの着用が義務づけられていることについて、大臣の受け止めと、今後の対応を伺いたい」
根本大臣「労働者が働きやすい就業環境を整備することが大変重要だ。労働安全衛生の観点からは、腰痛や転倒事故に配慮して、服装や各事業上の対応が講じられるべきだ。それぞれの職場での判断だと思う」
尾辻議員「ハイヒール・パンプスが義務づけられる必要はあると思うか」
根本大臣「これは、社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲かと。ま、この辺なんだろうと思う。それぞれの業務の特性がありますから」
尾辻議員「ハイヒール・パンプスを履かなくてはいけない職場はないはずだ。労働安全衛生からも大臣は問題があると思うのか、思わないのか」
根本大臣「社会通念に照らして業務上必要かどうかは、社会慣習に関わることではないかと思う」
尾辻議員「大臣は男性だから厳しいので、(女性の)高階恵美子副大臣に伺いたい。ハイヒール・パンプス着用が義務付けられていることをどう思うか」
高階副大臣「強制されるものではないと思う」
尾辻議員「大臣もこれくらいの答弁をしてほしかった。足が痛い、外反母趾になる、転倒するのに会社に言えない。女性にのみ着用を求めるのはハラスメントに当たると思うが、大臣、いかがか」
根本大臣「社会通念上、業務上必要かつ相当な範囲を超えているかがポイントだと思う。そこでパワハラに当たるかどうかということだ。足をけがした労働者に必要もなく、着用を強制する場合などはパワハラに該当しうる......。」

「これだけ健康に悪い物を容認するって、どーよ」

   こうしてみると、明らかに発言の一部を切り取って見出しをつくったことがわかる。最後になって無理やり「パワハラ」という言葉を言わされた印象があるが、ネット上では、特に女性から「業務上必要」という発言に怒りが殺到した。「どれだけ足が痛いか、大臣、履いてみなさい!」という次の声に代表される。

「駅まで歩いて電車通勤して、階段上がって降りて、国会に出て、事務所に電車で帰って、夜の会合にもでて、電車と徒歩で家に帰る。このおじさん、これらすべてパンプスでやってみな。まる1年。それでも同じことが言えるかな?」
「この人が一度、パンプスの日常を経験したらいいよ。段差で足首グキッとやって、ピンヒールのかかとが側溝にハマって、その勢いで前につんのめって顔から着地したり、ヒールで階段を降りるのに引っ掛かって一番上から落っこちたり。全部私が経験したことだけどさ」
「かかとや足首、絶対悪くなる。私も昔はパンプス、特にピンヒール好きで履いていたけど、今、かかとや足首の重心が不安定で、ちゃんと立てていない。その影響で膝痛、腰痛から肩凝りに。足はすべての土台だから、歳取って後悔するよ」

   そして、これほど健康に悪い物を、国民の健康に責任がある厚生労働大臣が「容認」する姿勢こそ問題だという声が多かった。

「社会通念上と言うなら、明らかに健康に有害なものは、制服として認めるべきではない。健康や医療、公衆衛生を司る厚労省は、むしろ規制をかけるべき立場だ。女性のパンプスは、男性のネクタイや革靴と同様ではない。ネクタイは首が変形するほど締め付けたりしない。男の革靴は、紐等で調整可能だし、ソールとヒールは安定感のある構造。労災や医療費削減の観点からも、パンプス着用の慣行を見直すべきだと思う」

   こんな指摘もあった。

「パンプスは整形外科的に非常に体に悪い。外反母趾を引き起こし股関節にも悪く、多くの女性たちを苦しめている。もともと中世の時代に路上の犬の糞を踏まないように考案された靴だから、害悪でしかない。ミュージシャンのプリンスもパンプスで股関節を痛めたことがきっかけとなり、鎮痛剤の過剰投与が死因の一つとなった。はなはだ健康に悪い靴を容認するとは大麻よりひどい」

   また、「社会通念上必要な業務とは何か」という疑問の声が上がった。

「カンヌ映画祭で、ある女優さんが、ドレスコードに抗議してはだしで歩いていた。美しく見せることが仕事でもある女優ですらハイヒールの強制は嫌だという時代に、いったいどんな業種でハイヒールやパンプスが必要なの?」
「パンプスでないと客に失礼とか、そういう発想やめようよ。全然失礼じゃない」
「クールビズが当たり前の世の中になってきたのに、どうしてわざわざ蒸れる、パンプスやストッキングはそのままなの?」

「災害大国日本で、逃げにくい靴は死刑宣告と同じ」

   合理的に考えて、自由で働きやすい靴や服装にすべきだと提案する人が多い。

「公立学校の教員の方々の服装を校内でよく見るのは、男性はスーツまたはワイシャツとスラックスでスニーカー履き。女性はスーツまたはブラウスにスカートでスニーカー履き。ビジネスと教育の場で違いがあるのかもしれませんが、まったく変ではないし失礼だとも思いません。非常に健康的です」
「野球ならスパイク、スケートならスケートのように、機能的に定められているなら分かる。だが、パンプスには合理的な理由がない。それどころか、健康が阻害され、企業は労災扱いすることを前提にしなければならなくなる。パンプスを履くか、ローヒールを履くかで企業の売り上げが大きく左右されるという科学的根拠でもない限り、強制はマイナスのはずだ」

   また、パンプスやハイヒールには、もっと大きなマイナスがある。災害時には命の危険があると指摘する人が少なくない。

「そもそも災害がこれだけ多い国で、こんな逃げにくい靴を強制するなんて狂気だよ。死刑の宣告なの? 全力で逃げられないし、瓦礫の中を絶対進めない」
「人前に出る販売員はパンプスやハイヒールが必要だというけど、それでも地震やJアラートなどの有事の際は客を守って誘導しないとならない。ハイヒールなんて履いていたら足手まといだよ」

というわけだ。

「国に言うことじゃなくて、自分の会社に言うこと」

   ところで今回の論争、国会で野党が厚生労働大臣を問いただす問題だろうか、と根本大臣に同情する声もけっこう多かった。

「国に言うことじゃなくて、自分の会社に言うこと。民間企業の靴にまで政治が介入する方が怖い。労使交渉で決めればよいことだ」
「わざわざお上が強制するなということではない。本当に苦痛で業務に差しさわるなら、使用者と協議すべきで、各企業の事情に厚労省が介入すべきじゃない。男性だってスーツと革靴は楽じゃないが、TPOを考えて服装選択しているだけ。それが嫌なら服装が自由な企業を選択するしかない」
「パンプス問題は子供の制服や校則に共通するものがある。それらすべて動きやすさや機能性を最優先すれば通学靴、制服は無用になってしまう。大臣の言葉足らずが招いたことではあるが、社会通念上の身づくろいの一つがパンプス問題だと思う。大臣は、世論を巻き込んで問題化するのではなく、規則の変更は個々の学校や企業のなかで交渉すべき事を言いたかったのでは」

というのだ。

   ただ、国に積極介入してほしいという声があることも確かだ。

「私はパンプスでも普通の靴でもよいように、むしろ政府が口出ししてほしい。そうでもしてくれないと、企業は無意味なルールを変えてくれない。接客業で、何センチのヒールとかマニュアルに書いてあるチェーン店が結構あるのです」

   「お上」という外圧がないと、日本の企業は変わらないというあきらめがあるようだ。

(福田和郎)

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