2024年 4月 26日 (金)

米国の金融緩和「正気の沙汰でない」政策転換 ドルはダウントレンドへ(志摩力男)

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   米国が金融政策を転換する方針を明らかにしました。

   2019年6月19日(水)に行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米金融当局は予想以上にはっきりと政策の変更を打ち出してきました。

  • なぜ、米国は金融緩和へ舵を切るのか!? それは……
    なぜ、米国は金融緩和へ舵を切るのか!? それは……
  • なぜ、米国は金融緩和へ舵を切るのか!? それは……

失業率は史上最低、株価は史上最高レベル

   まず、声明文において、これまで政策維持のキーワードとして使われてきた「忍耐強く」という文言が削除され、「(景気拡大を維持するために)適切に行動する」という文言が挿入されました。

   これは、6月4日の講演でパウエル議長が使った言葉と同じで、このような言い回しをした場合、その次のFOMCで政策変更を行うケースが、過去に多く見られました。

   次に、政策の先行きを示す「ドットチャート」において、8人もの理事が年内の利下げを予想したことです。3月のドットチャートでは、誰一人として利下げ予想がいなかったことを考えると、わずか3か月で大きな変化です。しかも、今回は0.25%の利下げを主張する理事(ブラード・セントルイス連銀総裁)まで現れました。

   こうした変化を受けて、市場の7月のFOMCにおける利下げ確率は現時点で100%です。0.25%か、それとも一気に0.5%利下げするか、それだけの違いになっています。昨年12月に利上げした頃には、2019年は3回利上げし、2020年にもう1回というのがコンセンサスだったことを考えると、大きな変化です。

   しかし、客観的事実として米国経済は好調です。失業率は3.6%と史上最低レベル、株価は史上最高値近辺でトレードされています。こうした環境下で金融緩和に舵を切ることは、かつてないことであり、従来の常識で言えば「正気の沙汰」ではありません。

政策転換の陰にあの男が......

   なぜ、このタイミングでの政策転換なのか――。パウエル議長やクラリダ副議長らの考えでは、インフレ圧力が想定以上に低く、こうした環境下では、実際に弱い経済指標が出てきてからでは遅すぎで、予防的(Preemptive) に利下げすることが望ましいという理論武装です。

   そうした考えに大きな異議があるわけではないですが、やはりそこには、トランプ大統領の影響を感じずにはいられません。大統領がトランプ氏でなかったら、ここまで積極的に政策転換しないでしょう。

   トランプ大統領には、ドルを押し下げたいという思いがあるようです。それは事あるごとに、ドルのレベルが高いとツィートすることでもわかりますが、何より彼の信奉するレーガン大統領が、任期の最後にプラザ合意で大きくドルを押し下げ、米経済を復活させたという経緯もあるからでしょう。

   実際、プラザ合意後の米ダウ平均株価は、ドル下落、金利低下に支えられ1400ドル前後からブラックマンデー直前の2700ドル台へと、わずか2年あまりの期間で倍増しました。

   米国大統領の権限は強大です。トランプ氏はその力を遺憾なく発揮させようとしています。政権内に、彼に対して意見する人はいません。その一方で、FRBの独立性は大きく毀損されました。

   FRB議長が何度も任期について質問されるのは異様ですし、またそのたびに「残りの任期をまっとうするつもりだ」と聞くのも、なんとも情けない情景です。トランプ氏は、何もわからずワシントンに来ましたが、内政も外交も掌握し、ついには権限を超えて金融政策まで支配下に置いた感じに見えます。

   吉と出るか凶と出るか、わかりませんが、トランプ政権は金融緩和でドルを押し下げ、金やビットコインといったものも含め、あらゆる値段を持ち上げようとしているように感じます。

   このドル下落トレンドは始まったばかり。相当深いドル安がこれから始まる可能性があります。(志摩力男)

志摩力男(しま・りきお)
トレーダー
慶応大学経済学部卒。ゴールドマン・サックス、ドイツ証券など大手金融機関でプロップトレーダー、その後香港でマクロヘッジファンドマネジャー。独立後も、世界各地の有力トレーダーと交流し、現役トレーダーとして活躍中。
最近はトレーディング以外にも、メルマガやセミナー、講演会などで個人投資家をサポートする活動を開始。週刊東洋経済やマネーポストなど、ビジネス・マネー関連メディアにも寄稿する。
公式サイトはこちら
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