2019年 12月 14日 (土)

【IEEIだより】福島レポート 災害時の混乱と「法」の遵守 災害と医学研究 災害時の情報収集と法律・ガイドライン(2-3)

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   災害時には予期せぬ出来事が起こります。たとえ、それを想定しながら、患者さんや住民の情報提供のルールが定められていたとしても、「いざ」という時に、そのルールに従うことは難しいといえるのではないでしょうか。

   「災害と医学研究」災害時の情報収集と法律・ガイドラインの3回目。災害時の個人情報と法律やルールのあり方を考えてみました。

  • 災害時には予期せぬことが起きる(写真は、双葉北小学校。越智小枝氏の提供)
    災害時には予期せぬことが起きる(写真は、双葉北小学校。越智小枝氏の提供)

病院が収集する行政データ

   病院で収集しているデータで誤解されやすいのが、そのデータの取り扱いを必ずしも病院が決めているわけではない、ということです。

   福島県では甲状腺検査やホールボディーカウンターの検査のほとんどは病院で行われます。しかしこれは県の検査であり、病院の診療録とは異なった方法で保管されています。これらの記録を研究者が利用する場合には、行政がこれを匿名化するか、あるいは学術研究目的であることを判断したうえで大学などに提供することになります。

   県民健康調査の結果については大学の研究者が論文に書くことが多いため、論文を書いた方々が「名誉目的にデータを集めている」というような誹りを受ける場面を時折見かけます。

   しかし、これらのデータは収集した自治体側の手続きにより、研究者に第三者提供を行ったものです。研究者が勝手に収集した、流用している、というものではない、ということは、多くの方に知っていただきたいな、と思います。

   これらのデータ提供につき、少しわかりにくいので、図に示します。

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倫理審査委員会の問題点

   患者さんの情報を集める場合には、

(1)その情報に含まれる患者さん全員に同意を得る(オプトイン)
(2)その患者さんであることがわからないような、しっかりとした処理(匿名加工)を施す
(3)患者さんに通知をして、データ提供を拒否されなければデータを提供できる(オプトアウト)

の、どの方法を取るべきか、研究者が各施設の倫理委員会に申請し、その倫理委員会で承認を受ける必要があります。

   しかし、読んでいただければわかるように、法や指針には曖昧な文言も多く、人よって解釈が大きく異なります。

   また、倫理審査委員会の委員は、必ずしも法律の専門家ではありません。その結果、同じ研究計画でもある施設の倫理審査では承認される別の施設では承認されない、などということが、頻回に起こるのです。

   特に被災地では臨床研究の経験の少ない施設や自治体も多いですから、倫理審査の議論が紛糾することが多かったようです。またそれ以前に倫理委員会の設置そのものが難しいことすらありました。たとえば避難所で診療を行った診療録を保管方法が定まらない、どの倫理委員会に申請すればよいかわからない、などの理由で研究者に提供することができないという事例も、少なからず存在します。

   また、福島においては、情報提供に慎重にならざるを得ない場面も多かったと思います。たとえばある大学にデータを提供することで、「御用学者に味方している」といった批判を受けるのでは、という懸念です。

   このため倫理審査委員会が承認に対して慎重になる、という場面も見受けられました。これは決して倫理とは言い切れない観点ですが、自施設の運営を守る、という点ではやむを得ない判断であったかもしれません。

 

   これは倫理審査委員会が多くの場合自施設内に設けられている、という問題点もあると思います。自施設の申請につき本当に客観的な判断ができるのか。あるいは、倫理以外の判断根拠がしばしば混在してしまうのではないか。承認した結果生じ得る問題の責任の押し付け合いになってしまわないか。そのような問題を解決するためには、倫理審査委員会の在り方もまた検討されるべきなのかもしれません。

「災害と法」平時から必要な住民との議論

法律だけに囚われると見失うこともある(写真は、福島県双葉町周辺
法律だけに囚われると見失うこともある(写真は、福島県双葉町周辺

   このように、医学研究における個人情報の取り扱いルールにつき、非常に簡略化して説明しました。それでも初めて目にする方にとってはそれなりに複雑と感じられたのではないでしょうか。

   災害という混乱のなか、医学研究に詳しくない自治体や医療以外の専門家が、このルールのすべてを即座に理解しなければならなかった、という点を、私たちは改めて考える必要があると思います。

   「そんなルールも知らない人間が個人情報を扱うべきではない」

   そういう批判もあるでしょう。しかし、繰り返しますが、災害時に人々がどのような苦難に直面し、どのような健康被害を受けたのか。その情報は、現場にいる人間によって即座に収集されなくてはなりません。

   もちろん、災害という特殊な事態だからといって、個人の尊厳が軽視されるべきではありませんし、個人情報が保護されなくてもいい、という話にはなりません。ただ、災害という混乱の中で、このルールの遵守はこれから先も求められ続けるものなのでしょうか。そして、手続き上の過ちは、過去に遡ってまで糾弾され続けるべきものなのでしょうか。

   もう一つ懸念することは、法律の話ばかりすることで、災害時の情報セキュリティについての議論はおざなりになってしまうことです。そして、読んでいただければわかるように、法や指針に従ったとしても、それは必ずしも情報漏洩を防止できるものではありません。

   個人情報保護における世間一般の誤解は、この法に則るか否かと、情報漏洩のリスクの有無が混同されてしまっていることではないかと思います。

   このような災害時の個人情報と法のあり方につき、平時から住民の方々と議論が必要ではないか、というのが私の意見です。そのうえで、自治体、研究者、法律関係者、官僚のあいだで、明確なルール作りがなされるべきではないかと思っています。(越智小枝)

越智 小枝(おち・さえ)
越智 小枝(おち・さえ)
1999年、東京医科歯科大学医学部卒。東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科。東京都立墨東病院での臨床経験を通じて公衆衛生に興味を持ち、2011年10月よりインペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院に進学。留学決定直後に東京で東日本大震災を経験したことで災害公衆衛生に興味を持ち、相馬市の仮設健診などの活動を手伝いつつ世界保健機関(WHO)や英国のPublic Health Englandで研修を積んだ。2013年11月より相馬中央病院勤務。2017年4月より相馬中央病院非常勤医を勤めつつ東京慈恵会医科大学に勤務。
国際環境経済研究所(IEEI)http://ieei.or.jp/
2011年設立。人類共通の課題である環境と経済の両立に同じ思いを持つ幅広い分野の人たちが集まり、インターネットやイベント、地域での学校教育活動などを通じて情報を発信することや、国内外の政策などへの意見集約や提言を行うほか、自治体への協力、ひいては途上国など海外への技術移転などにも寄与する。
地球温暖化対策への羅針盤となり、人と自然の調和が取れた環境社会づくりに貢献することを目指す。理事長は、小谷勝彦氏。
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