2024年 4月 20日 (土)

富士フイルムやソニーにあった生き延びる「力」とは......(気になるビジネス本)

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取引コストを節約

   しかし著者によれば、じつは日本の企業には潜在的に「ダイナミック・ケイパビリティ」が備わっているという。本書では、富士フイルムなどを例に「ダイナミック・ケイパビリティ」をもたなかったライバル企業をしり目に、優位さを発揮した例が示されている。

   富士フイルムが示した「ダイナミック・ケイパビリティ」は「既存技術の転用を可能にする」こと。デジタルカメラの急速の進化で、写真フィルムはビジネスとして先がないことは早いうちから予想された。それが現実となってからも富士フイルムがなお健在なのは、デジタル化を見越したイメージング・ソリューション部門や、写真技術を生かした医療・ヘルスケア部門への多角化戦略を実行して成功させたからだ。

   明らかに現状が非効率的な状態で、これをより効率的、正しい状態へ改革しようとすると、現状で利益を得ている多くの既得権者たちを説得する必要があり、その交渉・取引コストは非常に大きいものとなる―と著者はいう。当時の富士フイルムでは、経営側が、社員と危機を共有するため、あえてオープンな方法で悪化一方の現況を開示。これにより、従業員は危機感を持ち、このため、変革に伴う従業員との取引コストは大きく節約されたという。

   一方、同じく世界的フィルムメーカーだったコダックは、デジタルカメラへの関心が高まり大改革に必要に迫られていた1990年代になっても、株主の利益が減ることになる完全なデジタル路線への移行に踏み切れないまま。だが、コダックの経営陣が無知で非合理的だったわけではなく「株主利益最大化原理にもとづいて、まじめに合理的に経営していた」。「ダイナミック・ケイパビリティ」を持たなかったために後退してしまったのだ、と説いている。

   「ダイナミック・ケイパビリティ」の成功例の検討は、この富士フイルムと、プレイステーションでゲーム機市場に参入したソニー、世界のファスナー市場で追いすがる中国メーカーを振り切ったYKKが対象だった。「ダイナミック・ケイパビリティ」研究は、現代でもてはやされている「オープン・イノベーション」よりも古いという。理論がやや難解なだけに、もういくつかの成功例が読みたかった印象もある。

「成功する日本企業には『共通の本質』がある 『ダイナミック・ケイパビリティ』の経営学」
菊澤研宗著
朝日新聞出版
税別1600円

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