2019年 8月 21日 (水)

高齢ドライバー事故のもう一つの視点 課題は高齢者が生活に困らない街づくり(鷲尾香一)

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   驚きのニュース映像だった。

   鉄柱に衝突している白のベンツが、それでも前進しようとして後輪が空回りして白煙を上げている。やがて、クルマはバックをし、鉄柱を避けて少し前進して止まった。2019年7月24日16時頃、東京・JR池袋駅前の交差点での出来事だ。

  • 高齢者の生活にクルマは必需品か?
    高齢者の生活にクルマは必需品か?

高齢化とともに増える死亡事故

   白のベンツを運転していたのは、73歳の男性。警視庁によると、男性の運転するクルマが、近くで一時停止違反をしたため、呼び止めたところ、突然急発進した。クルマは信号機をなぎ倒し、歩道に乗り上げて鉄柱に激突して止まった。それでも、男性はクルマを動かそうとしたのだろうか、冒頭のシーンとなった。

   現場は繁華街・池袋の駅前で多くの人通りがあったが、幸い歩行者にケガはなかった。運転をしていた男性はその後、救急車により病院に搬送されたが、ケガの程度は軽いという。警視庁は、男性がブレーキとアクセルを踏み間違えたと見て、事故原因を調べている。

   今年4月には、同じ池袋で高齢男性が運転するクルマの暴走により、12人の死傷者が出る悲惨な事故があっただけに、現場は一時騒然となった。

   また、高齢者の運転による事故が起きてしまった。再び、高齢者の運転免許証の自主返納運動が巻き起こることになるのだろうか――。

   警察庁の「2018年における交通死亡事故の特徴等について」によると、免許保有人口10万人あたりの死亡事故発生数は、高齢化とともに増加する。75歳未満では3.4件なのに対して、75歳以上では8.2件に、80歳以上では11.1件となる。

   高齢者に対しては、71歳以上は免許の有効期限が短縮され、免許更新時に70歳以上は高齢者講習の受講が義務付けられ、75歳以上は認知機能検査を受けることも義務付けられている。

   もし、認知機能検査の結果、認知機能の低下が認められれば、専門医の受診が必要となり、結果次第では、運転免許証の停止・取消となることがある。

「クルマがないと生活できない」高齢者の存在

   クルマによる高齢者の交通事故を減らそうと、免許更新時の講習や認知機能検査のほか、運転免許証の自主返納(申請による免許取消)が進められていることは、よく知られているところ。2019年4月の池袋での高齢男性の暴走事故で12人の死傷者が出た事件後は、確かに運転免許証の自主返納が増加した。

   とはいえ、調査資料によると2018年に運転免許を自主返納したのは42.1万人で、75歳以上は免許保有者の5%程度にとどまる。

   免許を自主返納した際に発行される運転経歴証明書は、正式な身分証明書として使用できるほか、全国の自治体では、この証明書での公共交通機関の運賃の割引利用や、協賛する企業との施設の利用料金や商品、サービスの割引が受けられるようになっている。それでも、運転免許証の自主返納が急激に増加する兆しはない。

   運転免許証の自主返納の話題が出るたびに、「クルマがないと生活できない高齢者がいる」ことが取り上げられ、一概に高齢者がクルマを運転することを禁止することはできないという結論めいた話になる。

   確かに、75歳以上の高齢者の運転免許証の自主返納率は、東京都が8.0%で最高で、茨城県が3.7%で最低だ。さまざまな理由からクルマの運転をやめられない高齢者も多くいるのだろう。

   そのうえ、クルマの運転をやめて、たとえば徒歩や自転車での外出に切り替えたとしても、高齢者にとってクルマを運転することよりも安全かと言えば、そうではない。

   歩行者や自転車運転中の65歳以上の高齢者の死亡事故は、高齢者以外の死亡事故のおおよそ倍に上る。高齢者にとっては、運転免許の自主返納は結果的に、自分を危険にさらす交通手段を選択することにもなりかねない。

   それでも、高齢者の運転が他人をも巻き込む大きな事故を引き起こすケースが増加しているのだから、何らかの対策を取らなければならないのだろう。しかし、対処療法的な対策ではなく、国を挙げて、高齢者が生活に困らない街づくりから考えていく必要があるのではないだろうか。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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