2024年 4月 20日 (土)

組織が「ブラック」に突っ走るリスクは時代を問わず 「日本軍」に学ぶ経営マネジメントのヒント(大関暁夫)

   毎年、夏の暑い盛りが近づいてくると、反戦の意を込めた第二次世界大戦に関するテレビ番組などが組まれるようになります。

   私は毎年この時期は、そのようなテレビ番組を録画して観たり、同時にそれに誘われるように大戦に関する組織運営マネジメントの書籍を読んだりするのが常となっています。

   今年(2019年)は加えて、戦艦大和の建造を題材にしたフィクション映画「アルキメデスの大戦」が、8月15日を前に公開されました。

  • 「日本軍」の失敗から学ぶことは少なくない(写真は、激戦地の一つ「硫黄島」)
    「日本軍」の失敗から学ぶことは少なくない(写真は、激戦地の一つ「硫黄島」)
  • 「日本軍」の失敗から学ぶことは少なくない(写真は、激戦地の一つ「硫黄島」)

経営者が「大戦の戦略的失敗」から学ぶことは自然な流れ

   映画「アルキメデスの大戦」ですが、私は原作の存在(三田紀房氏による漫画です)も知らぬままに鑑賞しましたが、第二次大戦に向かう日本が万が一、不毛な戦争にますますのめり込むような事態に陥った時に、国家や国民を戦争に突き進む気持ちから目覚めさせるために「戦艦大和」が作られたのだという歴史パラドクス的な主張が込められた作品でした。

   これに、企業経営におけるブラック経営に突っ走るリスクからの回避ヒントを垣間見たように思えました。

   このような軍国主義時代の失敗マネジメントに言及する映画が作られるようになった背景には、戦後70年超の年月を数える中で、近年、国内外のさまざまな戦時機密資料が公開されるに至ったことがあります。

   個々の戦時戦略失敗の根本理由や日本陸海軍の組織運営上の過ちを学術的に分析し、組織マネジメントへの応用を示唆するような書籍が多く出版されるようになってきたという流れがあります。

   そもそも「戦略」という言葉は、今はごく当たり前のように企業マネジメントで使われているものの、これは戦争の攻略手段の策定に由来しているものです。経営者が大戦における日本の戦略的失敗から何かを学ぶということは、ごく自然な流れでもあると言えるのです。

   そのような書籍の代表作としては、「失敗の本質~日本軍の組織論的研究」(戸部良一著ほか、中公文庫)や「組織は合理的に失敗する」(菊澤軒宗著、日経ビジネス文庫)などが挙げられます。

   どちらも日本軍が壊滅的な打撃を受けた太平洋戦線のガダルカナル作戦やインド、ビルマ戦線におけるインパール作戦など、大戦そのものの雌雄を決定づけた主力戦の敗因を、マネジメント的観点や組織論的観点から分析した名著です。

ガダルカナル、インパール作戦にみる「大失敗」

   たとえば、ガダルカナル作戦でいえば、その失敗要因は(1)米軍との比較上情報戦で圧倒的に負けていたこと(2)日本軍は小出しな兵力の投入で最終的には米軍以上の兵力を投入しながら連戦連敗を繰り返したこと(3)海軍と陸軍の共同作戦であったにも関わらず意思の疎通がなく、その効果がまったく見出せなかったこと―― が挙げられています。

   これらの敗因分析を企業戦略の場面に当てはめるなら、以下のとおりとなります。

(1) 市場情報を事前調査することなく新たなマーケットに進出し、マーケットを熟知したライバル企業に完敗を繰り返すこと
(2) 社運を賭けた新規事業でありながら、様子見の小出し投資の繰り返しで大きな効果を見出せず、結果的に累積で大きな損失を生み事業撤退を余儀なくされること
(3) 社内の技術部門と営業部門のコミュニケーション不足により事業連携が悪く、お互いがそれぞれの立場での主張を譲らず顧客優先姿勢が崩れている間に競合先にビジネスを奪われてしまうこと

に相当するでしょう。

   一方、3万人もの戦死者を出し日本軍の敗戦の中でも凄惨を極めたといわれるインパール作戦の敗因は、(1)そもそも現場の実情を把握してない大本営が作戦の可否を決めかね、あいまいな態度を続けたことで、それまでにかけた高いコストの目をつぶれず、作戦実行に関して一見合理性があるかの如く思え作戦を決行してしまったこと(2)作戦強行を主張する現場指揮官と大本営作戦参謀が懇意で、作戦決行決定には私情が入り込んで客観性を欠いていたこと(3)さらに、これはガダルカナル作戦にも当てはまる重大な敗因としてもあげられそうですが、万が一作戦が思惑どおりにいかなかった時の戦略オプションであるコンテンジェンシー・プランの用意がなかったということ――が挙げられています。

   インパール作戦の敗因もまた、それぞれを企業戦略の場面に置き換えるならば、

(1) 過去の事業投資コストに目をつぶることができず、赤字事業に糞切りがつかずに傷口を広げることになってしまうこと。
(2) 経営者が事業展開などの重大決断において、進言者・発案者への個人的温情を斟酌してその可否を判断し正否判断の精度が鈍ること。
(3) 戦略検討時に欠けていたコンテンジェンシー・プランの策定は、今や大企業においては戦略策定の常識になっている戦略遂行上不可欠な大切な要素であるということ

と言えるでしょう。

   このように、日本軍の第二次世界大戦において失敗を繰り返した主要作戦の敗因からは、企業マネジメントの立場から学ぶことは山盛りなのです。終戦記念日を含むお盆休みの期間に、戦争という過ちを二度と繰り返してはならないという決意を新たにしつつ、敗戦からマネジメントのヒントを学ぶ機会としてみてはいかがでしょうか。

   ちなみに、私はこのお盆期間に、「満鉄全史」(加藤聖文著、講談社学術文庫)と「なぜ日本陸海軍は共に戦えなかったのか」(藤井非三四著、光人社NF文庫)を、新たに読みすすめているところです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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