2024年 4月 20日 (土)

【日韓経済戦争】サムスントップ李副会長、再び実刑か 「キーマン」失いお先真っ暗?

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   韓国の大法院(最高裁)は2019年8月29日、朴槿恵(パク・クネ)前大統領への贈収賄事件にからみ、二審で懲役2年6か月、執行猶予4年の判決を受けたサムスングループ経営トップの李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長(51)の二審判決を破棄し、審理を高裁に差し戻すよう命じた。

   大法院の判断では、李副会長の贈賄額が二審より大幅に増えており、実刑判決が出る可能性が高いと韓国メディアは一斉に報じている。

   日韓経済戦争が激化の一途をたどるなか、李副会長が収監されたら、サムスンはどうなるのか、韓国と日本の経済はどうなるのだろうか。韓国紙から読み解くと――。

  • 李在鎔副会長の執行猶予破棄判決を報じる聯合ニュース(2019年8月29日付)
    李在鎔副会長の執行猶予破棄判決を報じる聯合ニュース(2019年8月29日付)
  • 李在鎔副会長の執行猶予破棄判決を報じる聯合ニュース(2019年8月29日付)

高校1年からグループ企業視察の帝王教育

   李副会長はサムスングループ創業者の孫で、父親の李健煕(イ・ゴンヒ)会長に名門・景福高校1年の時からみっちり帝王学を受けてきた。

   夏休みなどの長期休暇ごとにグループ傘下の企業や工場を訪問、沿革から生産システム、労務管理にいたるまで徹底したブリーフィングを受けた。高校生が、1回数時間にも及ぶ説明を受けるのは並大抵のことではないが、嫌がるそぶりを見せず、じっと聞いていたという。時には役員会に出ることもあったといわれる。

   ソウル大学東洋史学科を卒業後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科に留学、ハーバード・ビジネススクール博士課程を修了している。英語に加え、日本語も堪能だ。日本の取引先からは「御曹司らしく、人当たりが柔らかで礼儀正しい」という評価を得ており、日本の人脈も分厚い。

   2001年サムスン電子に入社後、10年で経営企画チームの常務補となり、グループの経営に参画、2012年に副会長となり、ナンバー2になった。しかし、李健煕会長が2014年に心筋梗塞で倒れて寝たきりになって以来、事実上のトップとしてグループを指揮してきた。

   2017年に朴槿恵前大統領への贈賄事件の一審で有罪になった時は、約7か月拘置されている。日本の企業では考えられないことだが、重大な経営判断を下す時は、グループの役員が常に拘置所を訪れ、李副会長の指示を仰いだといわれる。

韓国政財界が右往左往するなか、日本に長期滞在情報収集

   2019年7月初め、日韓経済戦争が勃発すると、李副会長はすぐさま日本に飛び、6日間にわたって多くの日本の財界・金融関係者と会ってさまざまな意見交換を行ない、日本政府の出方を探っている。その時の様子を、中央日報(2019年7月15日付)「日本から帰国のサムスン副会長『半導体だけでなくテレビとスマホも非常計画必要』」は、こう伝えている。

「『緊急な半導体だけでなく、長期的にテレビとスマートフォンまで含んだ非常計画が必要だ』。李副会長が日本から帰国した直後に招集した緊急社長団会議で出した注文だ。6日間の日本出張を終えた李副会長の最初のメッセージが長期戦に備えた非常計画策定ということだ」

   他の韓国財界人や政界人が右往左往するなかで、李副会長は官民合わせて最も長く日本に滞在した要人だ。多くの日本の財界人から情報収集をした結果、日本の輸出規制にともなう影響は半導体とディスプレーにとどまらず、スマートフォンと家電などにも拡大する可能性があると判断した。そして、グループ内の各セクションに「すぐにコンティンジェンシープラン(非常計画)をまとめよ」と指示したのだった。

「さらに、李副会長は輸出規制と関連しても『日本問題が解決されないかもしれないという最悪のシナリオを仮定して対応すべきだ。代替材発掘、海外工場を通じた迂回輸出、取引先多角化、国内素材産業育成案を検討せよ』と求めた。李副会長はまた『日本から供給された素材の調達先をロシアと台湾、中国などに多角化し、ロシアのフッ化水素品質も評価してみよ』と注文した」

自ら各国を回り、「日本対策」はほぼ終えていた

   こうした矢継ぎ早の指示を出す一方、自らもヨーロッパなど各国に飛んだ。その結果、ほぼ1か月後の8月中旬には、日本の輸出規制に対する対策は打ち終えるほどにまでなったという。

   中央日報(8月12日付)「ベルギーで素材を確保したが...『サムスンの本当の危機は新事業模索の中断』」がこう伝えている。

「サムスン電子の李副会長が現場経営に入り、サムスン電子は日本の輸出規制の影響から安定を取り戻す雰囲気だ。しかしサムスン内部では『根本的危機』に対する不安感が高まっている。李副会長は最近相次いだ社長団会議で、グローバルIT業界の構図変化の中で、未来の投資について懸念を強く表した。日本の輸出統制への対応策も重要だが、新しい成長動力の発掘と投資で遅れを取るかもしれないという危機感が強い」
「日本発の半導体・ディスプレー素材輸出規制はひとまず対応したという評価だ。サムスン電子はベルギーなどから6~10か月分の在庫を確保し、日本の規制拡大基調の中でもひとまず安堵した。問題はサムスン電子の未来の事業だ」

   つまり、日本の輸出規制問題はベルギーなどからの供給でしのぐ体制ができており、もっとサムスンの未来を見据えた、次世代人工知能(AI)サービス、第6世代(6G)移動通信、ブロックチェーンなど新事業の発掘と投資に比重を移さなくてはならないというのだ。李副会長にとって、「日本対策」は片手間に過ぎなかったようだ。

   「財閥中の財閥」といわれるサムスン電子は、たった一人の司令塔・李副会長のトップダウンで動く。李副会長が再び拘置される事態になったらサムスンは、あるいはサムスンが牽引しているとされる韓国経済はどうなるのか。じつは、サムスンの経営状態は「日本問題」が起こる前から決してよくなかったのだ。

トランプと文在寅、二人の巨大権力との戦いは?

   朝鮮日報(8月28日付「29日に李副会長判決、サムスン電子『運命の1週間』」は、今後の問題点をこう指摘する。

「29日に予定される大法院判決は、会社の司令塔の運命を左右する。財界関係者は『李副会長はサムスン電子の理事(取締役)であると同時に副会長であり、事実上経営の求心点の役割を果たしている』としたうえで、『そんな李副会長の拘束可能性はサムスンとしては経営上最悪の不確実性だ』と指摘した。同関係者は『専門経営陣が数兆ウォン規模の思い切った投資や合併・買収(M&A)といった決定を下すのは難しいのではないか』とも話した」

   なぜなら、サムスン電子の業績が悪化しているからだ。メモリー半導体の価格下落による半導体景気の低迷が長期化し、スマートフォン部門も以前ほどではない。サムスン電子の今年上半期の営業利益は12兆8300億ウォン(約1兆1200億円)で、前年同期(30兆5100億ウォン)の半分にも満たない。従業員に支給される成果給も大幅に減少が見込まれる。最近、従業員に来年初めに支給する成果給が今年初めの支給分の半額程度になるとの見通しを示した。

   それに加え、もう一つの悪材料がある。

「トランプ米大統領は最近、サムスン電子を名指しで、『サムスンは関税を払わないが、アップルは払っている』と露骨に圧力を加えている。サムスンバイオロジクスの粉飾会計に関する裁判、労組瓦解行為に関する裁判も控えている」

   サムスンバイオロジクスの粉飾会計とは、グループの医薬品受託製造大手の粉飾会計疑惑だが、朴槿恵(パク・クネ)前政権下で認められた会計処理方法が、「財閥打倒」を掲げる文在寅(ムン・ジェイン)政権に代わり、不適切として刑事告発された事件だ。

   サムスンは、トランプ米大統領と文在寅大統領という、二人の巨大権力と戦わなくてはならない時期に、たった一人の司令塔を失うことになるのか――。

(福田和郎)

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