2019年 11月 20日 (水)

年間2万人の患者が来院、医師の妻が育てた病院ビジネスの手法

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   駅前に新たに整備されたビルにはたいていクリニックが入っている。「集患」効果を上げるため診療科目が異なる複数の場合もある。一つの建物にさまざまなクリニックと薬局が入る医療モールも増えている。現代的な医療ビジネスのスタイルの一つだ。

   それをよしとせず、独自にビジネス手法を学び、徹底したマーケティングなどで人気クリニックを作り上げ、その舞台裏を明かして注目を集めているのが、医師の妻が綴った一冊だ。

「医師の妻がノウハウ0から人気クリニックを作り上げた 業界の常識にとらわれない経営」(鈴木恵子著)クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
  • 医療施設の30%は赤字…… ビジネス手法が必要だ
    医療施設の30%は赤字…… ビジネス手法が必要だ

夫の開業を機に経営者に

   著者の鈴木恵子さんは、静岡県の眼科クリニック事務長。短大卒業後、保険会社に勤務。その後、米国留学を経て25歳のときに眼科医の夫と結婚した。本書は、17年前の夫の開業にともない事務長としてその全般に携わり、人気クリニックに育てあげるまでを振り返った。

   「非常識なことばかり」という「医療業界の常識」に立ち向かい、開業当初は1日数十人だった患者数が、年間2万3000人に至るまでの奮闘が語られる。

   「医は仁術」という江戸時代から用いられている格言をもじって、いまでもたまに「医は算術」などと言われることがある。もっとも現代では、少し前と使われ方が変わっていて、高度化、高額化した医療機器の購入が病院経営に大きく影響することなどを指していうらしい。いずれにしても、医療におけるビジネス重視を皮肉ったものだが、本書によれば、たいていの医師は「算術」や経営、ビジネスには疎い存在という。

   だから医師の開業となると、ほとんどの場合、一般的なビジネスの起業とは異なり「人まかせ」。開業コンサルタントへ丸投げし、重要な判断も医師自身が行わず、製薬会社や医療機器販売会社が代役するのが慣例になっているという。

   コンサルタントは、どこかの医師のちょっとした開業意思、開業計画の話しを聞きつけるとセールスに訪れ、医療モールでの開業を勧誘する。内装も設備も用意されたパターンから選ぶようになっており「半年で開業」がセールスポイント。つまり、勤務医などの現職の仕事をぎりぎりまで続け、シームレスな開業につなげられることがウリらしい。「それが本当なら、非常識なことではないかしら」と著者は思っていたという。

6割を超える病院が赤字

   著者や夫が開業を目指したのは、培った診療スキルで思い切り勝負をし、患者一人ひとりにじっくり向き合い地域医療に貢献しようと考えたことがまず一つ。そして、努力に見合った豊かな収入を得ることや、多院展開してビジネスとして大きな成功を果たすことを考えていたからだ。

   「人まかせ」にして開業にこぎつけても、その後の経営は、医師やその家族らなどで行わなければならないが、その段になって、勤務医時代に分からなかった「開業医が背負うリスク」がどっと襲い掛かりマネジメントしきれずに休診に追い込まれるケースも少なくない。

   代表的なリスクはスタッフをめぐるトラブルという。スタッフ同士の間で、スタッフと医師との間でさまざまないざこざが発生する。それがこじれて「スタッフが急に退職してしまうケースは頻繁に耳にする」と著者。診療に忙しい医師はスタッフの穴を手当てすることもままならず、残ったスタッフには無理な業務が強いられる。このことがまた新たなトラブルのタネとなり、残ったスタッフもいなくなるという事態にもつながりかねない。

   スタッフをめぐるトラブルばかりでなく、患者の来院が思うように伸びないなどカベに当たっても、ビジネスに疎い医師ではなかなか妙案を出せずに経営は悪化の道に。本書で引用されている2015年公表の民間調査会社データによると、調査した2万5179の病院・診療所のうち32.3%が赤字経営、18年に行われた医療3団体による調査だと、医業利益では6割を超える病院が赤字だった。倒産医療法人の数も増加しているという。

カギは「事務長」にあり!

   ビジネスに疎い医師をヘルプするには、外部の専門家に経営を任せるのが一つの手だが、著者は、そうした人たちは本業の医療の面で、心理的な愛着や当事者意識が弱いことを理由に全面的に頼りにはならないという意見。大学病院や総合病院に置かれている「事務長」のような存在が、どんな病院にも不可欠という。

   夫の独立にあたり著者は、自らそのポジションに就き、自分たちの開業の目的を達することを決意。ビジネスの専門学校に通い、医療経営の専門セミナー、海外でのITセミナーに参加、税理士や社会保険労務士について「役に立つと思う知識を手当たり次第勉強した」という。

   それらを通じて「一般企業なら当たり前」のビジネス知識を身に着け、事務長としてそれを武器に、新時代のクリニック経営を展開、地域で屈指の医療機関に仕上げたものだ。

   具体的な工程については本書の後半で詳しく展開。一般のビジネスと同じく、マーケティングが重要な役割を果たすことが語られ、クリニックが「聖職」であると同時にサービス業であることを忘れず「集患」に努めることなどがのべられる。

   起業ブームが続いているといっても、医療施設であるクリニックとなると、だれもが立ち上げられるわけではないが、本書の「経営論」は起業を考えている人には大いに役立つに違いない。

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「医師の妻がノウハウ0から人気クリニックを作り上げた 業界の常識にとらわれない経営」
鈴木恵子著
クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
税別1580円

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