2019年 12月 13日 (金)

ラグビー日本代表の「強さ」を引き出した「ONE TEAM」 その根底にあった戦略の転換とは?(大関暁夫)

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   ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会は、日本代表チームは史上初のベスト8に進出する快挙を成し遂げる、大盛り上がりの連続で日本中にラグビーブームを巻き起こして幕を閉じました。

   今大会における日本代表チーム快進撃のスタートともいえるアイルランド戦に勝った後にも、この勝利が決して奇跡ではないということを取り上げましたが、改めてなぜここまでラグビー日本代表チームが強くなり、観る者を魅了して感動の渦に巻き込んでいったのか、チームづくりという観点から考えてみたいと思います。

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個々の判断より「基本」を重視したジョーンズ氏

   今回の大躍進の陰にある大きな要因して挙げられることは、「ONE TEAM」をスローガンとするチーム作り、チームが「家族」と感じられるほどの「一体感」を重視して代表チームの運営をしてきた大きな流れがあります。

   この流れの土台を作ったのが、前日本代表チーム監督で今大会準優勝の現イングランド代表チーム・ヘッドコーチ、エディ・ジョーンズ氏であるといわれています。そして、年間200日を超える合宿練習で共同体意識を強くするという施策の根底にあったものは、ゲームにおける戦略の転換でした。

   ジョーンズ・ヘッドコーチは、世界の強豪チームに比べて日本チームは選手個々の力量が足りていないという判断の下、チームの基本戦略の練り直しを図ります。それはアンストラクチャーと呼ばれる戦術を軽視し、スクラム、ラインアウトなどのセットプレーを重視するという基本戦略への移行でした。

   アンストラクチャーとは、スクラム、ラインアウトのように陣形が整備された状況からのプレーではなく、個々の判断に委ねられ臨機応変な攻守が求められるプレーのこと。すなわち、ジョーンズはラグビーの基本である定型プレーこそ最優先で強化すべきものであると考え、それを驚異的な練習量で徹底することこそ世界の強豪チームに少しでも近づく近道であると考えたのです。

   それを愚直に取り組んだ結果、2015年の前回W杯・イングランド大会で優勝候補の南アフリカ代表チームを下す大金星を挙げるに至り、日本代表チームはこれを機に成長戦略第2フェーズに入ったと言えるのです。

「一人のリーダーに頼らない」チームづくり

   第2フェーズの指揮を執ったのは、現役時代に日本代表チームでもプレー経験のある、ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチです。日本人の文化を知るジョセフ氏は、基礎プレーが完成した日本チームにアドリブの導入を試み、ジョーンズ時代に棚上げされていたアンストラクチャーの強化を図ります。

   アンストラクチャーの強化では、その根底を支える考え方としてポジション間の連携や個々人のまとまりを重視。「ONE TEAM」の旗印の下10人のリーダーを指名し、「一人のリーダーに頼らないチーム」づくりを心がけてきました。

   前大会では一つもなかったアンストラクチャーからのトライが、日本大会は7つにものぼり、二人の指導者による2段階戦略は、今大会見事に身を結んだと言えるでしょう。

   この2段階成長戦略は、個人的に人材育成戦略上、古くからいわれる「守・破・離」の精神にも相通じるものであると感じています。「守・破・離」の精神は、中世観世流能の大家である世阿弥の考え方であるとも言い伝えられるもので、師匠と弟子の関係は、「守」に始まり「破」を経て「離」に至るというものです。

   すなわち、まず初めは師の決めた定形の教えを徹底的に「守」ることで一定の水準に達することを目指します。それが達成できた段階で次のステップである、師の教えをベースにしながらも自分独自の判断ややり方で少し「破」ってオリジナリティを出していくステップに移行。さらにその「破」のステップが板につき、オリジナリティ溢れる段階に入ったなら、いよいよ師の下を「離」れて自ら弟子をとる段階に至る、という流れです。

ラグビー・マネジメントにみる成長する組織のヒント

   ラグビー日本代表チームの成長はまさに、エディ・ジョーンズ氏の下で徹底的に「守」の時代を過ごし、2015年のW杯で南アフリカ戦を含め3勝を挙げたことで「守」の成果を確認。大会後ジェイミー・ジョセフ氏指導の下に移り、選手個々のとっさの判断力を磨くアンストラクチャーへの取り組みという「破」のステップに移行。そしての「破」段階での成長確認とも位置づけられる今大会、世界の強豪を相手にまわして予選プール4戦全勝、ベスト8進出という見事な成果を残したと言えるでしょう。

   このようなラグビー日本代表チームの「守」→「破」のステップは、企業経営においても大いに学ぶところがあります。

   事務でも営業でも、その運営上で脆弱さが感じられる段階ならば、まずはラグビーでいうところのスクラムやラインアウトプレーの如く、基本をルール型化あるいはマニュアル化して、その遂行を徹底する「守」から始めるのがセオリーであり、脆弱な社内体制のまま社員個々の判断任せで行動させても、組織的な成長は見込めないと言えるでしょう。

   ルール化された業務が徹底され、ある程度実績が上がるようになった段階で初めて、社員個々の判断に委ねた「破」の活動は有効に機能するのです。

   そして「破」の段階で忘れてはならないのが、この段階でこそ基本理念や目的意識を共有させ「ONE TEAM」づくりをことさらに意識させることです。「ONE TEAM」の意識があればからこそ、個々のとっさの判断でも常にチームプレーとしてブレの少ない行動が期待でき、次なるより大きな成果につなげることができるのです。

   この「守」→「破」のステップは、日本のラグビー史に残る、今回の日本代表チームから学ぶべきチームマネジメントの中で、代表的なものの一つであると申し上げておきます。

   なぜならば、W杯初出場から28年間でわずか1勝しかできなかった弱小チームが、2015年大会で3勝、今大会は4勝をあげるまでに急成長したわけで、この画期的な成長の知られざる裏事情をもっともっと深堀りできたなら、組織マネジメントの観点から学ぶべきものは、まだまだ多いのではないかと思うからです。W杯は終了しましたが、ラグビー・マネジメントに対する興味はいっそう掻き立てられる、きょうこの頃です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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