2020年 4月 8日 (水)

情報機関のインテリジェンスをビジネスに応用 「できる人」の未来予測テクとは......

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   本書「未来予測入門 元防衛省情報分析官が編み出した技法」は、陸上自衛隊で情報関係の任務を担当した著者が、実務で得たインテリジェンス分析の手法による未来予測のノウハウを「ビジネスパーソンにそれぞれの仕事の領域で役立ててもらう」ことを目的に筆をとった。

   「未来予測」は、単にリスク回避だけのためでははなく、リスクを把握することで、よりアグレッシブに行動するためのツール。グローバル化が進み、国際情勢と同じように複雑化するビジネス界でも極めて有効という。世界の情報機関が普通に使っている思考法や分析手法をアレンジすることで、ビジネスシーンに新たな地平が開ける可能性がある。

「未来予測入門 元防衛省情報分析官が編み出した技法」(上田篤盛著)講談社
  • インテリジェンスの技法を生かせば、見えなかった「未来」も見えてくる
    インテリジェンスの技法を生かせば、見えなかった「未来」も見えてくる

「最良の準備」をすること

   未来予測の「技法」は、さまざまなバイアスに惑わされることなく客観的に物事を判断し、意思決定を行うための方法論。現代では、AI(人工知能)にビッグデータを解析させるだけでもっと確実に未来を予測でき、適切な対応策をとることも可能なことを著者は認めているが、テクノロジーだけで全面的にはカバーしきれないと断言する。

   テロリストが失敗すれば対抗策を講じるだろう。失敗がAIに予測されてのことなら、次から作戦前のデータに偽情報を入れて誤った判断を導こうとするかもしれない。あるいは、あらかじめAIの答えを把握し、その裏をかく作戦が展開される事態も考えられる。つまり、ビッグデータや統計学などは、未来予測では十分には意味をなさないのであり、人間による分析がなお必要とされる。

   分析の手法を理想的に実行できたとしてもなお、未来の予測は容易なものではない。ごく小さなひとつの変化により全体が大きく変わることもあり得る。また、人間にはポジティブな情報よりネガティブな情報に対しより敏感に反応する傾向があり、予測が無意識のうちに暗く悪い方向へ傾きがちという。未来に発生する科学技術上の「ブレークスルー」をなかなか想像できないことも予測を困難にしている要因の一つだ。

   これら未来予測を困難にしているハードルの存在が分かれば、その対処方法を考えて手順を練ることで予測の精度を上げることが可能。これが著者の主張だ。ポイントは、複数のシナリオを考えたうえでそれに応じた準備を行うこと。もともと「予測」が困難な未来。「未来予測」とは「言い換えれば『最良の準備をする』作業にほかならない」と結論づける。

   そこで本書では、自身で厳選した「未来を予測するための9つの分析手法」を紹介。それをもとに将来に向けたシナリオの作成を提案。複数のシナリオを用意して不測の事態に備えるべきと指摘する。

   そのうちの一つは「『問い』の再設定」。本書では繰り返して、未来予測では必ず「問い」を設定する作業から始まる??ということが指摘される。インフォメーション(情報)という素材を分析・加工してできあがるものが「インテリジェンス」というプロダクトなのだが、すべての情報分析は「質問=問い」の設定によりその方向性が決まるからだ。最初の「問い」は漠然としたものになりがち。だが、情報収集や分析がある程度進むと、最初の「問い」と異なった視点から見直し、別の「問い」に置き換えることも必要になるという。

「『問い』の再設定」

   ここでは、顧客のメーカーから、現在売れている他社製品の特性を調べ、その特徴を盛り込んだ新商品(類似商品)の企画を命じられた経営コンサルタントの例で具体的なプロセスが示される。

   コンサルタントはこの調査を進めるうちに、ライバル社の売れ筋商品が何らかの事情でクライアント企業には製造が不可能であることが分かる。

   コンサルタントはそのことを報告する義務があるが、報告することによってクライアントが失望することは間違いない。コンサルタントは、クライアントの立場になって「クライアントが達成しなければならないことは何か」を考えてみることにする。これが「問い」の再設定の試みだ。

   コンサルタントは、クライアントとの打ち合わせのなかで、クライアントにとって新製品の開発が絶対に必要な課題とはなっていなかったことを思い出す。依頼では、ライバル社の製品に食われ落ち込んでいる現有製品の売り上げが回復するなら多大なコストをかけてまで新商品の開発に及ぶ必要はないということだった。

   コンサルタントは、ライバル社の商品を参考にした新商品開発は不可能という報告をする一方、「類似商品を作れるか?」という「問い」を「既存商品の売り上げを回復するための方策はないか?」という別の「問い」に再設定。その回答として、新たなPR策や販路開拓の方法をリストアップした別の報告書を添付した。クライアントは、この別報告書に感じ入り、さらに詳しいレポートの依頼を出した――。

機密メソッドを一般向けに改良

   「仕事ができる人、少し先を読むことができる人は、知らず知らずのうちに、未来予測のテクニックの一部を使って、思考・分析を繰り返しているのである」と著者は指摘。このコンサルタントの例は、プロセスがシンプル化されたものだが、作業に当たるうえで、こうした技法を承知しているか、いないかでは、その仕事の内容はおのずと変わってこよう。

   「『問いの再設定」のほかに、大きな外部環境に着目してから徐々に内部環境を分析していく「アウトサイド・イン思考」、過去から現在までのトレンドを把握し、特定事象の発生をもたらした影響要因をみて「潮流」を捉える「クロノロジー分析」などを紹介、濃厚な解説が施される。いずれも安全保障の最前線で磨かれた機密メソッドを一般向けに改良したもので「自分の周辺の未来、あるいは、自分が属する会社や業界の今後などを、可能なかぎりに正確に予測する技術を指南する本」と著者は本書を位置付けている。

   著者の上田篤盛さんは、もと防衛省分析官。防衛大学校卒業後の1984年に陸上自衛隊に入隊。87年陸自調査学校の語学課程入校以降、情報関係任務に従事した。1992年から95年までバングラデシュ日本大使館で警備官として勤務。危機管理や邦人対策を担当した。帰国後は、調査学校教官を経て、15年以上にわたり防衛省情報分析官および自衛隊情報教官を務めた。主として国家安全保障分野における情報分析の実務や教育を担当。2015年に定年退官し軍事アナリストとして活動している。

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「未来予測入門 元防衛省情報分析官が編み出した技法」
上田篤盛著
講談社
税別900円

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