2024年 4月 25日 (木)

スティーブ・ジョブズも通った、あの大企業も倒産した...... 危ないパターンのケーススタディ

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   先人の失敗例の内容を知ることは、有用な転ばぬ先の杖になる。本書「世界『倒産』図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由」は、その「杖」の役割を託された一冊。

   日本や欧米で、あるいは世界をまたにかけ、一時代を築きながらも失敗を犯して「倒産」に至った25社について、その経緯を詳しく調べ、それぞれから学ぶべきポイントを引き出している。業務の進め方や、あるいは生き方などについて、なにかしら教訓となることが得られるはずだ。

「世界『倒産』図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由」(荒木博行著) 日経BP

ポラロイド、コダック、トイザラス、そごう......

   著者の荒木博行さんは大手商社勤務や、法人向けコンサルティング業務を経て、今は2つの会社の経営に携わる一方、経営大学院でマーケティングや経営戦略を教えている。ビジネススクールでは、実際の企業事例が題材になるのだが、一般的には、失敗例ではなく成功事例が圧倒的に多いという。それは、成功事例が概してハッピーなストーリーなので関係者が語りたがるため詳細が明らかで、学びや研究の対象として事欠くことがないからだ。

   しかし、失敗事例はその逆。責任問題が絡み当事者はなかなか真相を語りたがらない。「だからこそ」と著者。「時として形になる失敗事例のケースはとても大きな気づきの機会をもたらし、私たちの行動を変えるヒントを与えてくれる」。このことが本書出版の大きな動機だ。ポラロイド、コダック、トイザラス、そごう、山一證券、北海道拓殖銀行...。収められている25社のうちには、近年、加速度的に進んだデジタル化、IT化の先々を見誤って倒産に至ったケースも少なくない。

   著者は、執筆にあたってはインタビューなどは行わず、書籍などの公開情報のみを基に書き上げたという。

ジョブズが「国宝」と呼んだ創業者

   米国のポラロイドは、撮影したその場で写真が見られるインスタントカメラの代名詞にもなり、同社の設立者でカメラの発明者でもあるエドウィン・ハーバート・ランドのことを、アップル創業者の一人、スティーブ・ジョブズは「国宝」と呼び、その才能に深い敬意を示したものだ。

   初代インスタントカメラの発表は1947年。その後もポラロイドは技術を磨き続け、小型化やオートフォーカスなどで品質向上に努め市場を拡大する。特に1960年代の成長は目覚ましく、同社の株価は4倍以上に跳ね上がった。だが、その後、映画撮影用カメラの失敗、ライバル社のコダックの追い上げなどで、1980年を境にポラロイドの写真業界のシェアは下降の一途をたどるようになる。

   そして運命の分かれ目となったのは1990年代のデジタル化の波だ。ポラロイドは実は、すでに80年代半ばに高画質のデジタル画像を生成できる技術を持っており、その推進を主張する声も社内にあったが、会社にとって重要なフィルム市場を奪ってしまう可能性があることなどを理由に、新市場への挑戦が見送られたという経緯がある。そして、このことが後に大きく響くのだ。

   ポラロイドのアナログ継続は一時的に成功するが、時代のベクトルはすでにデジタルの方向。デジタル技術の蓄積をやめてしまったポラロイドは置き去りにされる。収益は落ち込み続け身動きがとれなくなった2001年10月、同社は「連邦倒産法第11章」を申請し約60年にわたる歴史にピリオドを打つ。

「学習気質」維持し続ける難しさ

   ポラロイドは「完全に市場の存在を知らなかったわけでも無視をしていたわけでもなく、可能性に気づいていたけれど踏み込むタイミングでジレンマに陥り意思決定を間違えてしまった」ということ。当時は「存在しない市場」であるデジタル市場。存在しないから、その規模も成長率も利益率についても測る手がかりなく、分析が可能なアナログ市場での継続を選んだものだ。

   著者はこう指摘する。「ポラロイドは『分析』にこだわるのではなく、失敗を前提とした『学習』に意識を向けるべきだった。つまり、新たな技術を一旦世に出した上で、市場の可能性を学習していく、という姿勢」だ。

   ジョブズが「国宝」と敬意を表した、ポラロイドの創業者、ランドは「学習」に励む人物だったが、同社の「学習」の文化は時とともに薄れ、徐々に「分析重視」が優位になったという。「このポラロイドの事例は、大企業になりながらも『学習気質』を維持し続けることの難しさを感じさせる」と著者。創業者のランドは1980年にポラロイド会長を辞任。同社株を売却した資金でローランド研究所を設立し「1日1実験」という研究中毒の生活で、ポラロイドとは無縁の余生を過ごした。ローランド研究所には、ジョブズも通ったといわれる。

   こうした「ポラロイド編」のように、本書では縁遠く感じる大企業の「倒産」をめぐり、多くの人にとって示唆に富むストーリーに仕立てて伝えてくれる。

「世界『倒産』図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由」
荒木博行著
日経BP
税別1800円

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