2021年 4月 15日 (木)

FB「リブラ」は仮想通貨の「始まり」の始まり? 金融当局は計画を潰せない

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   2020年1月、日本銀行や欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)など6つの中央銀行が、「デジタル通貨構想」をぶち上げた。各国の中央銀行が通貨のデジタル化に向け大きく動き出した背景の一つには、米フェイスブック(FB)が昨年6月に発表したデジタル通貨「リブラ」の発行計画がある。

   世界の人口の3人に1人の割合で存在するFBユーザーがリブラを使うことになると、各国で銀行経営に深刻な打撃を与え、金融政策の効果を損ねることになりかねない。

「決定版 リブラ 世界を震撼させるデジタル通貨革命」(木内豊英著)東洋経済新報社
  • リブラは、ビットコインと違い「実用性」をうたう
    リブラは、ビットコインと違い「実用性」をうたう
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「ビットコイン」とは別物

   2019年10月に開かれた「20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議」では、リブラなどのデジタル通貨について厳格な規制を導入することで合意。FB側は「当局の承認を得られるまでは発行しない」ことを表明した。

   しかし当初は2020年前半としていたリブラの発行時期は現在、不透明になっている。その一方で、本書「決定版 リブラ 世界を震撼させるデジタル通貨革命」によれば、リブラ計画がぶち上げられたことで、デジタル金融の新たなムーブメントは強さと大きさをグンと増し、ついに各国中銀も動かざる得なくなったという。

   リブラ計画が明らかにされると、以前から存在していた仮想通貨と同一視されたが、実際にはまったく異なる。ビットコインに代表される従来の仮想通貨は、投資・投機の対象として関心が高く「通貨」としての支払い手段としての利用はかなり限られている。価格変動率(ボラティリティー)が非常に高いためだ。

   販売店がビットコインで代金を受け取り、現実の「円」に換えるまでの間にビットコインの価値が円に対して下がれば損失が生じる。そのため、支払い手段としては用いられないのだ。

   これに対してリブラは、投資や投機の対象としての利用を意図しておらず、もっぱら支払い手段として利用されることを目的に発行される。

   その価値は、主要法定通貨のバスケットと連動して決まる仕組み。新規発行、消却(買い入れ)は、さまざまな企業、団体が出資してスイスに設立されたリブラ協会が担う。また、取引認証は、ビットコインのような不特定多数による非許可型ブロックチェーンではなく、同協会出資者が参加した許可型ブロックチェーンで実施される。

   リブラの価値は、米ドルやユーロ、円、英ポンドなど複数通貨の価値の変動に応じて変化する。このため、ドルに対する円のように、他の一つの通貨との間の交換レートの変動より幅は小さくなる。法定通貨との間の価格変動を小さくする仮想通貨はすでに多く生み出されており、それらは「ステーブルコイン」と呼ばれる。ステーブル(stable)は「安定した」という意味。リブラが発行されれば、ステーブルコインの代表格になるとみられる。

発行の意義は「金融包摂」

   フェイスックがステーブルコインの体裁を整えてリブラを世に問うのは、発行の意義として同社が強調している「金融包摂(financial inclusion=フィナンシャル・インクルージョン)の裏付けのためだ。

   金融包摂とは、貧困や地域的な理由から金融サービスを受けられない人たちに、貯蓄や保険、送金などへのアクセス環境を整えること。FBは、リブラによって、世界中で17億人いるという銀行口座を持たない人に支払い手段を新たに提供できると主張しており、低所得者らが負担している支払いコストの軽減にも役立つと指摘している。

   今の決済システムは、とりわけ貧困層にとってはコストが高い。世界銀行によると新興国の出稼ぎ労働者は、本国の家族への送金で平均6.9%の手数料を支払っている。

   リブラが実用化されれば、さらに多くの利用者が考えられる。FBの関連アプリユーザーは世界で27億人おり、リブラの使い勝手によってはそのほとんどが、そのユーザーになる可能性もある。その人数は、18年の世界の人口73億人の37%ほど。可能性としてのことだが、世界の現金発行額約31兆ドルのうちリブラが37%を代替すると、現金は減少するが、その額は11兆5000億ドル、日本円にして1240兆円程度となる。その分の中央銀行の利子所得は減り、それと引き換えにリブラ協会が利益をあげることになる。

   リブラ協会は、リブラの発行と引き換えに受ける代金を主要法定通貨で構成される銀行預金や短期国債などで保有する。「リブラ・リザーブ」だ。そこには巨額の運用収益が発生。仮にリブラが現金11兆5000億ドルを代替すると、ほぼ同額のリザーブを協会が保有する。すべて米短期国債で保有するとなると、だいたい2%程度の利子所得が見込まれ、その規模は2300億ドル、日本円で25兆円ほどになる。

   中央銀行は通貨発行にかかわる利子所得(通貨発行益)を国庫に納付し社会に還元するが、リブラ協会はそうしない。「同じ社会インフラを担う存在であっても、既存の中銀とリブラ協会のあいだには大きな違いがある」のだ。

課題は「本人確認」「資金洗浄対策」

   リブラをめぐっては、ほかにマネーロンダリング(資金洗浄)に使われる懸念がつきまとう。各国の金融当局は近年、金融規制のうえで「KYC(Know Your Customer=顧客の本人確認)と「AML(anti-money laundering=資金洗浄対策)」に特に力を入れているという。だが、これらについてFBからは明確な説明がなく不信感を募らせることにつながっている。

   リブラは世界で17億人に及ぶ銀行口座を持たない人に金融サービスを利用できるようにすることを理念としている。主な利用者として想定しているのは低所得者、貧困層であり、こうした人たちに本人確認を漏れなく務付けることは容易ではない。定まった住所がなかったり、公共料金の請求書などで身元を証明できないことなどもあって銀行口座を開けないという側面もあるのだ。

   本人確認をリブラ利用の条件にすれば、貧困層の利用者は増えず、金融包摂や格差対策といったリブラの理念が実現できない。FBが身分証明書の発行を計画しているとも言われるが、それで確認が十分と当局が判断するかは不透明だ。

「延期」は自信の現れ

   各国の金融当局からこうしたさまざまは指摘、批判を受け、FBのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は2019年10月23日の米下院金融サービス委員会で「当局の承認を得られなければリブラをスタートさせるつもりはない」と述べるなど、従順な姿勢を見せている。これは、じつはリブラ発行に向けた強い意思の表明なのだという。

   FB側が規制受け入れの姿勢を続ける限り、金融包摂という社会的に意義ある目的を掲げているリブラ計画を、金融当局が潰すという選択はあり得ないということを見越しての狡猾な戦略だというのだ。

   著者の木内豊英さん2012年7月から5年間、日銀政策委員会審議委員を務め、現在は野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。発行計画の発表以来、リベラをめぐる動きからは「逆風が改めて確認できるが、それにもかかわらず計画が頓挫してしまう兆しは今のところ見られていない」という。

   仮にリブラ計画が頓挫するようなことがあっても、「遅かれ早かれ第2、第3のリブラともいうべきデジタル通貨が必ず登場する」と予告。デジタル金融の新たな動きはもはや逆行は許されず、現在のシステムにどのように受け入れていくかを真剣に考えねばならないという。

   金融の「現実」と「仮想」世界の違いについて、コントラストを効かせた解説がわかりやすく、リブラばかりではなく、仮想通貨、デジタル通貨、ステーブルコインなど、近い将来起こる「通貨革命」の予習に最適の一冊。

「決定版 リブラ 世界を震撼させるデジタル通貨革命」
木内豊英著
東洋経済新報社
税別1600円

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