【企業分析バトル 第4戦】重油が流出したバルク船の運航主・三井商船株は「買い」なのか!?(早稲田大学)

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   新型コロナウイルス関連のニュースが流れるなか、ちょっと変わったニュースが流れてきました。貨物船が座礁して重油流出が起きたのです。座礁したのは、バルク船(貨物をばら積みして運ぶ船)の「わかしお」。船主がOKIYO MARINE(長崎汽船株式会社関連会社)、船籍がパナマ、そして運航主が商船三井株式会社です。商船三井株式会社からの情報によると、この船は中国からシンガポール経由でブラジルに向かう途中の、2020年7月26日にモーリシャス島沖で座礁し、8月6日に燃料油が流出し始めたようです。

   就職活動の中で、個人的に海運業に興味を持っていたので、このような事故が起きたニュースを聞いたときは非常に驚きました。貨物線の航路は事前におおまかに決められており、座礁したということは、異常な悪天候、船体・機械系の壊滅的なトラブル、その他船内における緊急事態が考えられるからです。

   この事故の責任は、船主に帰することになる可能性が高いですが、今回は運航主の「商船三井株式会社」の焦点を当てて企業分析していきたいと思います。

  • 海運業の利益は安定しない……(写真はイメージ)
    海運業の利益は安定しない……(写真はイメージ)
  • 海運業の利益は安定しない……(写真はイメージ)

130年以上の歴史と多彩な船の運行事業

   商船三井は、1878年の上海間との海運に始まる、130年以上の歴史をもつ海運会社です。もともとは、1884年に設立した大阪商船という名前でしたが、高度成長期の1964年に大阪商船と三井商船が合併し、さらに1999年に大阪商船三井船舶とナビックスラインが合併して商船三井が誕生しました。

   事業としては、ドライバルク船事業、エネルギー事業、製品輸送事業、関連事業、その他となっています。

   ドライバルク船事業は、鉄鉱石、燃料炭、木材、鋼材、セメントなどを運ぶ、ばら積み船や貨物特性に合わせた専用船の保有・運航を行っています。エネルギー輸送事業としては、原油タンカー、ナフサやガソリンを運ぶプロダクトタンカー、液体化学品を運ぶケミカルタンカー、液化天然ガスを運ぶLNG船、石炭船の保有・運航を主としています。製品輸送事業では、コンテナ船や自動車船の保有運航、フェリーや内航を運航しています。

   また、このコンテナ船事業においては、商船三井、日本郵船、川崎汽船の日本大手海運会社の定期コンテナ船事業を統合し「Ocean Network Express」という会社を設立して、運航しています。関連事業としては、主に不動産事業があります。

   また、全体の売上高に対する各事業の売上高の割合は、以下のようになっています。

輸送事業が全体の要

(図1)各事業の売上高と割合 
(図1)各事業の売上高と割合 

参考文献:定時株主総会招集ご案内(商船三井)

   ドライバルク事業が2771億円、エネルギー事業2893億円、製品輸送関連事業4754億円、関連事業965億円、その他が168億円となっています。全体として運送事業が大きく占めていることがわかります。

海運業は市況の影響を大きく受ける

   次に、売上推移と財務状況についてみていこうと思います。下表は、直近10年の売上高、経常利益、一株当たりの純利益(EPS)、一株当たりの純資産額(BPS)を表しています。

   売上高も経常利益も安定していないことがわかります。これは、海運業が市況の影響を非常に大きく受けるからだと考えられます。

安定性に乏しい経常利益

(表1)商船三井の直近10年の売上高、経常利益、EPS(純利益)、BPS(純資産額)
(表1)商船三井の直近10年の売上高、経常利益、EPS(純利益)、BPS(純資産額)

   また、貸借対照表によると、貸方は流動資産3874億円、固定資産1兆7470億円で資産合計2兆1344億円、借方は流動負債4466億円、固定資産1兆362億円で、負債合計は1兆4828億円、純資産合計が6516億円となっています。

   見てのとおり、固定資産と固定負債がともに多額です。固定資産のうちの船舶が7153億円であり、海運業としての船舶保有によるものです。また、固定負債のうち6659億円が長期借入金です。

   このことから、財務面に関しては健全であると太鼓判を押せるような状態ではなく、船舶の製造、保有、運航には多額の資金が求められることが考えられます。

   海運業は、新規参入にはコストが高く、新たな企業が海運業において経済価値を見出すことは難しいでしょう。しかし、船舶の製造コストは過去に比べ低くなっており、海運市場は誰でも新規参入することができる単一自由市場でもあります。

   そのため、製造業、エネルギー事業などの事業の過程に海運を挟む必要がある会社が、海運関連の子会社を作り自社製品、材料の運搬を行い付加価値の最大化に動くことは考えられます。その点で、現在の海運業においては運賃を抑え、新規参入を検討している会社に経済価値を見出させないことが求められてきました。

   そのため、海運会社では保有船舶の運用効率化が喫緊の課題となっていました。それゆえ、海運大手の日本郵船、三井郵船、長崎汽船が合同で設立した会社、Ocean Network Expressは船舶効率運用の課題を解決するための会社と考えられます。

   3社が保有する船舶を用いて複合運用、共同運航船を作ることで未使用船舶の割合を低くしています。設立当初は、3社のコンテナ船部門が統合したため、サービス面の水準が低下しておりました。しかし、最近は徐々に軌道に乗ってきて、利益も伸びており、将来にわたりさらに増加すると予想されます。

商船三井は利益の安定性に欠く

   三井商船を、ここまで見てきましたが、株式の購入については見送りたいと思います。理由は、市況に大きく影響を受ける企業であるためです。

   海運は、市況に強く影響を受ける業種です。経済が不況に陥る、または政治的な問題により貿易が停滞することになれば、売上高は急激に落ちます。その影響は大きく、実際この10年間においても複数年、損失を計上しています。

   また、一般的な製造業などの企業であれば、需要に対して供給を調整することによって弾性的に対応することができますが、海運業は船舶を用いており、船舶の製造に年単位でかかり、売却しようにもすぐには売れません。そのため、需要に対して非弾性的になってしまいます。

   これが、海運業の市況への脆弱性を高める一因です。これは、航空輸送でも同じことで、巨額の赤字を出している日本航空(JAL)やANAホールディングスを見ればわかりやすいと思います。

   海運業は不確実性に大きくさらされている企業です。私は株を選定する際は、利益の安定性を一つの軸としています。商船三井は利益の安定性に欠いています。したがって、購入を見送りたいと思います。

   今回は、収益安定性の欠如を理由に購入を見送りましたが、先ほどのOcean Network Express社を筆頭に、船舶運用の効率化やコスト削減が進行、そして定期運航船を積み増して不確実性を排除すれば、安定した利益を生む可能性は十分にあると考えるので、企業の将来に期待したいです。

商船三井(9104)
年初来高値(2020年1月20日)    2994円
年初来安値(2020年3月17日) 1487円
直近の株価(2020年8月31日)    1963円
取得株数               な し

参考文献
・ IRニュース,商船三井 https://www.mol.co.jp/ir/data/news/index.html
・ 当社の運航船 座礁および油濁発生の件(商船三井) https://www.mol.co.jp/pr/2020/20046.html

【株式取引ルール】
月200万円を上限に最低1銘柄(企業)を選ぶ、バーチャル投資です。
投資対象は、新興市場を含む上場企業の現物取引です。
1年間のトータルで損益を競います。
プロフィール
早稲田大学 AM
基幹理工学部3年。資本主義では資本家が頂点にいることを察し、またインフレリスクを回避するため、消極的に株式投資をはじめる。趣味は読書、料理とバイト代で株を買うこと。資本主義における株式の力を強く信じており、その力に魅了されている。
好きな言葉は「Be Fearful When Others Are Greedy and Be Greedy When Others Are Fearful.」。東京都出身。
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