初公開! ワークマン専務が明かしたイメチェン成功の秘密

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   作業服大手のワークマンが、大きく「変身した。作業服という地味で、野暮ったい印象と、代名詞となっていた演歌歌手の吉幾三さんを起用したテレビCMを取りやめるなど、イメージの刷新を図った。業績は絶好調。国内店舗数はすでにユニクロを抜いている。

   本書「ワークマン式『しない経営』― 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密」は、成長の立役者である著者が、そのプロセスを明かした一冊。タイトルになっている「しない経営」は、初めて明かされる、ワークマンの、いわば経営の奥義であり、ビジネスの参考にもなり、また読み物としても楽しめる。

「ワークマン式『しない経営』―4000億円の空白市場を切り拓いた秘密」(土屋哲雄著)ダイヤモンド
  • 工事現場の作業服をカジュアルウエアに…
    工事現場の作業服をカジュアルウエアに…
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ブルーオーシャン市場の過剰適応

   著者の土屋哲雄さんは、株式会社ワークマン専務取締役。東京大学経済学部卒業後、三井物産に入社し30年以上の商社勤務を経て2012年からワークマンに勤務している。

   土屋さんが入社当時、ワークマンは成長の限界が見えており、「2025年に1000店舗、売上1000億円」を天井に、これを打ち破る方策を考えねばならなかった。当時のままでは、それ以上は見込めなかった。

   栗山清治社長は危機感を抱いていたが、具体的な戦略はなにも持っていなかった。ワークマンは作業服小売業界では2位以下を大きく引き離したナンバーワン。作業服市場はワークマンにとって「ブルーオーシャン」であり、その状況に過剰適応していて身動きがとれなくなっていた。

   ワークマンは作業服で知られるが、1990年ごろまで、売り上げの2割程度はカジュアルウエアが占めていた。しかし、ユニクロなどの低価格を前面にしたチェーンに市場を奪われるようになり作業服専門ブランドに。その後、2008年のリーマンショックの影響で、建設工事の減少と共に同社の業績も低迷。事態打開のため、作業服トップの技術力を武器に、再びカジュアル市場に挑戦しようと動き出した。

   ユニクロをはじめファストファッションのブランドがひしめく市場ではイメージが重要だ。そこで作業服ブランドのアピールのために流していた吉幾三さんのテレビCMをやめた。そして、土屋さんが2012年に入社。新たな戦略、戦術が添えられていく。

「ワークマンプラス」の新業態とは

   「1000店舗、売上1000億円」の限界突破を目指し、カジュアルウエアに再び道を開き進み始めたところで、別の競争相手が台頭してくる。

   アマゾンなどのECだ。カジュアルウエア路線の目標には「アマゾンに負けない」ことが加わり、そのために価格や配送費で負けないこと、販促費をかけないことが掲げられるようになった。

   価格の抑え込みを兼ねて実施したのは、新業態店舗「ワークマンプラス」の立ち上げ。新業態といっても新しい製品は開発せず、1700ほどある作業服のアイテムから、デザインや色などの派手な感じと思われる300ほどを選んで前面に出し、作業服では使ったことがないマネキンやライティングを採用して演出を凝らした。

   EC対策では、ネット販売を充実させる中で、宅配費用の抑制のため力を入れているのは「クリック&コレクト」。店舗の在庫を活用した店舗受け取り通販だ。

   また、販促費を省くため「アンバサダー」方式を採用。ワークマン製品の愛用者らに、新製品発表会へ招待する特典を授け、製品モニターやSNSでの拡散をしてもらった。

   赤字の可能性もあった「ワークマンプラス」だが、作業服からのアイテムコレクションの妙と見せ方の工夫で、別のブルーオーシャンの開拓に成功。2020年9月末時点の店舗数は、ワークマン(663店)とワークマンプラス(222店)を合わせた店舗数は885店となった。ワークマンプラスと同じ手法で同年10月には、女性用専門の「ワークマンレディース」を新規出店した。

「しない経営」で業績は右肩上がり

   著者によると、ワークマンプラスの成功は競争戦略面から語られることが多いが、それは半分だという。もう半分は、社員が同意し気持ちよく仕事をしてくれる状況を作れたこと。そのことに効果があったのは「企業風土を変えられたこと」という。

   ワークマンで著者が実践したのは「しない経営」の定着化。さまざまな「しない」があるのだが、その一つは「社員のストレスになることはしない」。これには小項目があって「残業しない」「仕事の期限を設けない」「ノルマと短期目標を設定しない」の3つ。「無用な干渉をされないことで、自分の時間を有効に使えるので、ストレスフリーで売り上げを上げ、自分のペースで楽しく働くことができる」と説く。

   この方針の実践のなか、それまでコミュニケーション力が弱いと評価が低かった従業員が、じつは数字に強いことでメキメキ評価を上げていった例もある。「とりわけ『頑張る』ことはしないどころか、禁止だ。それでも業績は10期連続最高益を更新中」と、著者は胸を張る。

   2020年3月期は、チェーン全店売り上げ(ワークマンとワークマンプラス)が前年同期比31.2%増の1220億円。営業利益は同41.7%増の192億円、経常利益は同40%増の207億円、純利益は同36.3%増の134億円だった。

「ワークマン式『しない経営』―4000億円の空白市場を切り拓いた秘密」(土屋哲雄著)
ダイヤモンド社
税別1600円

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