「世界をガラリと変える」AI アリババなどの活用例を紹介

来店不要なのでコロナ禍でも安心!顧客満足度1位のサービスとは?

   コロナ禍となって求められる密回避や非接触化を実現するとして、最新のツールやロボットが続々登場している。その働きの核に据えられているのは、AI(人工知能)であることが多い。だが、言葉そのものは社会に浸透しているものの、一般にその実態がよく知られているとはいえない。

   本書「世界のトップ企業50はAIをどのように活用しているのか?」は、AIが「将来、世界をがらりと変える」と予告したうえ、その証拠として、実際にAIが世界の企業でどう活用されているかをレポートした。AIの奥深さが描かれ、コロナ禍でのツールやロボットにとどまるものではないことが示されており、密回避や非接触化でも頼りがいがあることが実感できそうだ。

「世界のトップ企業50はAIをどのように活用しているのか?」(バーナード・マー、マット・ワード著、安藤貴子訳)ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • AIではニューラルネットワークが人間の脳の神経回路網を数字モデルで再現
    AIではニューラルネットワークが人間の脳の神経回路網を数字モデルで再現
  • AIではニューラルネットワークが人間の脳の神経回路網を数字モデルで再現

世界最大のアリババを支えるAI

   中国のアリババ・グループは、ECのネットワークを運営する多国籍複合企業。流通総額は米国のアマゾンとイーベイの合計を上回り、その規模は世界最大だ。成長を支えているのがAI。ショッピング・ポータル、クラウドサービス、社会的事業などまで、事業のあらゆるシーンでAIが使われている。

   アリババのショッピング・ポータルでは、買い物をする顧客がそれぞれにあった「カスタム・ページビュー」を作成。AIがサイト内での顧客のアクションをモニターする。

   顧客が購入希望品を入力したのを受けて適正な価格の商品を提示、そして、その商品を購入するか、ほかの商品を見るか、サイトを離れるか―といった行動を追ってリアルタイムで顧客の好みを学習し、ページビューに調整を加え、購入につながるよう顧客をリードする。サイトを離れて購入がなくてもAI学習は次の機会に生かされる。

   アリババは複数のサイトで数百万アイテムの商品を扱う。利用者向けの商品説明を作成するのに膨大な作業が必要だ。この負担を減らすためAIによるコンテンツ自動生成システムにも投資を行ってきた。開発されたのは「AIコピーライター」。人間の脳の神経回路網を数字モデルで再現したニューラルネットワークを使い、大量のデータから特徴を抽出する「深層学習(ディープラーニング)」と「自然言語処理」のアルゴリズムを活用して、1秒間に2万行の「キャッチコピー」を生成する。

環境に恵まれていた中国

   以前は、人間のコピーライターが何時間もかけてキーワードや、クリックスルーレート(CRT、クリック率)を調べてキャッチコピーを作らなければならなかったが、それらが不要になった。また、AIコピーライターなら、プラットフォームを使って商品を販売する業者も利用できる。

   具体的な仕組みはこうだ。商品情報は販売業者の提案などから複数パターンの広告が作られ、それらを顧客行動データにより訓練されたアルゴリズムにより処理。そして、システムがどの言葉の組み合わせが顧客のクリックを促す可能性が最も高いかを割り出し、それをもとにコピーが生成される。

   アリババばかりではなく、早くからビジネスの運営をAIに依存している企業は多い。膨大な人口を抱える中国では、顧客の生活に関するデータ量は「とてつもない」規模だ。

   また、中国ではそれらのデータを蓄積・活用できる技術を吸収し、進化させる余地も大きかった。中国はAIの発展にはうってつけの環境を有していたといえ、米国と肩を並べる「大国」の成長できた理由の一つだ。

バーバリー、ハーレーダビッドソン...... 従来型企業も

   本書では、アリババのほか、バイドゥやテンセントなどの中国のIT企業と合わせて「AI界の巨人」とされるグーグル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトがどのようにAIを使っているかを解説。ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーやスポティファイ、ネットフリックス、ベライゾン、バイアコムなど、世界で成長を続けているメディア、エンターテインメント、通信系の各企業でもAIが大きな役割を果たしていることが報告されている。

   また、バーバリーやユニリーバ、スターバックス、ハーレーダビッドソンなど、一見AIとは無関係に見える従来型の企業が、当初は遅れをとった分を取り戻すかのようにAI活用の取り組みを強めて成長軌道に乗った様子も描かれ興味深い。

   本書では、AI活用で成功させた企業50社を紹介しているが、それらに共通しているのは、どの企業もAIの適用を検討するうちに、ビジネスモデルの「一新」、あるいは、ビジネスモデルを「根本から変える」ことになる―ということ。

   ほとんどの企業が、ビジネスのあらゆる側面に新しい方法としてAIを導入。アリババの「AIコピーライター」もその例だ。著者らは、本書で紹介した事例を通して「『AIによって何ができるか』について質の高い知見を得ることができる」と述べている。

「世界のトップ企業50はAIをどのように活用しているのか?」
バーナード・マー、マット・ワード著、安藤貴子訳
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2500円(税別)

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