2024年 4月 25日 (木)

「あまりに正直に書いたのでペンネームです」 現役弁護士が書いた「業界の真実」

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   司法制度改革によって、司法試験が簡単になったということはよく知られている。2005年まで続いた旧司法試験時代の合格率は1~2%の狭き門だったが、2019年の新司法試験の合格率は33.63%とグッと間口は広くなった。

   弁護士が急増し、食うのも大変な弁護士もいると聞いた。本書「激変する弁護士」(共栄書房)は、かつて「文系エリート」の代表と言われた弁護士の実態について、現役弁護士が書いた本である。あまりに正直に書いたので、ペンネームを使わざるを得なかったというが、弁護士との正しいつき合い方を披露しているので、企業の法務担当者や司法に関心のある人にとって有益な本だろう。

「激変する弁護士」(宮田一郎著)共栄書房
  • 弁護士の業界も大変だ!
    弁護士の業界も大変だ!
  • 弁護士の業界も大変だ!

夜のネオン街が「営業活動」の舞台

   著者の宮田一郎氏のキャリアはこうだ。弁護士になる前は公務員をしていた。司法試験合格後は司法修習を経て、「大都市と人口の少ない地方で30年以上弁護士をしている」。裁判所の調停委員、ボランティア団体・市民団体の役員、多くの労働・行政・公害・国会賠償、消費者事件などの代理人を務めたというから、「人権派弁護士」の匂いも少しする。実名で多くの雑誌記事、論文、著書を書いている。

   2部構成だ。1部は「絶望の弁護士界」で、2部は「失敗しない弁護士選び」。

   1部のタイトルが「絶望の弁護士」でも、「絶望の弁護士会」でもないのは、「弁護士の業界は絶望的だが、問題と課題が多いことは発展の可能性が多いことを意味する。これからの弁護士は司法の発展のために活躍する余地がいくらでもある」からだという。

   第1部では弁護士の実態をリアルに描いている。すべて宮田氏が実際に経験したことであり、内容はすべて真実だそうだ。

   まず、宮田氏が弁護士になって驚いたのは、弁護士の金遣いの荒さだ。多数の司法修習生や若手弁護士を引き連れて夜のネオン街を豪遊する弁護士がけっこういた。飲み代の多寡が弁護士としてのステイタスを示していたという。

   また、弁護士を接待する依頼者は事業の成功者や資産家が多く、夜の歓楽街で気前よく金を使った。弁護士が頻繁に飲み歩いたのは、飲食が弁護士の顧客獲得の重要な手段になっていたからでもある。営業活動でもあったのだ。

   さらに、仕事上のストレスも関係している。他人の喧嘩の一方に肩入れする仕事なので、他人から恨まれやすい。ストレスが生じやすいのだ。

   裁判の勝ち負けに一喜一憂し、負ければ依頼者から非難を受ける。弁護士はストレスの解消法として酒を飲み、自分が扱った事件の自慢話をし、裁判官の悪口を言う。

   不摂生がたたって早死にしたり、うつ病などの精神疾患に罹ったりする弁護士も少なくないという。

問われる法科大学院の存在意義

   しかし、1989年あたりから風向きが変わった。破産や債務整理事件が増え、弁護士への依頼者層が拡大した。サラ金やクレジットカードの負債に苦しんでいた人たちが弁護士に駆け込むようになったのだ。テレビやラジオを通じて、「自分でも弁護士に依頼することができる」と知った低所得の人たちが雪崩を打って、弁護士事務所の顧客になった。

   さらに、2001年の司法制度審議会の意見書により弁護士の大幅増員が決定され、2004年に法科大学院ができて以降、弁護士の業界は大幅に様変わりした。

   弁護士の業界に競争と格差が生じ、弁護士は資格があるというだけでは食っていけなくなったのだ。年収数千万円の弁護士もいるが、年収300万円程度の弁護士いる。

   民間企業に就職した同級生よりも年収が少なく不安定なので、学生の間で弁護士の人気が凋落した。

   東大法学部と言えば、「文系エリート」たちが集う頂点。官僚、弁護士を多く輩出した。銀行など民間企業に行くのは「あまり勉強ができない奴」と見なされた。だが、時代は変わった。官僚の人気も低下、優秀な層は高額な報酬とキャリア形成を求めてコンサルタント企業へ行ったり、法科大学院を経由せず、予備試験を受けて弁護士になったりする。

   2月8日(2021年)法務省が発表した司法予備試験の合格者のデータによると、昨年1万608人が受験し、442人が合格した。合格率は4.17%。合格者の最年少は18歳、平均年齢は25.89歳だった。

   合格者は今年以降の5年間の司法試験を受験できる。司法試験では例年、法科大学院修了生を大幅に上回る割合で予備試験合格者が合格しており、法科大学院の存在意義が問われる事態にもなっている。

   かくして、弁護士の業界も変わった。弁護士事務所に入り、しばらくは雑巾がけをするのが当たり前だったが、事務所に採用されず、「即弁」する若手も増えた。ただ、彼らは練度が不足、ノウハウもないので、失敗も少なくない。

弁護士にもある「うっかりミス」で弁護過誤

   宮田氏は30年以上弁護士をしているが、弁護士の問題行動が多いことを感じているという。弁護士のうっかりミス、判断ミスによる「弁護過誤」を指摘。賢明な弁護士の選択法を明かしている。詳しくは本書を読んでいただきたい。

   評者も知人である弁護士がかつて悪徳商法で知られた会社の顧問弁護士だったことを知り、驚いたことがある。

   宮田氏は、弁護士とは「法律を扱う自営業者である」と定義している。テレビや小説など、メディアが伝えてきた弁護士像は完全に虚妄だという。

   ちなみに、78校あった法科大学院は、現在39校までに半減した。なんのための司法試験制度改革だったのか? 当事者の法務省と文科省の責任は大きいと言わざるを得ない。夢を持って法科大学院に進んだ多くの若者たちを犠牲にしたのだから。

「激変する弁護士」
宮田一郎著
共栄書房
1500円(税別)

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