2024年 4月 20日 (土)

医師が見たフクシマ 「被ばく」という見えない敵との闘い【震災10年 いま再び電力を問う】

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小児甲状腺がんの検査は「ナンセンス」

中川恵一先生は「福島第一原発の事故で、最大の失敗は小児甲状腺がんの検査」と指摘する。
中川恵一先生は「福島第一原発の事故で、最大の失敗は小児甲状腺がんの検査」と指摘する。

――放射線の子どもへの影響は、どのようにみていますか。

中川先生「福島第一原発の事故で、最大の失敗は小児甲状腺がんの検査だと感じています。小児甲状腺がんの検査は、2011年3月11日で18歳以下だったすべての福島県民を生涯検査するものです。これは受診しなくても良いのですが、学校で健康診断のように検査が実施されるため、子どもたちは検査からは逃れられない状況になっています。
子どもの甲状腺には、放射線被ばくに関わらず、がんの細胞が多くの子どもに含まれています。大人にも含まれています。つまり、もともとあるものを見つけているだけなのです。後から発生したがん細胞が、もともとの細胞なのか放射線被ばくによるものかは判別がとても困難です。
子どもの甲状腺がんは大きくなるのに5年はかかります。それが検査を始めた2011年に多く発見されたということですが、それは事故による放射線の影響というより、検査以前からあったものが発見されただけのことです。また、甲状腺がんが発見されたとしても、自然消滅することもありますし、変わらないままの場合もあります。
結局、福島県内の避難区域であってもなくても、子どもたちに見つかる甲状腺がんの割合は同じだったのです。東京で検査しても、同じ割合の結果になるでしょう。放射線被ばくとの因果関係が明確でない検査を延々と続けているのです。これはナンセンスであり、悲惨としか言いようがありません」

――先生は東京電力の廃炉作業員の健康も診ています。放射線被ばく量はしっかり管理されていますか。

中川先生「福島原発の作業員の放射線被ばく量は管理されていると思います。放射線被ばく量は年間20ミリシーベルトまでと法律で定められているので、一時的に上限まで(放射線を)浴びることはあると思いますが、管理の範囲内で収まっていると思います。実際、年間20ミリシーベルトの放射線被ばくで、がんになるのは日常的な感覚で表現すれば、影響はないといえます。ただ、作業員の健康管理は、放射線の被ばく量の管理とは別のところにあると感じています」

――それは、どのようなことですか。

中川先生「それは廃炉作業員が喫煙や飲酒、食生活によって受ける健康影響量のほうが、原発からの放射線被ばく量よりもはるかに多いからです。たとえば、たばこ1箱での放射線量は2000ミリシーベルトです。3合の日本酒も2000ミリシーベルト。野菜不足や塩分の取りすぎで300ミリシーベルト。受動喫煙で50ミリから100ミリシーベルトになります。
これらはすべて廃炉作業員の日常生活から発生するものです。関心事は『がんになるかどうか』ですので、放射線被ばく量を管理することも大切ですが、たばこやお酒の飲みすぎをやめましょう、という生活習慣の改善のほうが効果的だったりします。
このように、身の回りに多く存在する放射線の中で、作業員の放射線被ばくだけを取り上げるのは困難ですし、年間20ミリシーベルトの影響は微小で、それを証明するのはさらに困難な取り組みだと考えます。
では、なぜ微小な影響までも追いかけるのでしょう? これは考え方として『放射線は悪だ』という概念に囚われているからだと思います。そう思うと微小なものでも証明しようとしてしまう。仮に影響がないとしても、それを証明しようとしてしまうのは致し方ないようにも感じます。しかし、それは現実的かというと、疑問に感じます。そういった風潮は、小児甲状腺がん検査にもつながっているようにも感じます」

(聞き手:牛田肇)


プロフィール

中川 恵一(なかがわ・けいいち)
東京大学医学部放射線医学教室准教授、放射線治療部門長

1985(昭和60)年、東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部放射線医学教室入局。スイス Paul Sherrer Instituteへ客員研究員として留学後、社会保険中央総合病院放射線科、東京大学医学部放射線医学教室助手、専任講師を経て、現在、東京大学医学部放射線医学教室准教授、放射線治療部門長。この間、2003(平成15)~14(26年)まで、東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。14(平成26)年より同院放射線治療部門長、現在に至る。
患者・一般向けの啓蒙活動にも力を入れており、福島第一原子力発電所の事故後は飯舘村など福島支援も積極的に行っている。
日経新聞で「がん社会を診る」を毎週連載中。「がんの練習帳」「最新版 がんのひみつ」「最強最高のがん知識」「がんの時代」「知っておきたい『がん講座』」など、著作も多数。

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