「何が何でも東京五輪はやる!」という菅義偉政権の強引な決意の表れか――。
新型コロナウイルスの感染拡大が一向に収まらないなか、2021年3月25日、東京五輪の聖火リレーが始まった。
「復興五輪」のスローガンのもと、福島県からスタートしたリレーは観客が殺到して「密」になる場面が見られた。
一方、五輪最大のスポンサーである米テレビ局からは、
「コロナをまき散らす、ナチスのようなイベントはやめろ」
という厳しい「鶴の一声」が発せられた。
ネット上でも怒りの声が沸騰している。
福島県民も「うわっ面をつくろった復興五輪なんて」
朝日新聞(3月26日付)「復興五輪? 地元からは批判も」は、スタート地点の福島県民からの批判と疑問の声を、こう伝えた。反対住民の団体が「五輪中止」を訴える場面があったのだ。
「新型コロナの感染拡大が続く中での聖火リレーには批判も根強い。隣の宮城県では3月24日に過去最多の感染者を記録。この日、郡山市のJR郡山駅前では、五輪に反対する市民10人が『コロナ禍で福島だけでなく、日本も世界も五輪を開くどころではない』と訴えた」
住民たちも口々に疑問の声をあげた。朝日新聞記者の取材に、福島県浪江町の佐藤治さん(75)はこう話した。
「聖火リレーで東北は元気になるだろうが、感染が広がればせっかくの元気も失われる。ひとり一人が気を付けてほしい」
浪江町から埼玉県に越していた鵜沼久江さん(67)は、故郷を訪れて聖火リレーを見たが、複雑な心境をこう語った。
「自分の町の記念すべき日だと思って来たが、もやもやして喜べない。心の底から喜べるときにやってほしかった」
福島県大熊町が整備した災害公営住宅に住む女性(64)は、家の近くを通る聖火リレーを見ようともせず、こう吐き捨てた。
「こんなことにお金を使っている場合なのか。10年たっても多くの人は帰らない。誰も現実を映してくれない。上(うわ)っ面をつくろった復興、オリンピックなんて...」
毎日新聞(3月26日付)「密を避けどう機運醸成 聖火初日、対応ちぐはぐ」は、あちこちで「密」の状態が起こった実態をこう伝える。まず、聖火リレーのスタート会場のJヴィレッジ周辺に人が集まる懸念があったため、規制したことが裏目に出た。
「(Jヴィレッジ)から200メートル離れた場所には100人ほどの人だかりができていた。『聖火も見えないし、こっちのほうがよっぽど密だよ』。会社員の男性(60)は不満げだった。JRいわき駅前交差点では、聖火の隊列が来る1時間以上前から沿道に人が並び始めた。現場スタッフが『密にならないで』と呼びかけたが、先導者が見えるや、人々が車道沿いに殺到。肩と肩が触れ合い、二重三重の列ができた」
五輪組織委が公表した聖火リレーの中断基準では、多くの観客の肩が触れ合ったりする状態が発生し、密集が解消されなければ、当該地区のリレーの取りやめを検討する、としている。しかし、いわき市の状況について組織委は、
「大きな問題もなく予定どおりに実施できた」(武藤敏郎事務総長)
と胸を張ったのだった。
聖火ランナーにも感染防止ルール無視が続出
観客どころか、運営側、さらに聖火ランナーの中にも感染防止ルールを守らない者もいたという、お粗末な実態を暴いたのは東京新聞(3月26日付)だ。「聖火リレー沿道で『密』あちこちに 会食禁止守らぬランナーも」という見出しで、こう報じる。
「いわき市の沿道では観客が二重三重に人垣を作り、肩が触れあうほど接近した。事前の会食禁止を守らなかったランナーがいたことも判明。初日から実効性が問われる事態となった。いわき市の自営業鈴木三郎さん(84)は『やっぱり人は出てきちゃう。福島でも感染者が増えているのに心配だ』と話した。ランナーを先導するスポンサー宣伝車の上では、マスクを着けずに叫ぶDJ(ディスクジョッキー)も。鈴木さんは『見る側に対策を求めているのに、運営側ができていない』と呆れた」
また、聖火ランナーにもルールを守らない人が続出するありさまだ。東京新聞がこう続ける。
「聖火ランナーには、走行前2週間の会食禁止が求められている。ランナーを務めた男性は取材に『勤務先の少人数の送別会に参加した』と明かした。県外から参加するランナーには、走行前72時間(3日)以内にPCR検査を受けることが推奨されているが、複数のランナーが未検査だと証言した。検査費用は組織委が負担するが、ランナーらは『受ける時間がない』『万が一、陽性になると勤務先に迷惑をかけるから』と説明した」
というのだ。
こんな体たらくで、今後120日あまりもランナー集団が全国を走り回って大丈夫なのだろうか。
(福田和郎)