みずほ銀行、なお頻発するシステムトラブルは「人災」 どの企業でも起こりうる、その原因を言おう!(大関暁夫)

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   みずほ銀行でシステム障害が相次ぎ、これが大きな問題となっています。新年度迎えるに際して、予定していた頭取交代までもが白紙に戻るという由々しき事態に陥っています。

   銀行は金銭を扱うがゆえに信用を第一義とする業種であり、システム障害はそもそもあってはならないことではあります。今般のみずほ銀行の場合は、2021年2月28日に8割のATMがストップした障害以来、その後2週間で立て続けに合計4回ものトラブルが相次ぐ異常な事態になっているのです。

   しかも不可解なのは、これまでの調査では4回のシステム障害は相互の関連性は見当たらない、かつ原因はシステム開発会社のシステム構築上に問題があったというハード上の問題でもないのだと。となるとこれは「人災」です。

  • みずほ銀行の相次ぐシステムトラブルは「人災」なのか!?
    みずほ銀行の相次ぐシステムトラブルは「人災」なのか!?
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三菱UFJ、三井住友にあって、みずほにはないもの

   他のメガバンク、すなわち三菱UFJ銀行、三井住友銀行の上位2行では、大きなシステム障害がおきて問題になったなどという話は、ついぞ聞いたことがなく、唯一みずほ銀行でのみトラブルが連続して発生しているという不思議。

   なぜ、みずほ銀行でばかりシステム障害が起きるのでしょう。しかも今回の連続障害は人災。私にはその原因に、思い当たる節があります。その思い当たる節は、3行合併によるメガバンク誕生以来、長くくすぶる組織的な「諸悪の根源」であり、そこからは組織運営における重要なポイントが見えてくるのです。

   この「諸悪の根源」が、過去に最も大きな問題として表面化したのは、旧3行統合システムにおける2回にわたる重大なシステム障害事件でした。みずほ銀行のシステムを紐解けば、そもそも旧日本興業銀行、旧第一勧業銀行、旧富士銀行の3行合併時に、お互いに配慮するあまり、異なるシステムベンダーによる3つのシステムを無理やり統合したいわゆる「曰くつき」の存在でした。

   これはシステム専門家の誰もが「無謀」「危険」と言ってはばからない代物で、いつ大きな障害が発生してもおかしくないと言われてもいたのです。

   でありながら、それを無理に作り上げたのは、リーダーなき3行合併による相互配慮という保身の弊害でした。これに対して、メガバンク上位2行は共に2行合併であり、三菱UFJ銀行における旧三菱勢、三井住友銀行における旧住友勢、どちらがリーダーシップをとって組織を引っ張るかが当初から明確だったのです。

   現実に三菱UFJ銀行では、合併来旧三菱出身者以外がトップに立つことはなく、三井住友銀行では現在大半の役員が旧住友出身者で埋め尽くされています。それぞれの組織風土も、旧三菱、旧住友を踏襲して今に至っています。

3割しかいない旧行派閥の出身者が組織を動かす

   みずほ銀行が相互保身に流れた原因は、3行合併であるうえに旧興銀という戦後長きにわたって政策金融としてある意味国策の一端を担ってきた、他の都市銀行とは一線を画するエリート中のエリート銀行が名を連ねたことにもあります。

   そのため、みずほ銀行はスタート時に、実質旧興銀部分をみずほコーポレート銀行として切り離します。結果、3行の融和は進まず、時々のトップは長らく他の旧行勢に「遠慮」や「配慮」を見せる姿勢を取らざるを得なかったのです。そして、トップを含めた重要ポスト人事を3行で分け合う「たすき掛け」が延々行なわれ、歴代トップの確固たるリーダーシップの確立を阻んできたのです。

   すでに全社員の7割は合併後入社であり、「旧行派閥など今は昔の話」と、みずほの幹部社員は否定します。しかし、残りの3割である旧3行出身者は組織を動かす中枢部に集中しているわけで、暗黙の旧行意識がそこに存在しないはずがありません。

   システム障害で表に出た顔を見てください。持ち株会社みずほフィナンシャルグループの坂井辰史社長は旧興銀出身、みずほ銀行の藤原弘治頭取は旧第一勧銀出身、次期頭取に指名されていた加藤勝彦常務は旧富士銀出身です。「たすき掛け」は厳然と存在しているのです。「たすき掛け」人事は不要な相互配慮という経営の保身以外の何ものでもなく、保身が強いリーダーシップづくりを阻害し続けているのです。

   みずほ銀行は、3者均衡統治の産物であった旧統合システムを二度目の大障害を機に、一からの再構築を決断し、4500億円の巨額を投じて一昨年ようやく稼働に漕ぎ着けました。なのに、なぜ今回また、と思われるでしょうが、今回の4連続障害は冒頭に書いたとおり「人災」です。

   すなわち、強いリーダーシップがないがために、トップのリーダーシップが組織の隅々にまで行き届かず、抜けや緩みが組織の日陰部分に発生して事故や事件につながるのです。

経営者の自己保身は悪い結果しか生まない

   今回のシステム部門がそうなってしまったのは、新システムに移行して1年が経ち弱いトップのリーダーシップでは緊張感が保てず、「もう大丈夫だろう」と現場が緩んだか、「我々はもはや注目されていない」といった一体感の欠落があったか、そのあたりが原因であろうと考えます。すべては強いリーダーシップ不在の組織のなせる業です。

   みずほ銀行の第三者委員会の調査では、ぜひこのあたりにまで突っ込んで調べて欲しいところです。

   中小企業における強いリーダーシップ不在は、合併云々に関係なく圧倒的に起こりやすいポイントがあり注意が必要です。たとえば実権が創業者から二代目、三代目に移った際や超ワンマン経営者の引退で後継がその座った時に、自分が前経営者に反発していた延長で社員に好かれようと八方美人的になったり、先代の組織管理の良い部分を評価することなく、それまでの厳しい管理の反動で悪しき放任主義に移行してしまったりした時などが、それです。

   私は、不祥事や事故が強いリーダーシップの不在や前経営者の強いリーダーシップからの解放などによって引き起こされた例を、いくつも見てきました。経営者は自己のリーダーシップが果たして今、強い状態にあるか否か、自問自答を忘れないことが大切です。

   合併会社における他派閥への遠慮や配慮と同じく、自社社員に対する自己保身からの遠慮や指示躊躇などを捨て去ることが何より重要です。

   経営者の自己保身は、どんな形であれ悪い結果にしかつながりません。経営者の保身は心に巣くう悪魔である、と心していただきたいところです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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