2024年 4月 19日 (金)

コロナ禍でひっそり成立 「賃貸管理適正化法」ってなんだ?(中山登志朗)

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   連載8回目は、賃貸管理のお話。これは賃貸業界には、かなり影響の大きいことですし、賃貸経営している大家さんも、これから賃貸物件を借りようと思っている人も、是非知っておいて欲しい内容です。

   2020年12月15日、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」=賃貸管理適正化法が施行されました。世間的には新型コロナウイルスの新規感染が首都圏で急拡大していたので、さして大きな話題にもなりませんでした。ヒアリングしてみると、知らなかったという不動産会社の方もいらっしゃるので、改めてご説明します。

  • 賃貸管理適正化法、「かぼちゃの馬車」やスルガ銀行の融資問題がきっかけに……(写真はイメージ)
    賃貸管理適正化法、「かぼちゃの馬車」やスルガ銀行の融資問題がきっかけに……(写真はイメージ)
  • 賃貸管理適正化法、「かぼちゃの馬車」やスルガ銀行の融資問題がきっかけに……(写真はイメージ)

「賃貸管理適正化法」は賃貸トラブル解決の切り札になる!?

   この法律は賃貸住宅管理200戸以上の管理業者、サブリース業者(および一緒になって住宅管理業務請負を勧誘する者)、建築会社、ハウスメーカーが対象で、(1)事業者の登録制度や(2)不当な勧誘行為(3)誇大広告の禁止などの規制が盛り込まれています。

   サブリース業者とは賃貸物件を賃貸人(大家さんのことです)から借り上げて賃借人の募集など物件管理全般を請け負う業を営む者のことです。

   当然のことながら、この法律が施行された背景には、賃貸経営を管理業者に事実上一任するサブリース方式の増加に伴って急増する管理業者と大家さんもしくは賃借人とのトラブルがあります。「かぼちゃの馬車」問題に続くスルガ銀行の融資問題、レオパレス問題などは、みなさんの記憶にも新しいことでしょう。

   現在でも、特に管理業者とオーナー間については、家賃保証などの契約条件に関する説明不足やその後の不誠実な態度・対応によってトラブルが多発しており、実際に数多くの訴訟が提起される事態となっていることを重くみた国が(ようやく)法律によって規制するに至ったという経緯です。

   法律の対象となる取引は、オーナーと賃借人との賃貸借契約に基づいて管理業者が管理受託契約を結んだ「受託管理方式」と、勧誘者の勧めで賃貸物件を建設もしくは購入し、その運用をマスターリースおよび管理受託契約によって管理業者一任する「サブリース方式」です。なお、ウィークリー・マンションは旅館業法に該当する運営か否かでこの法律の対象になるかが線引きされます。

   この法律に違反した場合には、罰則規定および行政処分も適用されますから、対象となる管理業者だけでなく、関連する不動産会社、建設業者、ハウスメーカーなどは本法律の熟知がマストです。また上記の登録制度については2021年6月をメドに開始される予定ですから、この登録についても準備を怠らないようにしたいものです。

   賃貸物件を借りようと思っている人もこの法律の存在を覚えておけば、物件を管理する業者と万が一トラブルになった際に、「賃貸管理適正化法」に基づいて対応してくれているのかどうか確認するだけでも業者の対応が変わるはずです(と期待しています)。

「賃貸管理適正化法」のポイント

   この法律が制定されたのは賃貸住宅を巡って、「かぼちゃの馬車」問題やその後のスルガ銀行による融資問題など、企業のコンプライアンスや法規に違反する行為が相次ぎ、その都度消費者であるオーナーも賃借人も多大な経済的損失や精神的被害を受けたことが社会問題となったためです。

   前後してレオパレスの建築基準法違反問題や賃料減額取消訴訟などが発生し、これまでの法規制とは別に、さらに賃貸住宅を巡る管理についての規制を厳しくする必要がコンセンサスを得て、この法律の制定となりました。賃貸業に関連する業務を行う者は、この事実を重く受け止める必要があります。

   この法律のポイントは、大きく分けて2つあります。

   1つは、初めて「サブリース業者の禁止行為と罰則」を規定したことです。禁止行為は2つあって、①誇大広告と②不当な勧誘行為が具体的に禁止されました。誇大広告については、サブリース業者が支払う家賃、賃貸住宅の維持保全の実施方法、マスターリース契約の解除、そのほか省令の定める事項について「著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」をすることを禁じました。

   これによって、たとえば契約に保証賃料改定規定があるのに「新築当初の賃料を30年間保証!」などの広告は、当然にできなくなるということです。

   また、「不当な勧誘行為」とは、マスターリース契約を結ぶために甘い言葉で相手を丸め込むような行為のことです。実際にはオーナー候補が騙されなければ良いとも言えますが、オーナー候補は素人で賃貸物件経営に何も知識がない場合が多く、説明のニュアンスによっては話が違う、騙されたと思う人が多数出たことを問題視したことによるものです。

   2つめは、「管理業者の登録制度と業務に関する義務」を明文化したことです。これまで任意登録だった賃貸住宅管理業者登録制度がこの法律によって義務化されました(これまでに任意登録していても改めて登録が必要です)。悪質な業者を排除し、業界の健全な発展・育成を図るための登録制度とされています。

   登録対象は、委託を受けて賃貸住宅管理業務(賃貸住宅の維持保全、金銭の管理)を行なう者で、管理戸数が200戸以上の事業者ですが、管理戸数がこれに達していなくても登録は可能になるようです(この200戸という数も変更の可能性があります)。

   管理業者の義務については、(1)事務所ごとの業務管理者の配置(2)管理受託契約締結前の重要事項説明(3)財産の分別管理:家賃などは業者固有の財産と明確に分別して管理する(4)定期報告:業務の実施状況についてオーナー他に定期的に報告する――などが明文化されました。

   これらの業務が法制化され、また違反した場合の罰則規定(最大で6月以下の懲役若しくは50万円以下の罰金、またはこれを併科するという規定が設けられました)もあることから、賃貸物件の管理会社は業務内容が法律によって規定されたことになります。こうなるとこれから注目されるのは賃貸不動産経営管理士の資格ではないでしょうか。こういった法整備にも対応できる専門家の育成が急務と言えます。

   いずれにしても、「賃貸管理適正化法」が施行されたことによって、サブリース業者などの管理業者とのトラブルは解決に向けて前進しそうです。また事前にこの法律について多少なりとも知っておくことによって、大家さんも賃貸ユーザーもトラブルを未然に防ぐことができる可能性が高まりました。

   賃貸住宅市場はとてもすそ野の広いマーケットですので、法律の存在を知って、トラブルなく安心して住宅の貸し借りができるようになって欲しいものです。(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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