2024年 4月 25日 (木)

マスクを着けたくても着けられない人に「せんすマスク」 高校生社長に開発秘話を聞いた(後編)【若手経営者インタビュー】

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「自分の会社があるんだから、自分の困りごとを解決しなよ」

   そんな父の言葉をきっかけに「感覚過敏研究所」を設立したのは、クリスタルロード(東京都中央区)の社長で、高校1年生の加藤路瑛(かとう・じえい)さん(15)だ。感覚過敏の人に向けたグッズを製作している。

   自身の悩みでもある「感覚過敏」に焦点をあて、触覚過敏の人に向けた「せんすマスク」を開発。マスクを着けたくても着けられない人に配慮した商品として注目を集めた。

   J-CAST会社ウォッチ編集部が、加藤社長に「せんすマスク」の開発秘話を聞いた。

  • 半透明のせんすマスクを持つ加藤路瑛さん(画像はZoomのスクリーンショット)
    半透明のせんすマスクを持つ加藤路瑛さん(画像はZoomのスクリーンショット)
  • 半透明のせんすマスクを持つ加藤路瑛さん(画像はZoomのスクリーンショット)

父の言葉がヒントに

   加藤路瑛さんが「親子起業支援」のウェブメディアやクラウドファンディングに続く、次の事業について悩むなか、転機となったのは、父からかけられた

「せっかく会社を持っているんだから、自分の困りごとを解決しなよ」

という言葉だ。

「そこで思いついたのが、『感覚過敏』ですが、その時はまだ取り組みたくないと思っていました。自分の困りごとに向き合うのが怖かったんです」

   感覚過敏は「視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚」の感覚が敏感になり、日常生活に支障をきたしていることを指す。加藤さんは聴覚・味覚・嗅覚・触覚過敏を持ち、なかでも聴覚・味覚過敏が特に強いという。

   たとえば、旅行先の名物を食べたいと思っても、においや味で頭が痛くなるために諦めることがあった。しかし加藤さんは父の言葉をきっかけに、感覚過敏に向き合うことを決めたという。

「ぼくは『今を諦めない生き方』をすごく大事にしています。何かやりたいと思ったときに、やらない理由を作らずにすぐやる、という生き方です。
しかし父の言葉で、これまでの自分は感覚過敏を理由に、さまざまなことを諦めていたことに気づきました。自分はこれでいいのかと思い直し、この課題を解決するために感覚過敏研究所の立ち上げを決意しました」

「せんすマスク」空港でも配布

   2020年1月に感覚過敏研究所を立ち上げた加藤さん。最初に製作したグッズは、傍からはわかりづらい「感覚過敏」を可視化するマークだ。視覚過敏はネコ、聴覚過敏はウサギ、味覚過敏はコアラ、嗅覚過敏はゾウ、触覚過敏はハリネズミというように、それぞれの症状に合わせた動物をキャラクターに採用した。マークは缶バッチやシールなどの商品に使用されている。

感覚過敏を可視化する缶バッチ(画像は感覚過敏研究所提供)
感覚過敏を可視化する缶バッチ(画像は感覚過敏研究所提供)

   感覚過敏研究所を設立して間もなく、国内では新型コロナウイルスの感染が拡大した。外出時はマスク着用が必須ともいえる状況になるなか、SNSでは触覚過敏によりマスクを着けられない人に注目が集まるようになった。

   そこで感覚過敏研究所が開発したのが「せんすマスク」だ。プラスチック製で扇子の形状をしており、広げて口元を覆うことで、肌に触れずに飛沫を防ぐことができる。

「触覚過敏の人が着けれるマスクについてSNSで聞いたところ、『溶接の時に使うマスクはどう?』という意見がありました。初めは団扇が思いうかびましたが、いろいろな人とブレストする中で、持ち運びやすさを考えた上で扇子になりました。
また最初は紙製にすることも考えていましたが、飛沫で濡れてしまうため、アルコールで拭いて水洗いもできるプラスチックにしました」

   せんすマスクは20年7月に発売され、取材時点(2021年5月12日)で約7600本が売れている。成田空港ではマスク着用が困難な人のために無料配布されており、最近では結婚式場からも声がかかっているという。

「現在はオンラインショップのみで販売していますが、いろいろな反響をいただいています。最初はハリネズミの絵柄だけでしたが、購入者の声を受けて、透明、半透明、黒のバージョンを追加で作っています。透明なものは表情が見えるので、聴覚障害の方と話すときに使えます」

コロナ禍で「感覚過敏」が知られるきっかけに

「新型コロナウイルスは感覚過敏が知られる、いい機会になった」

   と話す加藤さん。「せんすマスク」は反響を呼んだが、ウイルスを完全に遮断するものではないこと、あくまで飛沫対策であり嗅覚過敏を持っている人には対応しきれていないことから、今後もマスクの開発は続けていくつもりだ。

購入者の意見をもとに改良を重ねた「せんすマスク」(画像は感覚過敏研究所提供)
購入者の意見をもとに改良を重ねた「せんすマスク」(画像は感覚過敏研究所提供)

   加藤さんにこれからの展望を聞いてみると、

「感覚過敏研究所として、五感に優しいアパレルブランドの立ち上げを準備しています。服の縫い目を外側にして、段差を少なくし、痛いところを少なくしました。靴下の開発もしています。
感覚過敏の研究も少しずつ始めていて、今は『味の錯覚』を研究しています。VR世界ではコーラを手に持っていますが、現実の世界では炭酸水を持っている。それを飲んだらコーラの味に錯覚するか、というものです。
感覚過敏で食べられないものが多い人は少なくなくないので、もし錯覚できるようになれば、栄養バランスよく食べることができるようになるかと思います」

   起業を経験したことによって、加藤さんは

「視野が広くなり、社会のイメージが変わった。それほど怖くないなと思いました」

と言う。

   起業を通じて大切だと思うことを聞くと、

「今を諦めない選択が本当に重要だなと思いました。それがすべての事業の根本にある気がします」

と話す。

(会社ウォッチ編集部 笹木萌)

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