コロナ禍でも売れ行き好調? そんな現物の投資用物件をさぐると......(中山登志朗)

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   今回は投資用物件の流通についてのお話です。投資用物件というと、「しつこくワンルーム・マンションの勧誘を受けて困った」とか、「アパートオーナーになれば、その日から不労所得があなたのものになると売りつけられた」とか、さまざまネガティブなイメージをお持ちの方も多いと思います。

   さらに最近では、国民生活センターによると、そのような相談に代わって賃貸住宅退去時の原状回復や敷金返還に関するトラブル、訪問販売によるリフォーム工事や点検商法関連のトラブルが増えているそうですから、どうぞご留意ください。

   さて、今回の不動産コラムはトラブル絡みの話ではなく、コロナ禍の状況でも、投資家が進んで投資用不動産=マンションやアパート1棟などを購入しているというお話です。

  • コロナ禍でも、投資用不動産の動きは活発なようだ(写真はイメージ)
    コロナ禍でも、投資用不動産の動きは活発なようだ(写真はイメージ)
  • コロナ禍でも、投資用不動産の動きは活発なようだ(写真はイメージ)

好調な株価推移で資産の付け替えが進む

   現在、首都圏や近畿圏を中心に中古住宅市場が全般的に活性化しているという話は聞いたことがある人も多いかと思いますが、なぜ流通市場が活性化し、物件価格が上昇しているのでしょうか。

   その要因は主に3つ。最大の要因は、コロナ禍でも安定して高値推移している銘柄を運用していた人が、そろそろ頃合いと見てその株式投資で得た含み益を再投資、すなわち現物資産に付け替え始めていることです。

   ただでさえ、コロナ禍で住み替えのハードルが上がったと感じている購入予定者は多く、中古住宅の流通市場では需要と供給のバランスがタイトになったことで物件価格がじわじわ上昇していましたが、そこに投資家のニーズが加わることでさらに中古住宅への需要が高まり、エリアによって、また物件の特性によって、築年数によっても異なるものの、「売れ筋物件」の市場価格は明らかに高騰し始めています。

   2つめの要因は、上記の理由で需要と供給が逼迫し始めていることです。中古住宅の購入者は成約に至るまでに平均5~10件は内見すると言われるように、市場には購入希望件数の数倍の物件があって初めて、需要に合った物件がマッチング可能であると言われています。

   売主サイドが住み替えし難い状況と判断すれば、当然売り物件は減少するため、需給はタイトになり、いわゆる「買い進み」の状況になって価格が上昇するのです。

   3つめは、新築物件の供給減です。新築市場、特に新築マンションは昨年1回目の緊急事態宣言時には首都圏でも近畿圏でも月間数百戸程度の分譲に留まり、その後回復してはいるものの、まだ従来の供給体制には戻りきっていません。これらの住宅ニーズの受け皿を流通市場が担ったことも中古住宅の価格を押し上げる要因となっています。

住宅取得需要は投資物件にも拡大

   さて、このように中古住宅全般に対する需要が高まりを見せる中で、価格上昇が発生している状況は、実需物件ばかりではありません。投資用物件についても同様の傾向が顕在化しています。

   これは上記の、中古物件の価格上昇の最大の理由である投資家の資産付け替えが発生し始めていることが影響しています。株式投資で得た含み益は、株価のようにボラティリティ(=値動きの幅)の大きな資産ではなく、不動産のようにボラティリティは小さいものの、安定した収益を長期にわたって上げ続けるものに再投資するのが基本ですから、現物資産である中古住宅に目が向くということになります。

   また、新築物件購入に意識があまり向かわないのも同様の理由で、特に都心で建設中の大規模タワーマンションなどは引渡し(=決済)までに数年を要することもあるため、再投資先としては今すぐ資産が付け替え可能な現物資産が適しているという判断になります。

   この中で最も含み益の再投資に適したものと言えば、賃貸用の住宅です。上記の要因に掲げたとおり、ある程度のまとまった収益を株式投資によって得た投資家は、その利益を確定させるべく株を売却し、その資産を利回りが安定している賃貸物件に再投資し始めています。

   「90年バブル」がはじけて以降は株価の長期低迷が続き、株式投資で大きな利益を上げられる可能性がなかったため、不動産投資や、デフレに強い金地金やプラチナの購入などが人気を集めていましたが、ここ数年は日経平均株価の順調な推移もあって、日本経済の先行きに対する期待も高まり、株式投資が注目されていました。相対的に不動産投資の人気はやや軟調でしたが、コロナ禍によって、さらに状況が変わり、株式や社債、不動産など投資期間が異なる対象に分散投資するようになっています。

イールドギャップを強く意識しなくても購入可能な投資家

   不動産投資に関わらず、投資全般においては資金の調達金利と投資先の利回りの差=イールドギャップが重要だと言われます。

   投資はお金を借り入れてまで行うものではないという原則論ももちろんありますが、少ない自己資金をより大きくするためには、低コストで資金を借り入れてそれを(調達金利より)高い利回り益が期待できる対象に投資することが成功へのプロセスであるとの主旨です。

   つまり、このイールドギャップが大きければ大きいほど、レバレッジ(=梃子の原理)が効いて手元に残る差益が大きくなるということになるのですが、実際には期待利回りが大きい投資対象ほど、「博打」の要素が強くなるので、一般に利回りが5%前後(=回収期間20年前後)のものに投資するべきとの指南が多いようです(経験値によるもので明確な根拠はありません)。

   不動産投資に融資している金融機関では、対象者の与信によっても大きく異なるものの、概ね1~4%程度の金利で資金提供されていますから、イールドギャップを仮に3ポイント程度に設定すると、4~7%の利回りを得ることが当面の目標となります。

   しかし、株価の安定推移によって含み益を賃貸物件に付け替えようと考える投資家は(含み益の規模にもよりますが)調達金利を考慮する必要がないケースや僅かで済むケースが数多く認められます。つまり資金計画に余裕がありますから、より長期的な安定収益が望める優良資産=都心・近郊の資産価値の落ちにくい賃貸物件を探しているということなのです。

   不動産投資は長期保有&運用が基本です。長期運用するには、物件の資産価値が大きく目減りしないこと(売却差損=キャピタルロスを少なくすること)が最大のポイントです。インカムゲイン(賃料収入から手数料や税金を差し引いた利益)を意識して、新たに不動産投資を検討している投資家が増えているという状況が、投資用賃貸物件の流通を活性化させているのです。(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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