【日韓経済戦争】安倍政権の「愚策の極み」と朝日新聞が酷評した日本の輸出規制 韓国メディアは「勝った」の大合唱だが...

   2019年7月、当時の安倍晋三政権が韓国の半導体部品の輸出規制を行い、激烈な「日韓経済戦争」が始まって3年目に入った。

   日本と韓国の対立はいっこうに収まる動きがないが、韓国では着々と日本に依存しない産業構造への移行が国を挙げて進められている。

   韓国メディアの間では「日本に勝った」という論調が一般的だが、日本では「愚策の極み」だったという論調まで出ている。日韓双方の新聞を読み解くと――。

  • 「克日」政策である程度国産化に成功した文在寅大統領
    「克日」政策である程度国産化に成功した文在寅大統領
  • 「克日」政策である程度国産化に成功した文在寅大統領

聯合ニュース「日本への依存度が減った」

   日韓双方のメディアで振り返る企画記事が目立つ。共通しているのは「安倍政権の愚策」だったということ。韓国にとっては日本に依存してなるものかと、半導体部品の輸出規制3品目の国産化を進め、対日依存度は大幅に減らした。これらを韓国に輸出していた日本企業にとっては大打撃だが、当の企業は悲痛な声も上げられない状態が続いている。日韓双方のメディアから読み解く。

   聯合ニュース(2021年6月27日付)「日本の輸出規制から2年 中核品目の供給網安定化で進展」が、日本が規制した品目の国産化に着々と成功しつつある韓国の現実を、こう伝える。

「2019年7月に日本政府が半導体などの製造に必要なフッ化水素、フッ化ポリイミド、レジスト(感光材、フォトレジスト)の3品目の対韓輸出規制を強化してから2年が経つが、中核品目の需給環境が安定的に維持され、韓国の産業現場に大きな問題はない。
輸入先の多角化で、素材・部品分野の日本への依存度が下がり、一部の素材・装備(装置や設備)の国産化に成功するなどの成果も出ている。ただ、中核素材・部品の場合、依然として日本の影響力が大きく、装備分野での国産化率が低いため油断はできず、供給網の安定化に向け、日本を完全に排除せずに競争力を備える努力が必要だ」

として、次のように成果を強調した。

「韓国貿易協会によると、今年(2021年)1~5月の極端紫外線(EUV)用フォトレジストの輸入のうち、日本からの輸入が占める割合は85.2%で、輸出規制前の2019年1~5月(91.9%)に比べると6.7ポイント下がった。輸出規制後、国内業界がベルギーを通じてフォトレジストを迂回(うかい)輸入した効果が表れたのだ。
フッ化ポリイミドは、日本からの輸入の割合が今年1~5月に93.6%と、前年同期(93.9%)より0.3ポイント下落した。高純度のフッ化水素(エッチングガス)は今年1~5月の日本からの輸入の割合が13.0%で、2019年1~5月(43.9%)に比べると3分の1の水準に下落した」

   また、日本の輸出規制の対象外である素材・部品分野全体でも、対日依存度は過去最低となった。聯合ニュースが続ける。

「産業通商資源部(編集部注:『部』は韓国政府の『省』にあたる)の素材部品総合情報網によると、今年1~4月の韓国の素材・部品の累計輸入額647億9500万ドルのうち、日本からの輸入額は96億9600万ドルで15.0%を占めた。前年同期(16.1%)に比べ1.1ポイント下がり、関連統計の作成が始まった2001年以降で最低だった」

   文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、日本の輸出規制以降、産業界の対日依存から脱却する「克日」政策を推し進め、特に安全保障上の重要性と産業への波及効果が高い100大中核品目を選び、政府が集中管理に乗り出したが、その方面でも成果をあげたという。

日本の輸出規制に対抗に成功したと報じる聯合ニュース(6月27日付)
日本の輸出規制に対抗に成功したと報じる聯合ニュース(6月27日付)
「輸入先を欧州連合(EU)、米国などに多角化する一方、品目別に平均的な在庫水準を既存の2倍以上に拡充した。100大中核品目を含む338以上の世界中核品目に関連しては7000社余り対する需給動向のモニタリングを常時行い、今年5月までに需給問題1205件(99%)を解消した」

   つまり、100大中核品目に関して、日本が再び輸出規制の圧力をかけてきても需給に困る品目は1%だけという体制を敷くことに成功したというわけだ。ただ、まだ道のりは長いとの指摘が出ている。高付加価値の先端素材分野で日本の影響力がまだ大きく、装備分野の国産化率が低い。特に、半導体装備は海外依存度が80%にのぼる。

「結局、素材・部品・装備分野の根本的な競争力強化に向けさらに多くの投資と時間が必要であり、政府と企業の努力が継続されなければならない」

と、聯合ニュースは気を引き締める。

ハンギョレ新聞「大企業と中小企業の連携が深まった」

   いずれにしろ、韓国のシンクタンク、産業研究院のキム・ヤンペン専門研究員は、聯合ニュースの取材に対し、こう胸を張ったのだった。

「輸入の割合をみると日本への依存度が少しずつ低くなっているのは明確な事実だ。過去2年間、わが国の産業に被害がほぼなかった。日本の輸出規制の目標達成が事実上失敗したとみるべきだ。供給網安定化の側面で日本との協業を排除することは難しいが、今後も輸入先の多角化、国産化を続け、日本との交渉を有利に進められるようにしなければならない」

   ハンギョレ新聞(6月28日付)「日本の輸出規制から2年...韓国の大企業・中小企業の連携強まり、産業の自生力アップ」も、韓国の政財界人たちの「勝利宣言」を、こう伝えている。

   「日本の輸出規制当時、産業部産業政策室長として素材・部品・装備育成策を率いた大韓貿易投資振興公社のユ・ジョンヨル社長は、『韓国経済の不確実性を高めた日本の措置に、国民と企業、公共機関、そして政府が一丸となって対応した代表例だ。狭い市場、高い技術力でアプローチが容易でない素材・部品・装備の分野で、さまざまな主体の間での連帯と協力のムードが拡散したという点で意味がある』と評価した。ユ社長は「(素材・部品の)需要企業にとっても、特定国家(日本)だけに依存していたサプライチェーンを再点検し、中小供給企業と緊密な協力環境を構築しなければならないということを改めて認識する契機となった」と述べた。

   韓国は日本以上に、大企業が下請けの中小企業を徹底的に締め付ける体質を持っているといわれる。それが「克日」を契機に大企業と中小企業が、対等に連携する機運が生まれたというのだ。ハンギョレ新聞が続ける。

「半導体装備会社ジュソン・エンジニアリングのファン・チョルジュ会長も、素材・部品の需要先の大手企業と供給を担当する中小企業間の協力関係を強化する契機になった点を評価した。ファン会長は『日本の措置は韓国に協力関係強化という良いムードを作り、素材・部品・装備の重要性を刻印した。過去10年かかることを1年で行った』と述べた。依然として宿題は残っている。主要品目の対日依存度はまだ絶対的に高く、不安定性を帯びているという点だ」

   ハンギョレ新聞は結びで、

「日本の規制がいつまた強化されるか分からず、ここに国際的なサプライチェーン再編の動きも変数として浮上している。現在進行中の政策と事業を地道に一貫して推進することが重要だ」

と述べて、「勝って兜の緒を締めよ」と呼びかけるのだった。

朝日新聞「日本企業いじめの問題だらけの悪手」

「愚策の極み」とも批判された安倍晋三・前首相
「愚策の極み」とも批判された安倍晋三・前首相

   一方、日本のメディアはこの2年間の「日韓経済戦争」について、日本の「勝利」には悲観的だ。朝日新聞(2021年7月4日付)「社説余滴:3年目の『愚策の極み』」で箱田哲也論説委員(元ソウル支局長)が、日本の輸出規制措置は安倍晋三政権(当時)のトンデモない愚策だったとこき下ろしている。

「日本政府が2年前、半導体素材の韓国への輸出規制を強めたのは、問題だらけの悪手だった。日本企業に賠償を命じた韓国の徴用工判決に、何ら是正措置をとらない韓国政府への報復だ。日本企業への影響を最小限に抑え、韓国に強い痛手を感じさせる措置はないか――。当時の安倍官邸からの無理難題に各省庁とも頭を悩ませた。『採用』されたのは韓国の心臓部にあたる半導体素材に手を突っ込む荒療治。だが外務省や経済産業省から慎重論が出た」

   箱田記者はこう続ける。

「実務者らが最も心配したのは、日本の関係企業にかなりの損害がでる恐れに加え、当該企業から訴えられかねないことだった。それでも安倍官邸の指示は『いいからやれ』だった。官僚らの懸念は半分が的中し、輸出量は激減した。当該企業の関係者たちに話を聞くと、好調の事業が暗転した2年間の労苦とともに、今後の底知れぬ不安の声が漏れた。『いろんな世論があると思うが、私たちが何をしたというのか。世界的な半導体不足の中、本当にこれでいいのか』との切実な声もあった」

   他方、日本との取引が止まった韓国企業の担当者は箱田記者の取材に、「韓国政府の支援策で国産化も進み、実害はない。日本の友人らが本当に気の毒だ」と、同情したという。

   箱田記者はこう結んでいる。

「(徴用工裁判で)確定した日本企業の賠償金とは比較にならない巨額の損失を、まったく無関係の日本企業に出させてよいわけがない。安倍政権が終わったからか、成果がさっぱりだからか、ある日本政府関係者は『結果として愚策の極み』とまで言い切る。しかし、何も変わる気配はない。『愚策の極み』は3年目に入る」

(福田和郎)

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