2021年 9月 22日 (水)

東電の新会長に小林喜光氏 経産大臣が「説得」した手腕に課せられた「重すぎる」課題

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   空席だった東京電力ホールディングス(HD)の会長に、前経済同友会代表幹事の小林喜光(こばやし・よしみつ)氏が就任した。2021年6月29日の定時株主総会で、小早川智明社長ら取締役10人を再任、小林氏ら取締役3人を新任する議案が賛成多数で可決された。

   福島第一原子力発電所の事故(2011年3月)後に実質国有化された東電は、収益力の低下に加え、不祥事も相次ぐ。多くの難題が待ち受ける東電再建には、財界重鎮の小林氏といえども、苦労しそうだ。

メイン画像 キャプション  廃炉、どう進める......(写真は、東京電力・福島第一原子力発電所。出典:東京電力ホールディングス)
  • 廃炉、どう進める……(写真は、東京電力・福島第一原子力発電所。出典:東京電力ホールディングス)
    廃炉、どう進める……(写真は、東京電力・福島第一原子力発電所。出典:東京電力ホールディングス)
  • 廃炉、どう進める……(写真は、東京電力・福島第一原子力発電所。出典:東京電力ホールディングス)

「明」の三菱ケミカル、「暗」の東芝、みずほFG

   東電の会長は、経営再建、ガバナンス(企業統治)の再構築の「要」と位置付けられる。原発事故で当事者能力が低下するなか、外部から会長を招き、企業風土の改革を進めることが、経営再建の基盤造りに不可欠ということだ。

   国有化以降、企業再生のプロである弁護士の下河辺和彦氏、JFEホールディングス(HD)の数土文夫元社長、川村隆・日立製作所元社長が会長を務め、川村氏が20年6月に退任してから、会長は空席だった。

   「空席は早く埋めたい、かといって誰でもできる職ではない」(経済産業省関係者)とあって、経済界で、小野寺正KDDI前会長、宗岡正二・日本製鉄前会長らの大物の名前がいくつか浮上した。

   その中で、東電の筆頭株主である国の原子力損害賠償・廃炉等支援機構の運営委員として再建計画の策定に関わってきたほか、12~15年には東電の社外取締役も務めた小林氏に白刃の矢が立った。当初は小林氏も固辞したが、最終的に梶山弘志経産相も説得に乗り出し、就任が決まった。

   小林氏は三菱ケミカルHD社長として、三菱系3化学の合併会社の組織見直し、働き方改革に取り組み、不採算事業にもメスを入れるなど立て直し、21年4月には外国人社長としてジョンマーク・ギルソン氏(ベルギー国籍)を就任させるなど、辣腕を振るった。

   経済同友会代表幹事(2015~19年)時代も歯に衣着せぬ発言と改革姿勢には定評があり、規制改革推進会議議長のほか経済財政諮問会議の民間議員なども務め、政府の経済政策立案にかかわった。

   こうした経歴から「今回は小林さんしかいなかった」(経産省筋)との評がもっぱらで、経済界などで、文字通り「火中の栗」を拾う決意をした小林氏を称賛する声が聞かれ、手腕への期待は強い。

   ただ、「黒歴史」とまではいわないものの、ややグレーな経歴もある。東芝の社外取締役に2015年に就き、20年退任するまで取締役会議長や指名委員会委員長も務めたが、小林氏の後任の永山治氏(中外製薬特別顧問)が21年6月の株主総会で再任を否決されたのは記憶に新しい。

   参考リンク:「株主が『ノー』前代未聞の異常事態! 東芝経営に『救世主』は現れるのか?」(J-CAST会社ウォッチ 2021年7月4日付)

   20年7月の東芝株主総会での経営陣と経産省による「不当介入」が原因で、小林氏が会長退任した総会のことだけに、責任の一端を追う立場にある。

   小林氏はまた、20年6月から、みずほフィナンシャルグループの社外取締役も務めるが、みずほFGはこの間、システム障害を繰り返し、役員が処分されるなど、経営体質が問われている。もちろん、一人にできることは限られているが、小林氏といえども、オールマイティであるわけではないということだ。

東電が抱える課題

   小林氏を迎える東電が抱える課題は多い。列挙すると、(1)原発事故の処理費用を確保のための収益力回復、(2)福島第1原発の処理水の海洋放出、(3)柏崎刈羽原発(新潟県)のテロ対策不備など一連の不祥事の調査と再発防止、(4)脱炭素に向けた取り組み――などになる。

   中長期的な課題である(4)は除き、まず、(1)では、電力自由化により首都圏の販売競争が激化し、新電力のシェアは1月時点で30%近く、全国平均を8ポイント上回る。都市ガスの販売などでも電力の売り上げ減をカバーしきれない。

   政府は、福島第一原発の廃炉など事故処理費用を約21.5兆円と見積もり、うち約16兆円を東電が負担する計画。東電が17年に策定した再建計画で、事故処理のため毎年5000億円程度を確保するとしているが、21年3月期に確保できたのは3778億円にとどまり、計画どおりにいかなければ、将来的に電気料金値上げや税金の投入が必要になる。

   資金確保、収益確保で、特に重要なのが柏崎刈羽原発の再稼働だ。(3)の問題はJ-CAST会社ウォッチ「東電の収益計画、再び暗礁 頼みの柏崎刈羽原発「再稼働」できず......」(2021年4月6日付)で詳報したように、国の原子力規制委員会は2021年3月31日、外部からの不正侵入を検知する設備の点検や改善活動を怠っていたこと、社員が同僚のIDカードを使って中央制御室に不正に入室していたことについて、原子炉等規制法にもとづき、核燃料の移動禁止という商用原発では初めての行政処分(是正措置命令)を出した。

   燃料移動禁止とは、原発を稼働できないという意味で、再発防止のための措置と、規制委による検査には少なくとも1年はかかるとされる。

   6、7号機が稼働すれば1基あたり年1000億円規模の収益改善効果が見込まれる柏崎刈羽原発の再稼働は、東電の経営再建と事故処理費用捻出に不可欠と位置付けられてきただけに、東電の収益計画への影響は大きい。21年3月に中期経営計画のためにまとめた試算では、柏崎刈羽原発の再稼働できない場合、23年3月期に450億円、24年3月期は750億円の利益を押し下げるとしている。

   (2)の処理水の海洋放出は、炉心溶融で溶け出した燃料などを冷却する水と地下水が混じり合った高濃度の放射性物質を含む「汚染水」を処理した水がたまり続けている問題で、J-CAST会社ウォッチ「汚染処理水の海洋放出  原発推進派と反対派それぞれの言い分」(2021年4月16日付)などで報じたように、政府は21年4月、水で薄めてトリチウムの濃度を環境基準以下にした処理水を23年をめどに海洋放出する方針を決めた。だが、風評被害を心配する地元漁業者らの反発は強い。

「原発の地域のみなさんの信頼を失ってしまった。安全の確保や信頼の回復の取り組みを主導するのが第一の使命だ」

   会長就任が内定した4月28日、小林氏は会見で述べた。

   小林氏がいかにガバナンスを強化し、原発の地元住民・自治体との信頼関係をどう再構築していくか。公益企業の親方日の丸体質にどっぷりつかってきた組織が簡単には変われないことは、この間の不祥事を見れば明らかだ。小林氏の過去の「成功体験」がそのまま東電でも通用する保証はない。エネルギー政策という国策を進めるためにも、国(経産省)が、小林氏と二人三脚で責任を果たしていくことが欠かせない。(ジャーナリスト 岸井雄作)

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