2024年 4月 17日 (水)

経営者必読! コロナ禍の「経営のバイブル」『論語と算盤』を日ハム・栗山監督が大谷選手に薦めたワケ(大関暁夫)

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   米メジャーリーグ、ロスアンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手が、今シーズン投手と野手の「二刀流」で大活躍をしているのはご存じのとおり。彼の動静がさまざまな形でメディアに取り上げられる中で、その愛読書として渋沢栄一の名著「論語と算盤」が紹介されていました。

   なんでも、北海道日本ハムファイターズの一員としてメジャーリーグを目指していた頃に、「二刀流」育ての親でもある栗山英樹監督から、この本を勧められたのだといいます。

  • 「論語と算盤」は渋沢栄一の思想の集大成(画像は、NHK大河ドラマ「青天を衝け」のホームページより)
    「論語と算盤」は渋沢栄一の思想の集大成(画像は、NHK大河ドラマ「青天を衝け」のホームページより)
  • 「論語と算盤」は渋沢栄一の思想の集大成(画像は、NHK大河ドラマ「青天を衝け」のホームページより)

社会の利益を考える「渋沢思想」

   「論語と算盤」は1916(大正5)年に、渋沢栄一の思想の集大成としてまとめられたものです。時は我が国が近代化に進んだ動乱の明治時代を経て、日清、日露戦争に連勝し好景気と世界の列強入りという自負から、浮かれぎみの風潮が漂っていました。

   当時のビジネス界では、立身出世、金もうけ主義がまかり通っており、渋沢の書はそんな時代の風潮に一石を投じ、浮かれたムードを諫め、本来あるべき事業への取り組み姿勢を明示したものだったのです。

   その趣旨を簡単に紹介すると、渋沢の主張は大きく二つ。一つは、道義を伴った利益を追求せよということ。道義とは人が行なうべき道徳を伴った道筋のことであり、すなわち人の道から外れる商売はしてはいけない、ということになります。

   今一つは、自分の利益に偏ることなく社会の利益である公益を伴うビジネスをしなさいという主張です。企業は社会的存在であり、ビジネスを通じて社会貢献をするということを常に念頭に置おいて企業活動をしなさい、ということです。

   渋沢氏は我が国近代資本主義の父とも言われており、国立銀行をはじめとして600近い企業の設立にかかわっているのです。すなわち、明治の産業勃興期に立ち上がった多くの企業は渋沢の考え方を取り入れて起業したわけで、これらの企業が今に至る多くの日本企業の源流に位置するものと考えると、今も企業が掲げている経営理念や社訓といった自社の社会的存在意義を示した文言の多くは、渋沢の思想の影響を受けたものとも言えるのです。

コロナ禍と大河ドラマで注目! 企業経営の教科書

   戦後起業した企業の多くが、自社の経営理念に常に忠実であった否かは別としても、企業理念を掲げ日本の戦後復興である高度成長期を支えてきた礎には、渋沢の思想が少なからず影響を与えてきたとも言えるでしょう。

   ちなみに、京セラ創業者で多くの経営者の思想に影響を及ぼしている稲盛和夫氏などは「論語と算盤」の伝道者としても有名であり、今も多くの経営者が間接的に渋沢栄一の経営思想を受け継いでいるわけです。

   このように企業経営の教科書とも言えそうな「論語と算盤」ですが、大谷選手の話とは別に、今また経営者のあいだでこの本やそれに関する書籍を読んでみようという機運が高まっていると聞きます。

   今年(2021年)のNHK大河ドラマで渋沢栄一が取り上げられていることもありますが、個人的にはたまたま時代がそれを必要としているからではないかと思っています。

   というのは、コロナ禍のような未曽有の危機の時にこそ経営者は原点に立ち返ることが重要であると、ここまでこの危機を乗り切ってきた複数の経営者が原点回帰という言葉をキーワード的に口にしているからです。

   彼らは、いつ終わるとも知れぬコロナ禍の不安な状況に加えて、テレワークなどの進展により働き方の多様化や副業との掛け持ち化なども進むことで、今後社員の会社に対する帰属意識が薄らいでいくことが大いに考えられるのだと言います。

   そんな中で、社内の求心力を高めつつコロナ禍の難局を乗り切っていくには、今改めて創業の想いに立ち返り経営理念や社訓に謳われている自社存立の社会的意義を再認識しつつ社員との共有をはかっていくことが重要なのだ、というのです。「論語と算盤」はそんな経営者たちの言葉を正しく理解し実践するための、原点の手引書として注目されているのかもしれません。

「論語と算盤」と二刀流

   日本の近代化をけん引した民間企業創業の祖ともいえる渋沢栄一は、企業経営者にとっては立ち返るべき原点に立つ人であり、その著書「論語と算盤」はまさしく祖が記した企業経営の基本の心であると言えるのでしょう。

   コロナ禍において渋沢のこの書は、経営的に苦しい中で利益を生み出すことに焦って道徳心に欠ける行動に出てしまっていないか、自己のビジネスが社会的存在であることを忘れ公益という考え方に目をつぶりがちになってはいないか、と語りかけているように思います。

   さて、大谷翔平選手の話。栗山監督はなぜこの元祖ビジネス書を彼に読ませたのでしょうか。表面的には「論語と算盤」という相容れない二つのことをいかにして両立させるのか、という二刀流の極意について偉人の教えから何かヒントを得よということだったのかもしれません。

   しかし、何事にもまじめに取り組む大谷選手は、この書から渋沢の真意である道徳心や公益優先といった考え方を学びそれを彼の行動に取り入れることで礼儀正しさや謙虚な姿勢に磨きがかかり、国籍、年代、性別を問わぬ多くの味方や支援者を得て、故障・手術・リハビリという苦難を乗り越え今の栄光をつかんだのだと思います。

   野球といえども、プロである以上それはビジネスです。東京学芸大卒で教職免許を持つ球界きってのインテリでもある栗山監督は、ビジネスの基本を学ぶことが、大谷選手がビジネスの坩堝(るつぼ)でもあるアメリカメジャーリーグでの成功につながるだろうと、恐らくそこまで考えたうえで彼にこの書を薦めたのでしょう。

   「論語と算盤」が「基本のキ」を教えるビジネスにおける原点を記した書であるがゆえ、あらゆるビジネスを成功に導く万能の書であるのはないでしょうか。

(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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