2024年 4月 26日 (金)

「転勤と単身赴任は昭和の悪弊だ」NTT澤田社長の英断に歓迎エール殺到! でも、どうやってなくすの? 担当者に聞いた

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「通信の会社なのだから、昭和から新しいスタイルに変えていきたい」

   こう言って、NTT(日本電信電話=持ち株会社)の澤田純社長(66)が、働く人の多くが嫌がる転勤や単身赴任の廃止を進めることを宣言した。

   転勤や単身赴任は「昭和の悪弊」だというわけだが、32万人の従業員を持つ巨大企業の動きだけに経済界に衝撃が走っている。

   いったい、NTTはどうやって転勤と単身赴任をなくそうとするのか――。担当者に聞いた。

  • 夫には単身赴任せずにそばにいてほしい(写真はイメージ)
    夫には単身赴任せずにそばにいてほしい(写真はイメージ)
  • 夫には単身赴任せずにそばにいてほしい(写真はイメージ)

「リモート中心にすれば転勤や単身赴任がなくなる」

   NTTの突然の大改革発表を朝日新聞(9月28日付)「NTT、転勤や単身赴任を段階的に削減 リモートワークで脱・昭和」が、こう伝える。

「NTTは9月28日、転勤や単身赴任を2022年度以降、段階的に減らすと発表した。社員はリモートワークを基本とし、働く場所を自ら選べるようにする。子育てや介護などの事情を抱える社員が働きやすい環境を整えて業務の質を高めるほか、優秀な働き手の確保にもつなげたい考えだ。
『職住近接によるワークインライフの推進』として、国内外32万人のNTTグループ全体として取り組む。記者会見した澤田純社長は『昭和の流れから、新しいスタイルに変えていきたい。通信の会社としてリモート中心の働き方をリードし、転勤や単身赴任がなくなるように持っていく』と話した。
社員が自宅や出先でもオフィスと同様に働けるよう、必要な機器やインフラは23年度までに整える。また、(現在の60程度から)全国260以上にサテライト拠点を設け、首都圏から地方に職場を分散していく。リモートでの働き方を前提とした採用も進める」

   この日、NTTは「新たな経営スタイルへの変革について」(埋込リンク:https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/09/28/210928b.html)として、全部で10項目にもわたる経営の大改革を発表。その中では、転勤・単身赴任の原則廃止については、簡単にこう触れられているだけだ=下図参照

「転勤・単身赴任不要」のNTT改革案(NTTのプレスリリースより)
「転勤・単身赴任不要」のNTT改革案(NTTのプレスリリースより)
「(8)職住近接によるワークインライフ(健康経営)の推進。
社員の働き方はリモートワークを基本とし、自ら働く場所を選択可能(転勤・単身赴任不要、リモート前提社員の採用、サテライトオフィスの拡大等)
『一極集中型組織』から、自律分散した『ネットワーク型組織』へ改革」
そして、現在約60あるサテライトオフィスを、2022年度(来年度)に260拠点に増やすという。

   巨大企業のNTTとしては、10項目ある大きな経営改革の中のワンテーマかもしれないが、転勤を余儀なくされてきた一般的な会社勤めの人間にとっては、最も関心がある画期的な試みだ。いったい、どうやって実現しようというのか――。

   J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、NTTグループ本社広報室の担当者に話を聞いた。

単身赴任を2回した澤田社長「あまりよくない」

   ――今回の転勤・単身赴任をなくす試みの一番の目的、狙いは何でしょうか。

広報担当者「業務変革やDX(デジタルトランスフォーメーション)、制度見直しや環境の整備を進めることによって、リモートワークを推進して、ワークインライフ(健康経営)の推進およびオープン、グローバル、イノベーティブな業務運営を実現するためです。
リモートワークが基本となると、業務に働く場所が制限されることがなくなりますから、自ら働く場所の選択が可能になります。結果的に転勤・単身赴任が不要になると考えています」

2回単身赴任を経験、「あまりよくないね」という澤田純・NTT社長(公式サイトより)
2回単身赴任を経験、「あまりよくないね」という澤田純・NTT社長(公式サイトより)

   ――澤田純社長は記者会見で「昭和の流れから、新しいスタイルに変えていきたい」と発言されていますね。澤田社長の発言の背景には、転勤について何か個人的な原体験があるのでしょうか。

広報担当者「澤田自身も2回単身赴任(1回はアメリカ)を経験しており、あまり単身赴任しないほうがいいと感じたとのことです」

   ――転勤・単身赴任をなくす試みは、具体的には今後、どういうプロセスで進めていくのでしょうか。その際、ネックとなる問題点や課題があるとすればなんでしょうか。

広報担当者「今後、持ち株会社を含めた主要会社で具体的な検討を進めていきます。課題としては、これまでの以上に『働く時間』と『働く場所』の自由度を高めていくことが必要になります。
そのためには、これまで導入・見直してきた諸制度、たとえば分断勤務(編集部注:1日の所定労働時間を分けて勤務すること、分割勤務とも呼ばれる)やスーパーフレックス(編集部注:従来のフレックス制度からさらに踏み込んで、働く時間や働く場所まで自由に自分で決められる制度)などのさらなる推進と定着を図ります。また、同時にワークプレイスの見直しや、サテライトオフィスの充実などの環境面の整備を進めます。
そして、リモートワークを基本とする働き方の促進に向けて、業務プロセスや情報管理などの社内ルール、評価や人材育成などをリモートワークに対応させていくように見直していく考えです」

   ――発表資料には「リモート前提社員の採用」とありますが、転勤・単身赴任をなくすには、やはりリモート作業が前提になるということでしょうか。その場合、インフラ関係など現場作業が中心でリモート作業ができにくい職種の従業員はどうなるのでしょうか

広報担当者「リモートワークが基本となることによって、結果として転勤・単身赴任が不要となります。お客様情報を扱うコールセンター業務や設備の保守や工事といった、現地での作業が必要となる業務についても、リモート化の取り組みを進めております。
また、リモート化の環境整備やセキュリティポリシーの見直しなどで、リモートワークが可能な業務を増やしていきます」

オフィスは対面交流よるアイデア創出の場にする

転勤・単身赴任ナシの前提はリモートワークだ(写真はイメージ)
転勤・単身赴任ナシの前提はリモートワークだ(写真はイメージ)

   ――ところで、コロナ禍の中でリモート作業を取り入れる企業が増えていますが、逆に職場の仲間とのコミュニケーションが減ったことなどでストレスが増えて、対面回帰の傾向もみられます。こうしたリモートのデメリットに対しては、どのような対策を考えていますか。

広報担当者「リモートワークが基本となるなか、オフィスは対面の交流などによるアイデア創出、共創の場として位置付ける考えです。具体的には、出社率を考慮して座席配置数を削減してオフィススペースの効率を高めます。一人当たりの面積が広くなりますから、ソーシャルディスタンスを確保できます。
また、フリーアドレス化(編集部注:オフィスの中で固定席を持たずに、ノートパソコンなどを活用して自分の好きな席で働くワークスタイル)などによる自由な座席選択、リモート会議対応スペースの強化などによって、オフィスに出社する者も、リモートで働いている者も、共により働きやすいオフィスを目指します」

   ――転勤・単身赴任をなくす試みについて、NTTグループの従業員は、どんな反応がありますか。また、ほかの企業や経済界から問い合わせなどはきていますか。

広報担当者「現時点、取りまとめていないため、回答を控えさせていただきます」

   ――今回の試みについて、特に強調しておきたいことがありますか。

広報担当者「新たな経営スタイルへの変革と、カーボンニュートラルに向けた取り組みを通して、サスティナブルな社会実現へ貢献したいと考えています」

   今回のNTTの試み、インターネット上では称賛の声が多い。ヤフコメでは、専門家たちからこんな意見が寄せられた。

   日本総合研究所調査部マクロ経済研究センター所長の石川智久氏は、こう指摘した。

「かなり思い切った働き方改革と言えます。NTTのように歴史のある大企業でこのような改革が進めば、他の日本企業にも波及することが予想されます。転勤や単身赴任を好まない従業員も多くいますので、社員のやる気アップも期待されます。また、地方にも機能を移すのは、地方創生だけでなく防災対応からも評価できるでしょう。今後はこの改革をどの程度徹底できるか、NTTの覚悟が問われます」

   千葉商科大学国際教養学部准教授で、社会格闘家の常見陽平氏も期待感を表した。

「働き方の多様化、従業員の生活の重視という意味で評価できます。地域への分散も、BCP(事業継続可能性)という意味で有効でしょう。ここでのポイントは、ITに積極的に投資している点です。現状のリモート環境は、従業員にとっても遅延などストレスがかかるものであり、必ずしもベストではありません。
(NTTが)対面での仕事を否定しているわけではなく、サテライト拠点を多数立ち上げる点こそポイントです。対面での仕事には、それはそれで価値があるのです。コロナ前にリモートにふった欧米のIT企業が対面回帰した点、さらにはGoogleが最近、ニューヨークのオフィスビルを購入した件などの動きにも注目したいところです。転勤・単身赴任で教育・介護などに多大なる影響が出る点は避けたいところですが、一方でこれを避けることにより、逆に仕事のストレスが増すことも避けたいです。NTTの具体案に期待します」

「東京一極集中が減り、地方でも人材が育つ」

   ウェルス労務管理事務所代表の佐藤麻衣子氏は、ジェンダーの視点からこう述べた。

「共働き世帯が増えている点からもとてもいい変化だと思います。転居を伴う転勤により保育園や学校を変えることや、配偶者が離職せざるを得なくなることは、生活設計の面からも大きな負担になります。とはいえ、単身赴任となれば家族の時間が取れないだけでなく、残された側がワンオペ育児となるなど違う形で負担が生じてしまいます。
来年からは男性育休の法改正などもあり、性別を問わず仕事と生活の両立が求められています。リモートワークの普及をきっかけに今までの慣習を見直して、無理なく前向きに働き続けられる職場が増えるといいですね」

   主に働き方がテーマのフリーライター、やつづかえり氏は、東京一極集中の解消、地方創生につながると指摘した。

「グループ全社員が対象ということは、NTT東、西、ドコモなど地域の通信インフラを担う会社が含まれ、リモートワークが可能な職種ばかりではないということ。これまでは転勤ありが前提だったでしょうから、それを原則廃止というのはかなり大きな決定です。
全国各地に事業所があるため、これまで以上に地域の雇用を生み出し、その地域で人材が育つという効果が期待されます。地方でも安定的な企業に所属しキャリアアップが望めるとなれば、東京一極集中の解消にもつながります。大転換だけに、課題もたくさん生まれるでしょう。グループ内にはITの会社もあるので、ぜひリモートワーク時代の新しい働き方やマネジメント方法を見出し、他の会社にも知見をシェアしてもらえればと思います」

   父親がNTTの転勤族だったという人からは称賛の声が寄せられた。

「私の父は北海道出身で、NTTの北海道勤務でしたが、マイホーム購入直後に東京勤務になり、それから30年間東京で単身赴任でした。父が運動会や卒業式に出たことはほぼなかったです。子どもの頃は、家族のことを大切にしないと思っていましたが、自分が大人になり、父が一人単身赴任して東京で戦っていたと思うと、尊敬しかありません。今は、定年で北海道の実家に戻り、孫と幸せに暮らしています。孫の行事も熱心に参加してくれています。このニュースを見て、もっといろいろな企業が導入してほしい事例だと思いました」

(福田和郎)

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