2024年 4月 25日 (木)

フランスの原書が並ぶ、飾らない古書を愛する店主のこだわりが詰まった空間【Vol.25 古書すからべ】

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   「古書すからべ」は、東京・神田神保町のすずらん通りの清田ビル2階にある。仄暗い雰囲気の階段を昇り、ドアを開けると、書棚の隙間にできた細い廊下の先に明かりが見える。

   真っ直ぐに進むと、まるで書斎のようなスペースにたどり着く。部屋を半分に区切るように置かれた大きな机、向かいの光風館ビルの美しく施された装飾が見える窓の手前にはミロのヴィーナスのレプリカ像が置かれている。

   本棚の隙間にちょこちょこ顔を覗かせる置き物たちは土産物なのだろうか。2台のベースや動物の剥製、部屋の中に置かれた気になるものばかりである。そんな「古書すからべ」は、主にフランス語の原書を扱う店だ。現在はコロナ禍の影響もあり、基本的には事務所営業としている。店主の大谷仁さんにお話をうかがった。

昆虫フンコロガシからとった「古書『すからべ』」店長の大谷仁さん
昆虫フンコロガシからとった「古書『すからべ』」店長の大谷仁さん

昆虫と古本好きの主人がつけた店名「フンコロガシ」

   幼いころは昆虫と古書が大好きな少年だったと言う。神保町近辺の中学校に通っていたこともあり、少年時代から古書は身近で、夢中になれる娯楽だった。

   昆虫好きになるきっかけも本で、『ファーブル昆虫記』を繰り返し読んだという。

「『すからべ』という店名は、昆虫のフンコロガシのフランス語名からとりました。フンコロガシのことを語らせると長くなりますよ」

とニヤリ。

   本棚の一角を占めるフンコロガシの置き物や絵を見せてくれた。大谷さんのフンコロガシ好きは有名のようで、置き物の多くが知人からプレゼントされたものらしい。

なにやら奥深そうなフンコロガシの世界
なにやら奥深そうなフンコロガシの世界

本を作る側の思いを込める

   2003(平成15)年に一人で古書店を立ち上げる以前、大谷さんは編集者として本を作っていた。今でも古書業と並行しながら、音楽の専門書を手がけている。本を作る側の面白さも知りながら、売る側へ足を踏み入れたのは、古書への愛着からだという。

「古い本の質感や、文字だけが並んだ飾り気のなさ、読みやすさが好きなんです」

   なるべく線を引いたり書き込めたりできる本を取り扱いたいという思いから、「すからべ」の商品は凝った装丁や挿絵があまりない、無機質なペーパーバックが大半だという。

   ちなみに、大谷さんは個人で絵本を2冊出版した経験がある。お子さんの幼稚園での課題がきっかけでオリジナルの絵本を制作し、友人の反応がよかったことがきっかけだ。鮮やかな色使いで剽軽な雰囲気の絵で、夢の中のような不思議なストーリーが展開する絵本だ。

絵を描くこと、昆虫、音楽......。大谷さんの趣味は深く広い
絵を描くこと、昆虫、音楽......。大谷さんの趣味は深く広い

好きな本はポケットに入るペーパーバック

   オススメの一冊をたずねると、あれこれ頭を悩ませてくれた。「見栄えはしないけれど......」と言いながら選んだのは、大谷さんの好きなフランスの詩人ジェラール・ド・ネルヴァルの「火の娘たち」である。

「精神病に長く苦しんだネルヴァルですが、病の間にはとても緻密で面白い作品を書いていた。発表当時の評価は低かったが、20世紀以降に高く評価されます。読み手の受け取り方によって作品の価値が大きく変わるというのも本の持つ面白さだと思います」

   やはり、こちらもポケットに入れられるサイズのペーパーバックなのだ。

フランスの詩人、ジェラール・ド・ネルヴァルの「火の娘たち」はオススメ!
フランスの詩人、ジェラール・ド・ネルヴァルの「火の娘たち」はオススメ!

   清田ビルの2階には、大谷さんの書斎のような不思議な空間が広がっている。「すからべ」の窓からは、生き生きとした生活感のあるすずらん通りが見下ろせるが、室内にはまるで現実の喧騒から切り離されたような穏やかな時間が流れている。

   大谷さんはその空間の、インテリアの一部のように自然にそこに佇んでおられた。インタビューをしながら、お宅におじゃましているような、不思議な感覚を味わった。

(なかざわ とも)

なかざわ とも
なかざわ とも
イラストレーター
2016年3月学習院大学文学部卒。セツモードセミナーを経て桑沢デザイン研究所に入学、18年3月卒業。趣味は、宝塚歌劇団、落語、深夜ラジオ、旅行。学生時代より神保町に惹かれ、現在フリーペーパー「おさんぽ神保町」の表紙や本文のイラストを手掛けている。1994年、東京都生まれ。
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