2024年 4月 26日 (金)

COP26の実効性は? 温室効果ガスの急激な削減策に先進国は資金支援で途上国を「説得」

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   地球温暖化への危機感が高まるなか、世界の注目を集めた国連気候変動枠組み条約 第26回締約国会議(COP26)が閉幕した。

   2015年のCOP21で採択されたパリ協定の進捗をチェックする会議で、開催地の名を冠した決定文書「グラスゴー気候合意」を採択したが、その成果をどのように評価したらいいのだろうか――。

メイン画像 キャプション COP26は「グラスゴー気候合意」を採択して閉幕した(写真はイメージ)
  • COP26は「グラスゴー気候合意」を採択して閉幕した(写真はイメージ)
    COP26は「グラスゴー気候合意」を採択して閉幕した(写真はイメージ)
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CO2実質ゼロ、中国は2060年、インドは70年......

   地球温暖化に由来するとみられる異常気象が世界で頻発し、熱波、寒波、山火事、ハリケーンや台風の雨や風などによる被害が拡大している。COP26は、全体として、現状への危機意識の高まりを反映し、温暖化防止に向け、各国が協調して取り組む必要が共通認識としてあった。

   一方、先進国と途上国の認識の相違、対立は根深い。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの、世界最大の排出国である中国をはじめとした途上国は、これまでエネルギーを大量に使い、温室効果ガスを大量に排出して成長した先進国の責任を問い、急激な自国の排出削減に抵抗している。先進国は資金支援で途上国を説得、削減を進めようとする構図だ。

   2021年11月13日、会期を1日延長した末に採択されたグラスゴー合意は、産業革命前からの地球の気温上昇を1.5度(現在すでに1.1度上昇)に抑える努力を追求するとし、そのために石炭火力発電の「段階的削減」に向けた努力を加速させることなどを盛り込んだ。

   まず「1.5度」だが、パリ協定は「2度未満、できれば1.5度に抑える」との目標を掲げており、今回「1.5度」を事実上、世界の共通目標に引き上げたといえる。

   1.5度は、異常気象などを抑えるために専門家が必要とする数字で、グラスゴー合意は、その実現に向け、温室効果ガスの排出を「今世紀半ばには実質ゼロにする」と明記した。2050年にCO2などの実質ゼロを公約した日本を含め、先進国はおおむね足並みをそろえ、COP26に向け140か国以上が今世紀半ばごろの排出実質ゼロを掲げ、多くの国が30年の削減目標を引き上げた。

   一方、中国は2060年に実質ゼロとする方針を譲らず、インドはCOP26の場で、ようやく70年実質ゼロを初めて打ち出すといった具合で、途上国の取り組みの難しさが改めて明確になった。

   実際、現状は不十分だ。パリ協定はあくまで各国が自主的に目標を出す形式で、強制力はない。各国の2030年時点の削減目標をもとにした分析では、2.4度上昇する可能性があるという指摘が専門家から出ている。このため、各国に30年の削減目標や対策の強化を促すべく、これまで5年に1回目標を見直すことになっていたのを、毎年見直すこととした。さっそく、22年のCOP27(エジプト)に向け各国の取り組み強化が求められることになる。

パリ協定から6年、「市場メカニズム」の仕組み整う

   目標の裏付けとなる具体的な対策も激しい議論になった。

   大きな焦点になったのが、CO2を大量に排出する石炭火力発電だった。これが最後までもめ、議長国・英国を中心に先進国は「段階的な廃止の加速」を盛り込もうとしたが、発電の7割を石炭に頼るインドなどが強く反発し、中国も同調。米国、欧州連合(EU)、中印の4か国・地域の交渉トップが膝を突き合わせて協議を経て「段階的な削減に向けた努力を加速」の表現になった。

   温室効果ガスの削減実績を「排出権」として認定し、国家間で国際取引できる「市場メカニズム」の実施の仕組みも採択された。市場での削減量の売買を通じて、各国の取り組みを促す効果が期待できるが、パリ協定が始まった2020年より前の対策で生み出された排出権の扱いなどを巡って意見が対立してきた。結局、「13年以降の排出権のみ活用を認める」ことで決着。パリ協定の採択から6年を経て、ようやく残されていた最後のルールが完成した。

   先進国と途上国間の不公平さを正すための資金協力は、議論が深まらなかった。先進国が20年までに年間1000億ドルの資金協力をするという目標が未達成であることに途上国の不満は強い。さらに、一部途上国からは、海面上昇や干ばつなど温暖化による被害に対する新たな資金援助の枠組みを求めたが、歴史的に排出量が多い米欧は「補償」につながりかねないとして慎重な姿勢を崩さなかった。こうした課題はCOP27に主要な争点として引き継がれる。

   パリ協定は全体としての大枠の目標に向け、参加国が協力するもので、取り組みが不十分と評価された国は批判されるが、あくまで各国が自分の目標を持ち寄るという強制力のない枠組みだ。

   グラスゴー合意という決定文書は全体で一致できたことしか盛り込めないが、これを補う形で、特定のテーマについて一致できる国だけで合意をまとめる「有志連合」が今回の会議では注目された。

   主なものでは、温室効果がCO2の25倍とも86倍ともいわれるメタンの排出を、2030年までに20年比30%削減する合意、森林破壊を30年までに止める合意は日本を含む100か国以上が参加した。

   石炭火力を主要国は30年代、その他の国は40年代までに全廃するという合意は石炭火力発電の計画を進めているベトナムやインドネシアを含む40か国以上が参加したが、30年の電力の電源構成で石炭を2割としている日本は米国などとともに参加しなかった。40年までに新車販売をすべてCO2排出ゼロのゼロエミッション車とすることにも、多くの国や企業が賛同したが日本政府・メーカーは加わらなかった。

   各国の利害が絡み、スッキリ合意とはいかないのがCOPのいわば宿命。大手紙は11月16日朝刊の社説(産経は「主張」)で一斉に論じたが、今回の結果をどう評価したか。

   まず、全般的な評価を見てみよう。

「『1.5度』を世界の共通目標として位置付けた意義は大きい」(毎日新聞 2021年11月16日付)
「世界が1.5度目標で足並みをそろえた意味は大きい」(日本経済新聞 11月15日付)
「より高い目標を前面に掲げ、世界が進むべき道を示したことは評価できる」(読売新聞 11月16日付)
「『一・五度』という共通の目標を明確にしたことで、世界が気候危機から脱する希望は辛うじて残された」(東京新聞 11月16日付)

など、濃淡はあるが、基本的に大半は肯定的に評価している。

   そのうえで、「目標をどう達成するのか。これからの各国の姿勢が問われる」(朝日新聞 1月16日付)として、実効性のある取り組みの重要性を指摘する。

   具体的には、朝日新聞が「気候変動に立ち向かうには、現在の技術や生活スタイルにこだわらず、雇用を守りつつ構造改革を進めるイノベーションが必要だ」と技術開発の重要性を指摘。毎日新聞は「目標の達成には、対策を確実に進めるための行程表が重要だ。途上国は経済発展に伴い、今後の排出が増えることが見込まれる。先進国は率先して削減に取り組み、途上国への支援をさらに強化しなければならない」と、途上国への支援を訴える。

   日本の立場については、朝日新聞が「岸田首相は、燃料を石炭や天然ガスからアンモニアや水素に置き換えていく排出削減策を使って、火力発電を活用する考えを示したが、評価されたとは言い難い」、東京も「石炭火力にこだわり、今回も国際NGOから温暖化対策に後ろ向きな国に贈られる『化石賞」を贈呈された日本は、世界の大きな潮流からは周回遅れの感がある」と、それぞれと批判。

   日本経済新聞は「山口壮環境相は現地で記者会見を開くなどして、日本の立場について世界に向け積極的に情報発信すべきだった。せっかくの機会を生かせなかったのは惜しい」と、情報発信力の欠如を嘆く。

   一方、読売新聞は日本の石炭火力への姿勢に「会議では後ろ向きだと批判する声もあったが、欧州と違って太陽光や風力発電の適地が少なく、原子力発電所の再稼働が進まない日本の現状では改善が難しい面がある。......アンモニアとの混焼によるCO2排出削減や、排出されたCO2の回収・貯留技術の確立で、削減を実質的に進めることが大事だ」と日本政府を弁護している。

   産経新聞(11月16日付)は会議全体を「取り組みへの足並みの乱れが目立つ印象を拭えない」と懐疑的にとらえ、「インドとロシアの対応も遅い。米国を除く上位排出国がこのありさまでは、まじめな国々の努力が徒労に終わる。とりわけ主要経済国としての力量を持つ中国には誠意ある対応を求めたい」と、中国、ロシアなどへの批判に力点を置くあたりは産経新聞らしさといえそうだ。

(ジャーナリスト 岸井雄作)

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