2024年 4月 23日 (火)

「電波オークション」で携帯電話料金は安くなる? 「賛成」に豹変したドコモVS「大反対」楽天の対決

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   久々の国産スマホ「バルミューダフォン」、ガラケーの終焉......と話題が尽きない携帯電話業界だが、その陰で大きな流れが起こっている。

   携帯電話の電波(周波数)オークション導入の動きだ。これまで周波数の割り当ては総務省が行ってきたが、競争入札に切り替え、最高価格を提示した業者に与えるという。

   OECD(経済開発協力機構)諸国では日本以外はすべて導入している。どうして今まで導入しなかったのか。これで携帯電話料金はさらに安くなるのか?

  • 5Gの普及で携帯電話の電波はどうなる(写真はイメージ)
    5Gの普及で携帯電話の電波はどうなる(写真はイメージ)
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電波の割り当ては総務省の「美人投票」だった

   「美人コンテスト」――。「比較審査方式」と呼ばれる日本の携帯電話の電波(周波数)割り当て制度はそう揶揄されてきた。いったい、どういうことか――。

   希望する周波数を割り当てられるためには、携帯電話業者は基地局の整備計画などを事前に提出し、提供できるサービス内容の審査を受けなければならない。その際、「エリア展開は〇点」「MVNO(格安スマホ)促進は〇点」......といくつかの項目で獲得した点数の合計点で周波数獲得業者が決まる。まるで、スポーツの新体操やフィギュアスケートの「芸術点」を思わせるような審査のやり方だ。

   そのため、大手携帯電話会社のあいだでは総務省が主導する審査への疑念がくすぶり続けてきた。業界内で「楽天モバイルの新規参入を促進させるために露骨すぎる審査だった」と話題になったのは、2020年に割り当てられた東名阪以外の1.7GHz帯だ。NTTドコモのほかKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社が申請したが、結果として周波数を獲得したのは楽天モバイルだった。

   携帯電話専門メディアのITmedia Mobile(11月27日付)「ドコモが『電波オークション』賛成に転じた理由 楽天モバイルをけん制する意図も?」は、この結果について、こう指摘している。

「審査結果を見ると、エリア展開についてはNTTドコモが最高得点を獲得している一方で、MVNO促進は4点とソフトバンクの6点や楽天モバイルの8点より低い。ドコモ回線を借りるMVNOは非常に多く、少々不可解な結果にも見える」

   今回、このケースをドコモは総務省の有識者会議に「多様なサービスの一部を切り取った評価への懸念」を与える事例だとして、資料提出をした。「だから公平なオークションを行わなければならない」というわけだ。

   総務省の恣意的な意図のもとに周波数の割り当てが行われてきた疑いが濃いことは、MAG2NEWS(11月30日付)「電波オークション、ドコモは『肯定』も楽天・三木谷社長が『大反対』のワケ」の中で、スマートフォンジャーナリストの石川温(いしかわ・つつむ)氏が、こう指摘する。

「総務省による、周波数割り当ての審査がキチンと機能してきたことはあまりないというのが実態だ。2005年には新規参入組に割り当てたら、ソフトバンクは新規割り当ての電波をあきらめ、ボーダフォンを買収してしまうし、アイピーモバイルは計画を遂行できずに断念。残ったイー・モバイルも最終的にソフトバンクに買収されるという、総務省の大愚策ともいえる周波数割り当てもあった」

   しかし、どの携帯電話大手は電波オークションに関しては「反対」の立場だった。入札競争をするとカネがかかりすぎるからだった。石川氏はこう続ける。

「周波数割り当ての過去を振り返ってみれば、その時々に合わせて、『このタイミングだと、このキャリアに割り当てるのがよさげだな』とか『前回はあそこが有利に割り当てられたから、今度はこっちかな』といった雰囲気が漂っていたのは事実だろう。キャリア側も『今回、割り当てられる周波数帯はおいしくないので、計画を低めに出しておくか』なんてこともあったのではないか。周波数割り当てがあるからこそ、総務省とキャリアのナアナアな蜜月な関係も続いていくわけで、キャリアを支配下においておきたい総務省としても本当はオークションを導入したくはないのではないか」

NTTドコモ「豹変」に激高した楽天の三木谷社長

   ところが、風向きが大きく変わったのは、11月16日に行われた総務省の有識者会議「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」の2回目の会議の席上だった。NTTドコモの井伊基之社長が、突然、「電波オークション導入」の賛成に転じたのだった。携帯電話大手としては初めてのことだ。

電波オークションをするべきだとするNTTドコモの資料(総務省公式サイトより)
電波オークションをするべきだとするNTTドコモの資料(総務省公式サイトより)

   井伊社長はこう述べたのだった。

「(現在の携帯電話環境は)音声のみならず、人と人、人と機械、機械と機械、といった多様な通信を実現するICT基盤として成長している。人の加入数は飽和状態になっており、今後の増加は見込めず、これからはIoTやAIなどの新たな技術急速な進化と機械による通信利用が今後増加していく。
これまでのような5年後7年後の基地局開設計画を事業者がコミットするやり方では、ネットワーク構築の柔軟性を確保できなくなる。オークションによる周波数の割り当ては透明公平で、グローバルスタンダードになっている。価格の透明性や、将来の需要の変化への柔軟性をもったオークション方式を、今後の割り当ての方針として検討することは価値がある」=上図参照

   一方、この日の会合に同席したKDDI(au)の高橋誠社長は、

「審査方法に、客観性・中立性・透明性が確保されることを望む」
楽天の三木谷浩史社長がNTTドコモに激怒したTwitter
楽天の三木谷浩史社長がNTTドコモに激怒したTwitter

と強調したくらいで、特に電波オークションについては賛否を明らかにしなかった。

   このNTTドコモの井伊社長の「豹変」に激怒したのが、楽天モバイルの三木谷浩史会長だ。自らのTwitterにこう書き込んだのだった=左写真参照。

「電波オークションは、NTTドコモなど過剰に利益をあげている企業の寡占化を復活するだけで、最終的にはせっかく下がってきている携帯価格競争を阻害する『愚策』だ。NTTドコモなどにとっては当然資金力に物を言わせて新規参入、競合排除するには漁夫の利だろうね。弊社として大反対」

と、敵意をむき出しにした。

ソフトバンク「ムチだけでなくアメ玉もほしい」

   残り2社の態度はどうなるのか。11月30日の有識者会議の注目が集まるなか、楽天モバイルの山田善久社長は、三木谷会長の主張に沿った形で強い反対意見を表明した。

「資本力が強い事業者による寡占化が進み、楽天モバイルのような後発事業者が起爆剤になって携帯電話料金の値下げを実現した現行の方式をやめるメリットが見つからない」

と訴えたのだった。

   一方、ソフトバンクの宮川潤一社長は、興味深い意見を披露した。「すでに現在に『比較審査方式』がオークションの類型とみなすことができる」として、こう説明したのだった。

「諸外国のオークション制度は、事業者に課せられる条件が多様化しており、5Gでは各国ともエリア条件整備義務などもある。『比較審査方式』は特定基地局開設料を導入、エリア整備義務もあることからオークションに近い」

というのであった=下の図表参照。

今の制度はすでに電波オークションの類型だとするソフトバンクの資料(総務省公式サイトより)
今の制度はすでに電波オークションの類型だとするソフトバンクの資料(総務省公式サイトより)

   また宮川氏は、有識者会議の委員から「落札額・免許料が低いとなぜイノベーションが起きるといえるのか」と、自身の発言の真意を問われ、こんな「ホンネ」も吐露したのだった。

「携帯料金値下げでたくさんムチをいただいたが、そろそろアメ玉もほしい時期。(値下げの影響で収益が下がっており)オークションで値段のつり上げにこだわるのではなく、もっと良いテクノロジーが使えるような環境を整えてもらえる『アメ』をもらえないだろうか」

   これで携帯電話大手4社の「電波オークション」に対する姿勢が鮮明になった。主要メディアの見方をまとめると、こうだ。

【賛成】=NTTドコモ
【中立・模様眺め】=ソフトバンク、KDDI(au)
【絶対反対】=楽天モバイル

NTTドコモの「変身」は政府への「反逆」か?

携帯電話料金は安くなるの?(写真はイメージ)
携帯電話料金は安くなるの?(写真はイメージ)

   ここでカギを握るのがNTTドコモだが、いったいどうして賛成に転じたのだろうか。

   日刊工業新聞のニュースサイト「ニュースイッチ」(11月18日付)「『電波オークション』に前向きのドコモ、方向転換の裏に思惑あり!?」は、こんな見方を示している。

「従来、国内通信各社はオークションに消極的だった。(通信事業に詳しい)MM総研の横田英明常務は、この背景を『オークションになると非常にコストがかかり、事業に使うべき資金を持っていかれてしまう可能性もある。欧州では第4世代通信(4G)ネットワーク整備に遅れが出た』と解説。それだけに今回、『特にドコモが前向きとなると驚きは大きい』。
ドコモの動きに関しては『(携帯電話料金の)値下げと同じ構図ではないか』とみる業界関係者もいる。ドコモは2020年末にNTTの完全子会社となった。上場していた時代は、値下げに伴う業績への懸念について一般株主の理解が得られない事態も想定されたが、完全子会社化で解消した。オークション導入のリスクに関しても同じことが言える」

   菅義偉前政権の携帯電話料金の値下げの動きにNTTドコモが先鞭をつけた構図と似ているが、今回も政府が主導する電波オークション化の動きに、またNTTドコモが同調したのだろうか。

   冒頭に紹介した「ITmedia Mobile」(11月27日付)は、ドコモ変身の理由は携帯電話料金のときとは違って、一種の「反逆」ではないかという見方だ。昨年の総務省の東名阪以外の1.7GHz帯をめぐる「楽天モバイル優遇策」にNTTドコモは猛反発したというのだ。

「(この審査結果は)楽天モバイルに著しく有利だ。楽天モバイルを優遇することでキャリア間の競争を促進したい総務省の思惑は分かるが、エリア計画で大きくリードしていたドコモにとって納得できない結果だったことは容易に想像がつく。こうした審査が続くのであれば、より透明性の高い電波オークションで決着をつけた方がいい――これが、ドコモの考えといえる。既存の割り当ての仕組みに異議を唱えつつ、楽天モバイルをけん制したという見方もできる」

   いずれにしても、総務省は来年夏をめどに電波オークションをどういう形で導入するか、方針をまとめる。その時、携帯電話料金は安くなるのかどうか。

   前出の石川温氏は、日本経済新聞電子版(11月17日付)の「ひとこと解説欄」で、こうコメントしている。

「日本での電波オークション導入の機運が高まっている。そんななか、NTTドコモが導入に前向きな姿勢を示したが、NTTグループは資本力が圧倒的にあるため、オークションには有利な立場であることは間違いない。問題は、新規参入したものの、全国のエリア展開で苦戦し、設備投資などで赤字を垂れ流している楽天モバイルも、電波を新たに割り当てられる余地を残しておく点に尽きる。資本力においては顧客基盤を抱えるNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが有利であり、オークション導入で、結局、最後は既存3社しか生き残らず、寡占状態に戻ってしまった、なんてことになっては意味がない」

(福田和郎)

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