コロナ禍、デジタルで明暗分かれる来年の業界予測【12月は、2022年をのぞき見する一冊】

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   2021年も残り1か月を切った。昨年来のコロナ禍でさまざまな活動が「自粛」され、人々は悶々とした生活を送っている。夏に開かれた東京オリンピック・パラリンピックの代表選手や、米大リーグのロサンゼルス・エンゼルス、大谷翔平選手の大活躍に胸が熱くなり、救われた思いだった。

   さて、来る2022年、干支は寅。2月には北京冬季オリンピック・パラリンピックが開かれる。世界は、日本の経済は? 人々の生活は......。12月は、そんな「2022年」や「寅」にまつわる一冊を取り上げたい。

   「企業情報誌のバイブル」として利用されている「会社四季報」(東洋経済新報社)。2022年の各業界の動向を予測した「会社四季報 業界地図 2022年版」が出た。174業界の4080社について、四季報記者が解説している。投資の参考になるほか、就活の業界研究にも役立ちそうだ。

「会社四季報 業界地図 2022年版」(東洋経済新報社編)東洋経済新報社
  • 2022年微業界地図はどう塗り替わるのか?
    2022年微業界地図はどう塗り替わるのか?
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「DX」は快晴!

   注目業界のトップに挙げられているのが「脱炭素」関連業界だ。6つの天気図で2021年度後半~22年度の業界の動向を予測しているが、「晴れ」になっている。コロナ禍の2020年でも、世界の新規再エネ導入量は前年比5割近く増加。コスト低下を背景に脱炭素シフトはさらに加速すると見られている。

   電力・ガス・石油のエネルギー企業のほか、商社、再エネ発電・小売、金融・保険、電機・通信など幅広い業界の企業の動向を紹介している。たとえば、東京電力と中部電力の火力発電事業を継承した株式会社JERAは、燃焼時のCO2排出を抑制するアンモニア混焼に着手するが、これにはIHIも共同で実証実験する。

   また、アマゾンなど海外のIT大手が製品やサービス提供に必要な電力を再エネ由来電力に置き換える取り組みを加速させていることにもふれている。こうしたことが、見開き2ページにまとめられているので、わかりやすい。

   数少ない「快晴」の業界が、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」だ。コロナ禍を機にマインド変化もあり、不動産や建設といった伝統業界でもDX産業が急速に立ち上がっている。

   マネーフォワード、フリーなどのフィンテックのほか、人事テック、教育テック、不動産テック、物流テック、建設テックの企業を取り上げている。DXに優れた上場企業を経産省と東京証券取引所が共同で「DX銘柄」に選定して公表したので、投資家の関心も高まっている。

「携帯電話販売代理店」は雨模様......

   一方、DXに取り組む企業の割合はまだ5割に満たない。逆に言えば、それだけ潜在市場は大きい訳で、これらから大化けする企業も生まれてくる、と見ている。

   民間企業に混じって、「中央省庁」を取り上げているのが意外だった。コロナ対策で歳出が急拡大し、デジタル改革にも本腰を入れ始めたため、取り上げられた。

   2021年9月に発足したデジタル庁の組織を解説している。プロジェクトベースの柔軟な組織で、事務方トップの「デジタル監」を支えるCXOは民間登用の非常勤だ。

   いくつか注目業界の動向を見出しで紹介しよう。

・ 5G 「快晴」超高速だけではない魅力満載。多くの業界に経済効果が波及
・ 半導体 「快晴」世界的に需給が逼迫、半導体不足は22年前半まで続く見通し
・ 次世代自動車 「薄曇り」急激に広がる電動化。自動運転はレベル3が世界初登場
・ リチウムイオン電池 「快晴」中国・韓国勢の成長は止まらず、日本勢も食らいつく
・ ベンチャー・VC 「曇り」ベンチャーバブルは一服、投資先の選別姿勢はよりシビアに
・ キャッシュレス 「晴れ」現金代替の流れは継続、ビッグデータ収集にも意欲
・ 中食・宅配 「薄曇り」巣ごもり特需一服後も成長続くが、宅配では業界再編も

   多くの業界が、「晴れ」「薄曇り」「曇り」の予測となっている中で、「雨」になっているのが、「携帯電話販売代理店」だ。大手キャリア3社が報奨金削減や店舗縮小を進め、逆風が強まりそうだ。このほかの「雨」業界は、「セメント」「地方銀行」「信用金庫・信用組合」「証券・ネット証券」「たばこ」「医薬品」「文房具・事務用品」「プロスポーツ」「出版・書店」「印刷」「パチンコ・パチスロ」「病院グループ」など。顔触れを見ると、なんとなく納得するだろう。

   その半面、2021年後半の「雨」から「「曇り」に転じたのが、「鉄道(JR、私鉄とも)」「百貨店」などだ。コロナ禍の影響を最も受けた「外食(ファミレス、すし、居酒屋)」は、「大雨」から「雨」の予測。業態転換や新業態の育成に活路を見出している。

   一方で投資余力のある企業は次の一手を着々と打っているという。くら寿司は立地補完をにらみ、郊外中心の展開から都心駅前への出店を強化している、と書いている。評者の近くのくら寿司も行列ができる繁盛店だったが、先日閉店した。「なぜだろう?」といぶかしく思っていたが、こうした立地戦略の変化と知り、納得した。

投資家だけが読むにはもったいない

   巻頭特集が「2030年の業界天気図」だ。1年先ではなく、コロナ禍後の世界を大胆に予測したものだ。その頃、「晴天」になっているのが、「リチウムイオン電池」「宇宙開発」「クラウド」など。「医薬品」「放送・全国紙」「百貨店」などは「雨」になっている。伸びる業界と縮小を余儀なくされる業界が、ひと目でわかる。

   年に4回発行される「会社四季報」は、数字が並び無味乾燥だが、この「業界地図」は、カラフルでチャートやグラフもよくできている。眺めているだけで、日本だけでなく世界の企業、経済の動きが頭に入ってくる。投資家だけが読むにはもったいない一冊だ。

「会社四季報 業界地図 2022年版」
東洋経済新報社編
東洋経済新報社
1430円(税込)

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