試合に負けて勝負に勝ったオーケー 関西スーパーマーケットはいばらの道

   僅差だった株主総会とその議決の算定を巡る司法判断を経て、兵庫県や大阪府に店舗を展開する関西スーパーマーケットの争奪戦は、同じ関西を地盤とする流通大手エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングに軍配が上がった。

   2021年12月15日にH2Oの傘下に入った関西スーパーは、当日の株価は大幅安となり、敗れたはずの首都圏地盤のスーパー、オーケーの社長は意気揚々と報道機関のインタビューに応じている。なぜ、明暗が逆転しているのか。

  • H2O傘下に入った関西スーパーマーケット 今後が大変……(写真はイメージ)
    H2O傘下に入った関西スーパーマーケット 今後が大変……(写真はイメージ)
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関西スーパー株に売り注文が殺到

   振り返ると、逆転に次ぐ逆転だった。H2Oとの経営統合を諮るために2021年10月29日 に開かれた関西スーパーマーケットの臨時株主総会では、可決に必要な「出席株主が持つ議決権の3分の2以上」を辛うじてクリアする66.68%の賛成で統合が認められたが、一人の法人株主が「賛成」で事前投票していたにもかかわらず、総会の場で誤って「棄権」で投票していたことが数日後に判明。66.68%は法人株主を「賛成」に加えた数値であり、「棄権」だったら65.71%で統合は認められず、総会の判断は逆転していた。

   そこでオーケーは集計に疑義が生じたとして、神戸地裁に統合差し止めの仮処分を申し立て、神戸地裁は差し止めを認める仮処分を決定。統合は一たん白紙に戻った。しかし、この判断を不服とした関西スーパーが大阪高裁に抗告したところ、大阪高裁は関西スーパーの主張を認め、神戸地裁の仮処分を取り消した。

   オーケーが申し立てた抗告を最高裁が棄却したのは2021年12月14日。統合予定日の前日だった。

   企業の経営統合は当事者が華々しくアピールするのが通例だ。しかし、関西スーパーとH2Oは表だった動きがなく、むしろ東証1部に上場する関西スーパー株に売り注文が殺到し、前日比285円(20.5%)安の1104円で取引を終えた。

   前日の取引終了後に発表された最高裁の決定を受けてオーケーが買収断念を表明したため、オーケーが表明していた1株2250円での株式公開買い付け(TOB)が消えたことも大きいが、関西スーパーの今後も不安視された。

オーケー「首都圏の非上場スーパー」から全国区に名乗り

   それというのも、H2Oの傘下にはすでにスーパーマーケットの「阪急オアシス」と「イズミヤ」があるが、両社とも経営状態は厳しく、「こんなぼろぼろな会社」(関西スーパーの株主)と敬遠されるほどだ。経営統合でH2Oの傘下に入った関西スーパーはオアシスとイズミヤの親会社となり、2022年2月には中間持ち株会社「関西フードマーケット」の下に三つのスーパーが並ぶ形になる。経営統合で関西スーパーの社長には阪急百貨店出身者が就いたが、建て直しは至難の業となりそうだ。

   一方のオーケーは意気軒昂で、敗者とは思えない様子だ。二宮涼太郎社長は、最高裁に棄却された日から報道機関の取材に相次いで応じ、買収断念を表明するとともに関西スーパーにエールを送る余裕さえ見せた。関西進出にも、引き続き意欲を示した。

   買収合戦でオーケーは積極的に取材に応じており、「首都圏の非上場スーパー」から全国区に知名度を高めた。

   しかも、関西スーパーには今回の経営統合に反対する株主から株式を買い取る義務があり、上位株主のオーケーにはまとまった現金が入ることになる。オーケーはこれを次の投資に充てることもでき、全国区となった知名度を生かして、他社との提携も含めた戦略の幅が広がる。

   どちらに転んでも実利を得たオーケーと、どちらに転んでも「いばらの道」だった関西スーパー。逆転に次ぐ逆転で世間の注目を集めた異例の経過でさえ、結果的にオーケーを盛り立てていたのだ。(ジャーナリスト 済田経夫)

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