新しい産業革命か?一過性のブームか? いま話題の「NFT」実態に迫る

   NFTという言葉が旬を迎えているようだ。NFTを「世界にひとつだけのデジタル資産」と意訳しているのが、本書「NFTの教科書」(朝日新聞出版)の編著者の一人、天羽健介さんである。

「NFTの教科書」(天羽健介・増田雅史編著)朝日新聞出版

   本書は、NFTビジネスの全体像、NFTの法律と会計、NFTの未来という構成だ。これからNFTを始めようという人にとって、格好の教科書になるだろう。

  • NFTについて幅広く解説した一冊
    NFTについて幅広く解説した一冊
  • NFTについて幅広く解説した一冊

話題のメタバース(仮想空間)と相性がよいNFT

   編著者の天羽健介さんは、コインチェック執行役員を経て、2021年コインチェックテクノロジーズ代表取締役に就任。日本暗号資産ビジネス協会NFT部会長をつとめる。

   もう1人の増田雅史さんは、弁護士・ニューヨーク州弁護士。コンテンツ分野、ブロックチェーン分野の双方に詳しく、ブロックチェーン推進協会アドバイザー、日本暗号資産協会NFT部会法律顧問。

   NFTとはNon-Fungible Token、ノンファンジブル・トークンの略。代替不可能なトークンのことだ。

   現在、最も広く流通しているデジタル資産として、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産(仮想通貨)が知られる。そして、暗号資産は代替可能である。

   一方でNFTは、暗号資産と違って、ブロックチェーンの中に個別の識別サインが記録されているので、代替不可能である。

   代表例として、NFTのデジタルアートがよく知られている。2021年3月、デジタルアート作家、マイク・ウィンケルマンのNFT作品が約75億3000万円で落札され、話題になった。

   デジタルアートのほか、ゲームのアイテム、トレーディングカード、音楽、各種の会員権、ファッションなど、さまざまな分野でNFTの新規ビジネスは立ち上がっている。

   メタバース(仮想空間)との相性もいい。デジタル上でデジタルなお金やモノ、コト、サービスが公開される時に使われるのがNFTだからだ。

   天羽さんは、今は誰でもNFTを発行できる玉石混淆状態になっており、ルール整備が求められている、と指摘する。

NFTの買い方、売り方を解説!

   本書は前半で、各分野での展開を関係者が解説し、後半で弁護士の増田さんらが法律、会計上の問題点を解説するという構成になっている。実に、執筆者は総勢28人。

   NFTのマーケット概況について、コインチェックの中島裕貴さんが解説している。最も取り引きが多かったのは、「コレクティブル」というカテゴリーだ。主に、保有や収集を目的とし、希少性に価値をもたせたNFTだ。一見ただのドット絵に見えたとしても、数千万円で取り引きされるものもある。

   次が「スポーツ」。スター選手のNFTは、数千万円で取り引きされている(これは、たとえば、選手のデジタルカードのようなもの。そのカードを使ってチームを作り、オンライン上で対戦するゲームもある)。他に「アート」「ゲーム」「メタバース」などのカテゴリーがある。

   NFTの買い方、売り方も説明している。

   NFTを購入するにはイーサリアムが必要だ。そのため、事前にコインチェックなどの取引所で準備する必要がある。また通常、NFTの購入価格とは別でイーサリアムのネットワーク手数料(ガス代)が必要になる。

   一方、コインチェックNFT(ベータ版)を利用すると、コインチェック口座の暗号資産をそのままコインチェックNFTの決済に利用できる。ガス代がかからないので、初心者に向いているようだ。

   アート作品については、アート特化型マーケットプレイスである「nanakusa」を運営するスマートアプリの高長徳さんが解説している。

   そもそもデジタルアートを含むデータは、法的な意味での所有権の対象とはならない。これは、民法が所有権の対象となり得るのは「有体物」のみ、つまり姿かたちあるもののみと定めているからだ。

   そこで、ICタグ付きブロックチェーン証明書を発行するスタートバーン社の取り組みなどを紹介している。このシステムを利用して、現代美術家のNFTが次々と販売されているという。

NFTトレカは流行るか?!

   スポーツとの関連については、世界初のファン投票アプリ「Socios.com」CEOのアレクサンドル・ドレフュスさんと、同社の元木佑輔さんが解説している。

   たとえば、従来のように、実物を保有することに大きな意味があった紙のトレーディングカードゲーム(カードを使った対戦型ゲーム)とは異なる世界となっていく。具体的には、ネットワーク上で世界中のプレイヤーと競い合いながら、報酬も受け取ることができる、新しい娯楽になるというのだ。

   一方、NFTは知識さえあれば、実質誰でも発行できるため、模造品や類似品の発生を防ぐための枠組みつくりが必要だ、と指摘している。

   国内でNFTトレーディングカード事業を手掛ける「coinbook」の奥秋淳さんは、ネットワーク手数料(ガス代)をどう削減していいかも課題だという。

   現在主流のイーサリアムネットワークを利用したNFTでは、数百円といった商品では、ガス代の割合が大きく、不急に時間がかかる、と懸念している。また、所有者以外が画像を見ることができてしまう、NFT自体がもつ課題もある。「ガス代」という表現がなんとも面白い。

   こうした各ジャンルでの指摘を踏まえ、増田雅史さんが法律と会計の課題について解説している。

   NFTは法律上の概念ではなく、NFTの発行・保有・販売にまつわる法律関係は、明らかでないと前置きしている。NFTは「デジタル所有権」を実現する仕組みだといわれるが、本当にそうなのか。著作権をふまえて検討している。

   さまざまなケースを挙げて、「デジタル所有権」と表現することは適切ではない、とした。そのうえで、「『所有』類似の効果を実現しようとする野心的な取り組み」と評価している。

   さらに、NFTと金融規制、会計処理、税務上の取扱、賭博罪などリスクを生みやすい法的論点について、多くの弁護士が見解を披露しているので、参考になるだろう。

   NFTの未来について、日本経済新聞記者の関口慶太さんは、海外でも人気の高いゲームやアニメ、漫画を多く保有する日本は世界でもNFT市場の中心となる可能性があると見ている。

   しかし、投機マネーが席巻しすぎると、NFTバブルが崩壊し、短命になる懸念があるとも。一過性のブームに終わらせないためにも、さまざまなルールづくりが求められている。

(渡辺淳悦)

「NFTの教科書」
天羽健介・増田雅史編著
朝日新聞出版
1980円(税込)

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