2024年 4月 25日 (木)

ビッグデータ時代の申し子「データサイエンティスト」はどんな仕事をしているのか?

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   最近、「データサイエンス」という言葉をビジネスシーンで、よく聞くようになった。大学でも「データサイエンス学部」の新設が相次いでいる。本書「データサイエンティスト入門」(日経BPマーケティング)は、「データサイエンティスト」の仕事について包括的に紹介した本である。

「データサイエンティスト入門」(野村総合研究所データサイエンスラボ編)日経BPマーケティング

   2021年4月に発足した野村総合研究所の「データサイエンスラボ」に属するメンバーが執筆した。IT技術が進化し、企業が取り扱えるデータの量は格段に増えた。いわゆるビッグデータの時代になり、AI(人工知能)を使ったデータ分析技術も向上。データを集計・分析できる専門家、つまりデータサイエンティストは、存在感を高めている。

  • データサイエンティストを取り巻く現状を知る一冊
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6つのストーリーで具体的な仕事を知ろう!

   「データサイエンティスト検定」を主催する一般社団法人データサイエンティスト協会では、データサイエンティストとして欠かせない3つの能力を定義している。

・ビジネス力 課題背景を理解し、ビジネス課題を整理・解決に導く力
・データサイエンス力 情報処理・人工知能・統計学などの情報科学系の知恵を理解し使う力
・データエンジニアリング力 データサイエンスを意味のある形として扱えるようにして、実装・運用する力

   3つ目の能力は、ITエンジニアと重なる部分も多い。そのため、ITエンジニアはデータサイエンティストに転身(または兼務)しやすい職種だという。

   ところで、データサイエンティストは具体的に、どんな仕事をしているのだろうか? イメージしやすいように6つのストーリーを紹介している。野村総合研究所で働くデータサイエンティストが経験した実例をもとにしたフィクションだが、参考になる。たとえば、こんな話だ。

――大手ファストフードチェーンに、新規店舗の売上を驚異的な精度で予測するデータサイエンティストがいた。ところが彼が倒れたため、情報システム部門で働くシステムエンジニアが仕事を引き継ぐことになった。
   そして、かのシステムエンジニアは、データ分析ツールを駆使し、競合となりそうな周辺の店舗、周辺の人口密度、隣接する道路の交通量などを主な変数として、出店候補地を絞り込んでいった。3つの候補地の売上予測はほぼ同額。分析に追加できそうな変数は思いつかない。完全に行き詰まってしまった。
   そんな時に、「自分の目で現場を見たのか?」と、退職のあいさつに来たデータサイエンティストが言葉をかけた。それがきっかけとなって、現場に行くと、車線の数が来店する車の台数に影響していることがわかった。予測に使える変数が見つかったのだ。

   もうひとつ、大手製薬会社を舞台にした話も面白い。こちらは、こんな話だ。

――MRと呼ばれる営業職の成績は二極化していた。研修を担当することになった大学の准教授は、トップ営業と雑談しているうちに、電話するタイミングや、売りたい薬の話を切り出すタイミングとか、言葉で表現できない要素が大切であることに気がついた。
   営業でアポイントを取るための電話音声は、すべて録音されている。電話音声はデジタルデータとしてクラウドサービス上にすべて保存されており、顧客情報やMRの営業成績を管理するシステムとも連携していた。ところが、これらのデータは全く活用されていなかった。
   准教授は、それらをもとに、「営業先リスト作成システム」をつくった。すると、下位グループの売上を底上げすることに成功した。

   このような6つのストーリーを読むと、データサイエンスの力をビジネスにどう活用するかが見えてくる。「データサイエンティスト」とは、「データを使ってビジネスを変革できる人」なのだ。

2030年には約54万人が不足

   一方で、データサイエンティストの現状はどうなのか。

   データサイエンティスト協会が2020年に実施したアンケート調査によると、現状では圧倒的に男性が多く、年齢層別では20代12%、30代30%、40代29%、50代20%、60代9%。業務に取り組んでいる期間としては、1年未満が11%、1~2年以上が25%、3~4年以上が22%、5年以上が43%と長期化する傾向にある。

   平均年収は791万円。年齢構成比がやや若者の割合が高いことを考慮すると、よい方だと見ている。社内育成だけでなく、新卒、中途ともにデータサイエンティストの確保に積極的になっているそうだ。

   その背景には、やはり人材不足がある。経済産業省がIT人材の需給状況を調査したデータから推計し、データサイエンティストが含まれる先端IT人材は12.2万人いるが、7.8万人不足している。2030年には54.5万人不足するとも予測しており、数年先には圧倒的な人材不足になりそうだ。

   最終章では、データサイエンスのビジネス活用の最新事例を紹介している。データを使った予測だけでなく、具体的な対処法までを示す「処方的アナリスト」の例として、「価格最適化」を挙げている。

   これは、需要に応じて、売上が最大となる価格を示すというものだ。実際、スポーツや演劇のチケット販売などの現場では、適用領域が広がっている。また、「AIによる発注の最適化」は、イトーヨーカ堂で導入している。

   データサイエンティストには、「社内に手本がない、上司の理解がない、スキルアップのための時間がない」などの問題があるものの、なにしろ「データは無限にある」。ために、データサイエンティストの将来は明るい、と結論づけている。

   必ずしも理系の人材に限定された職種ではないようだ。意欲ある営業パーソンにも一読を勧めたい。

(渡辺淳悦)

「データサイエンティスト入門」
野村総合研究所データサイエンスラボ編
日経BPマーケティング
990円(税込)

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