2024年 4月 26日 (金)

鳥取県はなぜコロナ対策「初動」が早かったのか?

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   新型コロナウイルス感染者が全国で最も少ないのが、日本一人口(約54万人)の少ない鳥取県である。2022年2月3日時点では累計4000人弱だったから、人口が約1400万人の東京都の感染者約63万人に対して、計算すると人口当たりの感染者数は5分の1以下だ。

   人口が少ないことを考慮しても、突出して感染者が少ないことがわかる。本書「鳥取力」(中公新書ラクレ)のサブタイトルは「新型コロナに挑む小さな県の奮闘」。鳥取県ならではの新型コロナ対策を中心に、小さな県だからこそできる戦略について、鳥取県知事の平井伸治さんがまとめている。

「鳥取力」(平井伸治著)中公新書ラクレ

   平井さんは1961年、東京・神田生まれ。東京大学法学部卒業後、自治省(現・総務省)に入省。兵庫県や福井県で地方自治に携わり、鳥取県庁に出向した。その後、2007年知事に当選し、現在4期目だ。オヤジギャグを駆使した県のPRでもおなじみ。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会にも、地方自治体から唯一参加している。

  • 鳥取県だからこそできるコロナ対策とは
    鳥取県だからこそできるコロナ対策とは
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「積極的PCR検査」「ドライブスルー方式」をいち早く打ち出す

   鳥取県の新型コロナウイルス対策の立ち上がりは早かった。2020年1月15日、神奈川県で日本発の感染確認が発表されると、すぐに対応を始めた。翌日には県庁に新型コロナウイルスの相談窓口を設置。31日には「新型コロナウイルス感染症対策本部」を全庁横断組織として発足させた。

   なぜ、鳥取県は異常なほどに初動が早かったのか。答えは「危機感」だ、と書いている。高齢化率が高く、病院の数も病床数も多いわけではない。感染症専門の病床も12床しかなかった。

   病院や鳥取大学、県医師会と協力し、2月末には受け入れ病床を153床に増やした(その後317床に)。人口比でいうと、東京都の10倍持っていた計算になるという。

   また、国の方針に反して、「積極的PCR検査」を打ち出した。車に乗ったままPCR検査をする「ドライブスルー方式」も全国に先駆けて導入した。

   このほかにも、飛沫防止のため段ボールを使った机の上の間仕切りを使った「オフィスシステム」、県庁のテレワーク体制の強化、「ハンコ手続き廃止宣言」「収入印紙の全廃」と使い勝手のいい行政を推進した。

    平井さんは全国知事会の新型コロナ担当だったこともあり、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会にも参加している。その中でのやりとりもいくつか披露している。

   軽症者は入院させずに「ホテル療養を原則」とするよう徹底するという案が出た。だが、大都市と地方では実情が異なるため、「各都道府県は苦労して確保した病床を返上することになるが本当にそれでいいのか」と語気を強めて発言した。

   議論の結果、従来通り、知事の選択により、患者全員の入院を行い早めに医療提供し重症化を防ぐ運用を続けることになった。

「60万人ショック」契機に移住定住対策進める

   二度の緊急事態宣言で、職が持てるなら、何も大都市に執着しなくてもよい、という事実に多くの人が気づき始めたことだろう。もっとも、鳥取県はコロナ前から、移住対策に取り組んできた。その契機は、知事に就任して間もない2007年10月。鳥取県の人口が、ついに60万人を切るという「60万人ショック」だった。

   それまで市町村が行ってきた移住対策に県が乗り出すことにした。小中学校全学年少人数学級化、高校卒業までの医療費支援、中山間地保育料無償化など、「子育て王国」推進の政策を進め、全国の若い子育て世代の心にも届き始めた。

   県内には17の移住者支援団体や、移住した先輩のチューター組織「とっとり暮らしアドバイザー」が生まれ、新規の移住定住希望者を支援している。

   こうした努力が実り、「住みたい田舎ベストランキング」などで鳥取県の各地が上位を占めるようになった。その結果、2015年度から2019年度までの移住者数累計は1万427人。当初の目標8000人を前倒しで実現した。

   本書では、鳥取県に本社機能の一部を移転した企業をいくつか紹介している。

   面白いと思ったのは、「副業」へ注目したことだ。これまでの移住定住政策は、住所を移し定着することを目指してきた。しかし、これにこだわると、人数に限界がある。そこで、住まいはそのままに鳥取県で生活してもらうことや、週に何日か鳥取県の会社で働いてもらうことでも、双方にメリットはある。

   大都市部にいる経験豊富なビジネスパーソンたちの知恵や経験を、鳥取の企業に役立ててもらおうと、2019年、東京で「地方創生!副業兼業サミット」を開催。「鳥取県で週一副社長」と銘打ち、人材を募集した。鳥取県の14社に対して、1363人もの応募があったそうだ。

   その結果、12社の県内企業に23人の副業採用が決まった。2020年9月にもオンラインで、サミットを実施した。人材募集にも71社から手が上がり、1209人が応募。52社83人の採用が決まった。シンガポールやオランダに住む人も副業で働くという。平井さんは、以下のように期待している。

「新型コロナは、働く場と住む場を相対化させる『パラダイムシフト』へと引き金を引いた。この流れを引き込めれば、鳥取県に関わりを持つ『関係人口』が生まれることで、地域が新型コロナの先の未来に向けて発展する道が、開けるかもしれない」

   平井さんは、本書の最後に「咳をしても一人」という自由律の俳人・尾崎放哉の句にふれている。尾崎は鳥取市出身で県庁近くに墓があるそうだ。

「鳥取県では、咳をしても『一人』にはさせない。そういう『孤独』は絶対につくるまい」

   この結びの言葉からも、平井さんの強い意志を感じる。人口が少ないからこそ、守られる命がある。コロナ禍は、地方が持つ力をあらためて日本人に教えてくれた、と言えるかもしれない。

(渡辺淳悦)

「鳥取力」
平井伸治著
中公新書ラクレ
857円(税込)

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