デジタル戦略迷走...週刊ダイヤモンド「セブンDX敗戦」 週刊東洋経済「ゼネコン四重苦」、週刊エコノミスト「東証再編」を特集

   「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。

  • 大和ハウス工業の快進撃とは(「週刊東洋経済」の特集から)
    大和ハウス工業の快進撃とは(「週刊東洋経済」の特集から)
  • 大和ハウス工業の快進撃とは(「週刊東洋経済」の特集から)

セブン&アイ三度目のデジタル敗戦

「週刊ダイヤモンド」(2022年2月12日号)
「週刊ダイヤモンド」(2022年2月12日号)

   「週刊ダイヤモンド」(2022年2月12日号)は、「セブンDX敗戦」という特集だ。「全編スクープ」と銘打ち、セブン&アイ・ホールディングスが進めてきたDX戦略が内部から崩壊した、と伝えている。編集部が入手した内部資料をもとに、ビジネススクールの教科書に掲載すべき「失敗」とまで、踏み込んでいる。

   同誌によると、DX部門トップの米谷修氏が2021年秋、こつぜんとグループから姿を消したという。リクルート出身でITやシステムのエキスパートとして著名な米谷氏は、19年2月にセブン&アイに迎えられた。持ち株会社のグループDX戦略本部長・執行役員として、13万人もの従業員を抱える巨大グループのDX戦略を指揮した。

   もともと大手コンサルティング会社がまとめた中間報告書では、「システムありきで事業会社のビジネスを考慮できていない」とあったらしい。持ち株会社より事業会社のセブン-イレブンが強い、独特の構造的な問題もあったようだ。

   そこで、米谷氏は自前でシステムを構築・運用する「内製化」を進めた。その結果、人員や予算は急膨張。DX人員はグループDX戦略本部が発足する直前の391人から1309人と1年で3倍超に。予算も469億円にふくらんだという。編集部では社外秘の動画を入手し、米谷氏が引導を渡され、本部が解体された模様を詳しく報じている。

   パート2では、セブン&アイの「DXバブル」に沸いたITベンダーやコンサルティング会社の暗闘にふれている。セブン&アイは多くの取引先ベンダーを抱えるが、最も親密な取引先の一つが野村総合研究所だ。しかし、この数年、その蜜月に水を差したのが米谷氏だった。代わりに、別のベンダーを重用したのだ。

   主力事業会社のイトーヨーカ堂のシステム再構築プロジェクトでも、受注候補だった野村総研をよそに、別のベンダーが受注した。ところが、その会社がプロジェクトを放り投げ、結局最初に切ったはずの野村総研に戻されることになった。これに激怒したのが、イトーヨーカ堂の取締役も務める伊藤順朗・ホールディングス常務執行役員だったようだ。

   特集では、セブン&アイのデジタルの敗戦は三度目だと指摘している。第一の敗戦がECサイト「オムニ7」の失敗だ。リアルとネットの融合をめざしてきたが、EC市場で完全に埋没し、23年にもサービスを終える。第二の敗戦が19年7月に鳴り物入りでスタートしたセブンペイだ。直後に不正利用が発覚、わずか3か月で終了した。そして、今回のDX敗戦。

   コンビニビジネスを生み出し、業界に革命を起こしたセブン&アイが、なぜデジタル戦略では迷走を続けるのか。本誌はそこに迫っている。たしかに、同グループのデジタルツールといえば、電子マネー「nanaco(ナナコ)」くらいしか思い浮かばない。「セブン-イレブンという圧倒的な強さを持つプラットフォームを押さえているがゆえに、自社のインフラを公にして外部に広げていく発想に乏しかった」と総括している。スクープ満載の特集に圧倒された。

ゼネコンを凌駕する大和ハウス工業の快進撃

「週刊東洋経済」(2022年2月12日号)
「週刊東洋経済」(2022年2月12日号)

   「週刊東洋経済」(2022年2月12日号)の特集は、「ゼネコン四重苦」。採算が大幅に悪化する中で、ハウスメーカー首位の大和ハウス工業の快進撃が続く近況をまとめている。

   大和ハウスは住宅だけではなく物流施設や商業施設などにも投資し、業容を急拡大している。傘下にゼネコンのフジタも抱え(13年完全子会社化)、ホテルなどの工事では、ゼネコンの競争相手にもなっている。

   大成建設の20年度売上高は1兆4801億円だが、大和ハウスは4兆1267億円と軽く凌駕する。ゼネコンからすると、施主=「お客さん」という顔を持ちながら、いまや「敵」でもあるという焦点を当てながら、ゼネコン業界「冬の時代」をレポートしている。

   EC拡大で物流施設が開発ラッシュだ。ここでも、大和ハウスが急成長している。千葉県流山市の常磐自動車道近くに大和ハウスの巨大物流施設「DPL流山Ⅳ」が昨年(2021年)11月、稼働した。東京ドーム7個分の面積だ。

   顧客から「物流施設にテナントとして入りたい」という要望があれば、デベロッパーとして自社物件を開発し、その顧客に賃貸する。「自前の工場を増設したい」という希望があれば、ゼネコンとして工場建物の設計・施行を請け負う。1人の営業員が顧客企業の要望にすべて対応する体制を取っているのが強みだという。

   大和ハウスの初期の成長を支えたのはプレハブ住宅だった。だが、いまは商業施設と物流施設をメインとする法人向け施設部門が全体売上高の44%、営業利益の64%を占めるほどになった。顧客ニーズを起点にする独自のセオリーがあるようだ。

    ゼネコンに話を戻すと、小型工事にまで大手ゼネコンが進出し、中小ゼネコンは厳しくなっているという。受注競争を避けると、残っているのは「分譲マンション」だ。タワーマンションを除くと、一般のマンションを大手が手掛けることはほとんどない。

   「手離れ」の悪さが、その理由だ。引き渡しが完了して終わりではない。アフターサービス、クレームへの対応があり、入金も遅い。

   資材や人件費の高騰で、大手の業績も悪化している。受注した時点で赤字だったとされる大林組の案件について、詳しく取り上げている。北海道北広島市で23年3月の開業をめざして建設中の「北海道ボールパーク」は、北海道日本ハムファイターズの新スタジアムを核とするエリア開発だ。総工費約600億円の大型プロジェクトだが、採算は厳しいようだ。

   これは特殊な構造と工事の遅れが原因で、施行が24時間態勢になっていることに関係者は驚いている。前期比7割減の大幅営業減益という大林組の22年3月期の通期業績計画の下方修正は、ゼネコン業界に衝撃をもたらしたという。

「適合計画書」が「お宝銘柄」発掘のヒントに

「週刊エコノミスト」(2022年2月15日号)
「週刊エコノミスト」(2022年2月15日号)

   「週刊エコノミスト」(2022年2月15日号)の特集は、「東証再編 上がる株下がる株」。

   東京証券取引所が4月から、プライム、スタンダード、グロースの3市場に再編される。そして、一部の企業が東証に提出した「適合計画書」が投資の機会になっているというのだ。個人投資家にとって、適合計画書を精査すれば、「お宝銘柄」を発掘するチャンスになりそう。

   そこで、プライム市場への適合計画書を提出した東証1部企業296社の騰落率上位20銘柄を紹介している。この296社はプライム市場の基準を満たしていないが、適合計画書を提出すれば、プライム市場に移行できる救済措置を受けられる。

   トップは明和産業の2.3倍の上昇。それ以外も軒並み2割以上が上昇している。明和産業は、レアアース、リチウムイオンの正極材、セパレーターなどを手掛けている。電気自動車(EV)関連のテーマ性が評価されたようだ。

   2位のドリームインキュベータは、大企業向けの戦略コンサルとベンチャー投資が事業の柱だ。適合計画書では、ベンチャー投資の厳選・縮小で収益のブレを抑制する、と公表したのが好感されているという。

   一方、東証1部からスタンダード市場を選んだ企業では、344社のうち100社で株価が上昇している。騰落率1位のOKKは154%の上昇。「身の丈のスタンダード市場を選択した企業を評価したい」という関係者の声を紹介している。

   特集では、株主優待廃止は株主還元の強化とにらむ海外投資家の見方を伝えている。株主優待は多額のコストがかかるからだ。また、これまで海外投資家には何のメリットがなかったからだ。 4月の市場再編を前に、投資家は研究に余念がない。適合計画書はそのヒントのひとつになるようだ。

(渡辺淳悦)

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