2024年 4月 28日 (日)

原油と小麦急騰でどうなる日本経済? 「ロシア抜き」新秩序には「最低1年」...エコノミストの厳しい目

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   原油と小麦の急騰が止まらない。

   米ブリンケン国務長官がロシア産原油の輸入禁止措置を欧州同盟国と検討していると発言したことを受け、原油の「北海ブレンド」先物価格が2022年3月7日、一時1バレル=139.39ドルをつけた。

   小麦の先物価格も同日シカゴ商品取引所で1ブッシェル当たり12.94ドルと過去最高値に達した。

   日本株の下落も止まらない。3月8日、東京証券取引所の日経平均株価は前日終値より430円46銭安の2万4790円95銭と、ついに2万5000円を割り込んだ。

   日本経済はどうなるのか? エコノミストたちの見る目は厳しい。

  • ロシアの要求がとおるまで軍事作戦を続けると強硬なプーチン大統領(ロシア大統領府公式サイトより)
    ロシアの要求がとおるまで軍事作戦を続けると強硬なプーチン大統領(ロシア大統領府公式サイトより)
  • ロシアの要求がとおるまで軍事作戦を続けると強硬なプーチン大統領(ロシア大統領府公式サイトより)

ガソリン価格が220円台に上昇すると、お手上げ

   このまま原油価格が上がり続ければ「レギュラーガソリンが1リットル200円台に突入するかもしれない」と警鐘を鳴らすのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏のリポート「対ロシア制裁による原油価格一段高と国内原油高対策の限界」(3月7日付)のなかで、実際にロシア産原油の禁輸が決まれば、WTI(西テキサス中質原油)先物価格も130ドルを超える可能性が高い、と指摘した。

「原油価格の高騰は日本経済にも一段と打撃となる。WTI原油先物価格130ドルで計算すると、年初からの原油価格上昇は75%程度に達し、これは、日本の実質GDP(国内総生産)を1年間の累積効果で0.26%押し下げる計算となる」
ガソリンが1リットル200円台に?(写真はイメージ)
ガソリンが1リットル200円台に?(写真はイメージ)

   木内氏は海外での原油価格と為替レートの2つの要素から、1か月後の国内でのガソリン小売価格をかなり正確に予想することができるという。それによると、3~4月のレギュラーガソリン価格(東京、以下同)はこうなりそうだ。

「3月のレギュラーガソリン価格の平均値は175円(補助金の影響を含まない)となる計算だ。現在の補助金制度のもとでは、引き続き実際の小売価格は170円程度の水準を維持できることになる」「ところが、3月のWTI原油先物価格の平均が130ドルまで上昇する場合、4月のレギュラーガソリン価格は202円(補助金の影響を含まない)まで上昇する」

   これは、最大25円の補助金制度のもとでも、レギュラーガソリン価格が177円まで上昇する計算になる。仮に、WTI原油先物価格が史上最高値の152ドルまで上昇する場合は、レギュラーガソリン価格は221円まで上昇する。こうなるともうお手上げだ。木内氏は、

「最大25円分の補助金制度に加えて、現在政府内で検討されているガソリン税のトリガー条項の凍結解除によるガソリン価格引き下げ効果の25.1円を合わせても、ガソリン小売価格の上昇は抑えられなくなる」「ウクライナ情勢を受けた海外での原油価格の持続的な上昇を受けて、国内での原油高対策が追い付かない状況となってきた」

と警告するのだった。

若者にインパクトが強い小麦関連食品の値上げ

   さて、原油価格の上昇に加え、人々の暮らしに深刻な影響を与えるのが小麦価格の急騰だ。

原油と小麦の高騰でどうなる日本経済?(写真はイメージ)
原油と小麦の高騰でどうなる日本経済?(写真はイメージ)

   「小麦関連製品の値上げは、家計支出で年間約3200円の負担増になる」と試算するのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。

   熊野氏のリポート「小麦粉の危機~ウクライナ・ショックが家計を直撃~」では、「この負担増は、小麦だけを計算したものであり、大豆、とうもろこしなどを含めると影響はさらに大きくなる」と警鐘を鳴らす。

   実は、日本の小麦輸入相手国は、米国、カナダ、オーストラリアの3国でほぼ100%を占め、ロシアとウクライナからの輸入はゼロに近い。しかし、ロシアとウクライナは世界の小麦輸出量の4分の1以上を占め、両国からの輸出が止まると、小麦価格は大暴騰する。しかも、日本は世界8位の小麦輸入大国だ。

   熊野氏はこう指摘する。

「すでに、原油高騰が石油製品や電気代・ガス代を大きく押し上げることが予想されているだけに、小麦価格の上昇はそこに追い打ちをかける」「生活者への痛みは、原油高騰などと併せて、大きなインパクトをもたらすだろう。物価上昇率が2%近くになる」

   食料品の中には、輸入小麦価格と連動性の高いものが多い。ウエイトの大きい順にパン、麺類、中華そば(ラーメンなど外食を含む)、ケーキ、ぎょうざ(外食)、カレーライス(外食)などが挙げられる=図表1参照

(図表1)小麦の高騰の影響を受ける小麦関連製品(第一生命経済研究所の作成)
(図表1)小麦の高騰の影響を受ける小麦関連製品(第一生命経済研究所の作成)

   これら「小麦関連製品」は消費者物価の食料品の中では16%も占めている。熊野氏は、3月7日時点での小麦価格上昇率(前年比3.1%増)から推計し、「家計支出の増加額は年間3200円」と計算した。

   ただし、政府が決める輸入小麦の売渡価格は、4月にもっと上昇する可能性が高い。そして、若い世代への打撃が大きい、と熊野氏は語る。

「小麦関連製品の支出は、高齢者よりも若者、特に単身世帯にはより影響が大きい」「コメ食よりもパン食、麺類を好む人には、値上げのインパクトは大きい。しかも、外食は割に早く値上げの効果が表れる。ラーメンやぎょうざ、天丼、スパゲッティなどの馴染みが深い外食は、値上がりの影響が出やすい」「小麦製品は、コメに並ぶ主食であるから、誰もその痛みからは逃げることが難しい」
小麦が上がるとパンの値段も上がる(写真はイメージ)
小麦が上がるとパンの値段も上がる(写真はイメージ)

   熊野氏のリポートでは小麦に焦点を当てたが、そのほかに大豆、とうもろこしなどの穀物価格の値上げにも危機感を募らせた。こう結んでいる。

「大豆は、大豆食品だけではなく、油脂などにも使われる。とうもろこしは、飼料として使われて食肉価格の押し上げに波及していく」「ウクライナ・ショックによって、小麦だけではなく、大豆・とうもろこしの上昇も含めて考えると、家計の負担増はもっと大きい」

家計への負担増、年間1万1000円~1万9000円の試算

   熊野氏は小麦関連食品だけでは「家計への負担増は年間約3200円」と試算したが、「食料費全体では1万1000円~1万9000円以上の負担増になるかもしれない」と警告するのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏だ。

   永濱氏のリポート「今秋に急上昇が予想される政府小麦売渡価格~米食シフトに伴う食料自給率上昇の可能性~」(3月7日付)のなかで、小麦独特の複雑な価格決定システムに注目した。

   日本の小麦輸入は政府によって一元的に行われ、政府が決めた売渡価格で国内メーカーに売り渡される。その価格の決定は毎年4月と10月。その間の買付価格はドル・円レートなどが勘案されて決まるが、食料品価格への波及に1年近くの時差が伴う。

   永濱氏はこう指摘する。

「さらに深刻なのは、ウクライナ情勢の緊迫化で急騰した3月以降の小麦価格が、今年10月の価格決定に反映されるということである」「今年10月の価格決定時には、4月に16%程度引き上げられると見込まれているところから、さらに4割以上の価格上昇となる可能性がある」

   永濱氏は、これまで最も小麦売渡価格が上昇した2007年10月(プラス10%)~2008年4月(プラス30%)~2008年10月(プラス10%)の時と比較して、今回の家計への負担を試算した。そして、

「2007年から2008年にかけての平均世帯の食料費の年間増加額は、2人以上世帯では0.5+0.6=1.1万円、勤労者世帯に至っては1.1+0.8=1.9万円も増えた=図表2参照。今後の展開次第では、足元の穀物高は来年にかけて2007年~2008年時以上に家計の購買力を圧迫することになりそう」

と推測するのだった。

(図表2)2007年~2008年の小麦価格高騰時の平均世帯の食料費増減(第一生命経済研究所の作成)
(図表2)2007年~2008年の小麦価格高騰時の平均世帯の食料費増減(第一生命経済研究所の作成)

   しかし、永濱氏は国民生活にとっての「いい面」も期待する。

「健康のためにも節約のためにも、米を中心とした和食にシフトすることが予想され、消費者の米や米商品に対する関心は高まろう。実際、穀物価格が高騰した2007年~2008年にかけて、食料自給率は一時的に上昇に転じた。今回も価格が上昇する輸入小麦に代えて国産米粉が見直され、米粉などの加工品の需要が拡大すれば、国内農業ひいては地域産業の活性化にもつながる」

   お米に対する消費者の意識が変わり、米作農家も助かり、日本の食料自給率も高まるというのだ。

ロシアに依存しない世界経済への道筋とは

   それにしても、ウクライナ侵攻をめぐる経済危機はいつまで続くのか。「長期的には1年ほどでロシア抜きの世界経済秩序ができるだろう」とみるのは、三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットストラテジスト市川雅浩氏だ。

   市川氏のリポート「ロシアに依存しない世界経済を織り込み始めた株式市場」(3月7日付)のなかで、ロシアに依存しない世界経済の形成過程を説明している=図表3参照。ポイントをまとめると、下記のようになる。

(図表3)ロシアに依存しない世界経済への道筋(三井住友DSアセットマネジメントの作成)
(図表3)ロシアに依存しない世界経済への道筋(三井住友DSアセットマネジメントの作成)

(1)短期の時間軸=経済制裁によりロシアからの天然資源の供給が減少、原油価格などが上昇。インフレ要因となり、利上げで対処する場合、その国の需要は抑制される。ロシア向け輸出停止やロシアでの生産停止に踏み切る企業、ロシアからの希少資源の調達が難しくなる企業が出てきて、株安となる。

(2)中期の時間軸=天然資源をロシアに依存してきた欧州諸国が代替先を見つけ、原油価格の上昇が一服。インフレ鈍化につながり、利上げ実施国での利上げ頻度が低下、景気は持ち直しやすくなる。企業もロシア向けの販売減を他国向けの販売増で補う動きが広がる。

(3)長期の時間軸=天然資源価格がロシアの供給減を踏まえた水準で形成され、原油相場も上昇基調が終了。インフレが一段と沈静化し、利上げも終了。景気は世界的に安定し、企業活動もロシアに起因する問題はおおむね解消。世界経済はロシアを除く新常態への移行が完了する。

   メデタシ、メデタシというわけだが、市川氏はこんな「条件」をつけるのだ。

「これらの時間軸は、(リポート発表時点での)ロシアに対する経済制裁が維持された場合を想定しており、長期は早ければ1年程度と考えることができます」「経済制裁強化なら、時間軸が長期化し、反転時期も遅れます。市場は制裁強化のシナリオも意識しつつあるようで、まずはウクライナとロシア双方が協議を継続し、少しでも停戦に近づくことが待たれます」

   欧米と日本が「ロシア産原油の輸入禁止」というさらに厳しい経済制裁に踏み切った場合はどうなるのか。「早ければ1年程度」というロシア抜きの世界経済安定もさらに遠のきそうだが......。

(福田和郎)

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