2024年 4月 19日 (金)

ミシュラン三つ星料理人が語る「日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか」

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   ミシュランガイドで三つ星を獲得した和食の料理人が、その素材や調理法の秘訣を明かしたのが、本書「日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか」(ポプラ社)である。繊細な日本料理を海外で提供する舞台裏にも触れており、ビジネスに携わる人にも参考になるだろう。

「日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか」(奥田透著)ポプラ社

   著者の奥田透さんは、1969年静岡県生まれ。京都や徳島の名店で修業の後、29歳で静岡に「春夏秋冬花見小路」をオープン。2003年に東京・銀座に「銀座小十」をオープン、2007年に「ミシュランガイド東京」で三つ星を獲得。13年にはパリ、17年にはニューヨークにも店を出した。著書に「本当においしく作れる和食」「世界でいちばん小さな三つ星料理店」などがある。

   ミシュランの星付き店の数は、東京が203、パリ109、京都108、大阪96、ニューヨーク67と東京が世界一である。奥田さん個人としても、日本が世界一の美食の国だと思っていて、なかでも東京は際立っているという。

   日本食はもとより、世界各国の料理がハイレベルで提供され、高級店からワンコインの店まですばらしいクオリティを保っているのもすごいところだ、と評価している。

  • 世界から絶賛される日本料理に迫る一冊だ(写真はイメージ)
    世界から絶賛される日本料理に迫る一冊だ(写真はイメージ)
  • 世界から絶賛される日本料理に迫る一冊だ(写真はイメージ)

日本料理の基本は「切る」 切り方によって味が変わる

   本書は、ミシュランが証明した日本料理のすばらしさを、素材や調理法などから奥田さんが解説したものだ。日本料理の最大の魅力は、栄養面とバランスのよさから世界一の健康食であることだと考えている。

   日本料理はそもそも油をほとんど使わないから、身体への負担が少ない。四季折々、その時の人間の身体に必要な食材――たとえば、身体を温めたり冷やしたりする食材がバラエティ豊かにそろっているため、身体への負担が少なく、健康を維持するのに適している。和食の存在そのものがSDGsの項目をいくつも体現しているというのだ。

   奥田さんは、「日本料理にメインディッシュはない」と考えている。付き出しに始まり、10品ほどの料理をつないでいくのが、日本料理だと思っている。だから、毎月の献立を考えることが最も大事な仕事だという。

   また、日本料理が日本料理であるために、ただおいしいだけではダメで、毎月毎月の行事や節句、その季節に合った器選び、部屋の掛け軸、花入れや箸置き、お膳など、トータルコーディネートで考えなければならないそうだ。

   お昼は料理だけで2万5000円、夜も3万3000円という高額な料金設定に求められているのは、お客の想像を超えた料理。それだけに、料理のことだけを考える毎日だという。

   切る、焼く、串を打つ、揚げる、煮る・蒸す、和える、盛り付けるという「調理法」から日本料理について考察している。基本は「切る」ことだという。切り方によって味が変わるからだ。日本料理に使うのは、片刃包丁で鋼製だ。慣れないとうまく使えず、一番難しいのは、刺身だという。その難しさをこう表現している。

「いい材料、切れる包丁、切る技術、全て揃わないと、おいしい刺身は作れません」

   奥田さんの店では、魚を切ったり野菜を切ったり、ある程度包丁使いができるようになるまで、早くても3年、大体4年かかるそうだ。そして、ようやく刺身を任せるそうだ。

魚のエネルギーと生命力に感じる凄み

   ひと通り、調理法について解説したところで、素材の話に移る。奥田さんがどんな素材を使っているのか、実に興味深い。

   素材で、もっとも熱く語っているのは、魚についてだ。鮮度はもちろん、魚から出ているエネルギーと生命力にすごさを感じるという。その魚が育ってきた人生観や修羅場の数、「オーラ」を感じ取れるかどうかが大事だとも。

   魚料理で重要なのは活け締めをしているか、していないかだ。パリで店を開くにあたり、フランスで活け締めを広める活動を始めた。8年経った今では、フランスの港のあちこちから活け締めの魚や活魚の流通が行われている。

   ニューヨークには、ほぼ毎日魚は日本から空輸されている。1日半待てば、豊洲にある魚のほとんどがニューヨークに届くという。値段は、豊洲の1.5倍が相場。パリよりもニューヨークの方が魚事情は恵まれていて、値段は高くなるが、日本と同じような料理が作れる状況にある。

   日本料理において、「鮎」という食材は、特別なものだという。鮎が示す夏らしさは格別だからだ。究極の塩焼きの条件に、鮎が生きていること、炭で焼くこと、サイズが15~16センチであること、を挙げている。

   生きた鮎に塩をふり、太陽光のような炭火の遠赤外線と、温風で乾かし続けることで、頭は唐揚げ、身は塩焼き、尻尾は干物のようになるのが、奥田流だ。そのため、5人の職人はひと月近く焼き方の特訓を続け、6月1日の解禁日に臨むという厳しさだ。

   牛肉にかんしては、いろいろ試行錯誤を繰り返した結果、現在はランクでいえばBMS12の、通称「トビ」と言われる最上級の格付肉にこだわっている。というのも、ブランドの名前よりも一頭一頭の状態が大事。プロの卸業者の目利きを信用するのが一番だという結論に至ったという。

   熟成がブームになっているが、鮮度のいい肉や魚を適切な調理法で食べるとおいしいことを知り、「固定観念が崩れた」と告白している。専門外の焼肉屋や中華料理店に行き、未知の料理に触れ、探究を続けている。

   ちなみに、米や水、だしを取るための昆布、かつお節についても詳しく説明。日本料理にとって「だしは命」だと書いている。

どうなる? 日本料理のグローバル化

   最後の章は、日本料理のグローバル化について考察している。

   日本を含めて世界の味覚のストライクゾーン、誰もがおいしいと思う食材は何か、と問うている。奥田さんが、パリ店、ニューヨーク店を出した経験から、「一番のど真ん中にあるのはサーモン」だと断言している。

   もう一つ、日本的なものでいくと、マグロの「中トロ」だという。逆に、白身魚の刺身や野菜のお浸しなどは、ストライクゾーンはかなり低めで、世界的にはボールだそうだ。これらを総合し、

「日本料理のバリエーションは世界的にみて高めの料理よりも、低めのストライクゾーンに位置する料理が多い」

と結論づけている。

   しかし、日本料理が日本料理であるために、素材を生かした繊細な味付けや、シンプルな料理法など、根本的なものは何一つ変えない――つまり、日本料理のストライクゾーンをぶれずに伝え続けていきたい、と結んでいる。

   コロナの終息を機に、また世界から美食を求める人たちが日本にたくさん訪れることを奥田さんは確信している。

(渡辺淳悦)

「日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか」
奥田透著
ポプラ社
979円(税込)

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