2024年 4月 26日 (金)

まずは「イヤじゃない仕事」に就くこと大事 元大学教授が書いた「リアルすぎるFIRE」本

   定年延長に加え、年金の不安もあり、多くの人が60歳を過ぎても働かざるを得なくなっている。しかし、本来なら、限りある定年後の時間は「自分が本当に生きたいように生きる」ための時間として使いたいもの。

   本書「60歳までに『お金の自由』を手に入れる!」(PHP研究所)は、「43歳貯金ゼロ」から数年で「一生困らない資産」を築き上げた著者が、「60歳までにお金の不安を一掃する」ためのマネー術を説いたものだ。

「60歳までに『お金の自由』を手に入れる!」(榊原正幸著)PHP研究所

   著者の榊原正幸さんは、青山学院大学の会計学教授として教鞭をとりながら、多くの株式投資本を発刊してきた著名投資家。しかし、実は43歳の時点での貯金は「ゼロ」だった。それがたった数年でリタイア可能な資産を築き上げ、60歳前に「自主定年退職」を実現した。どうやったら可能だったのか。

   榊原さんは、本書で「イヤじゃない仕事に就くことの重要性」と「老後のための資産運用の重要性」を説いている。後者の意味は分かりやすいが、前者は少しピンとこない人もいるだろう。「好きな仕事」と「イヤな仕事」の間にあるのが、「イヤじゃない仕事」だと説明している。そして、そうした仕事に就き、還暦前後まで働くことによって、資産運用をする時間を稼ぐのだという。

還暦前後でお金の不安なく仕事を辞めるには?

   逆説的に言えば、「イヤじゃない仕事」に就いて、時間をかけて資産形成すれば、還暦前後でお金の不安なく仕事を辞められる、というのだ。

   榊原さんは自身のキャリアについて詳しく書いている。1961年名古屋市生まれ。名古屋大学経済学部、大学院経済学研究科を経て、同大学経済学部助手になる。その後、東北大学大学院経済学研究科教授となる。

   2004年、青山学院大学の大学院(ビジネススクール)に移籍。国立大学から私立大学へ移ることに、周囲は猛反対したそうだ。しかし、敢然と実行する。当時、6歳の息子さんが1人いたが、貯金はゼロだったという。投資自体は若い頃から手掛けていたが、儲かったり損したりの繰り返しだった。

   東北大学の助教授になった頃、専門の会計学が株式投資に応用できることに気が付き、投資法を確立。その後は平均すると年10%弱の運用を実現し、50歳になるまでには「仕事を辞めても困らないだけの資産」を手にすることができたそうだ。

   だが、大学の仕事は「イヤじゃない仕事」だったので、59歳まで続けた。定年まで9年あったが、「人生の残り時間が少ない」と思い、きっぱりと辞めた。

お金(収入源)を二つに切り分ける

   本書では、不動産投資よりも利回りが高く、小回りが利く株式投資を勧めている。詳しい投資法は本書を読んでいただきたいが、基本的な考え方だけを紹介しよう。

   大事なのは、「お金(収入源)を二つに切り分ける」ことだという。「労働所得」と「資産所得」だ。「労働所得」は9割を「消費」に充てて、1割を「貯蓄」に充てる。「資産所得」は10割を「貯蓄」に充てる。原則的に「消費」には充てない。

   投資資金総額が3000万円を超えたあたりからは、投資資金自体の「複利の力」による増殖力が強大になるので、もう貯蓄による追加資金投入はしなくてもよくなるという。

   本書には「なるほど」と思った名言がいくつもある。少しだけ引用しよう。

・「額面上は無リスク」の定期預金にお金を寝かせておくことは、まさに「リスクをまったく取らないことこそがリスクである」ということの典型的な例
・「勉強する」ということは最大のリスクヘッジである
・副業の目標は「毎月10万円」
・暇(ヒマ)がありすぎるのもストレスだ。完全に無職になるのではなく、「イヤじゃない副業」は残しておく

   評者は60歳をいくつか過ぎたばかりだが、同級生やかつての同僚を見て、実に千差万別な「老後」を送っていることに気が付き、愕然としたことがある。

   上場企業のファウンダーとして資産数十億円を築き、60歳直前でリタイア。各地に別荘を持ち、しょっちゅう夫婦で海外クルーズ旅行を楽しんでいる者もいれば、ほとんど預貯金もなく第三の職場であくせく働いている者もいる。高校の同級生だった2人は、どこで差が付いたのか。

   経済的には両極端のポジションにいる2人だが、難関大学を出て、社会的にはそれぞれ著名な企業で働き、しかるべき地位にいたから、50代の頃、「格差」は顕在化していなかった。はっきり違いが見えてきたのは60歳を過ぎてからだ。

   金銭感覚の違いだけでは説明できないものがあると思っていたが、本書を読み、理由が分かった。

   前者は若い頃から老後を見据え、経済的自由を手に入れることを明確に目的としていたのに対し、後者は「なんとかなるだろう」と考え、蓄財をしてこなかったという。誰もがうらやむ職業に就き、思う存分仕事をしてきた人の頭の中には「老後」の二文字はなかったのだ。

   「好きな仕事」に就いた代償は大きかった、と言えるかもしれない。せめて40代で彼がこの本と出会っていれば、と老婆心ながら思った。

   今はやりの「FIRE」本とは一線を画す「リアルすぎるFIRE」本だ。30代から40代の人にこそ読んでもらいたい。今から動けば、確実に60歳までには「お金の自由」を手に入れることができるだろう。巻末には、安全・堅実な投資先リストが付いている。

(渡辺淳悦)

「60歳までに『お金の自由』を手に入れる!」
榊原正幸著
PHP研究所
1067円(税込)

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