2024年 5月 7日 (火)

給料は上がらず、物価だけが上がる...悪夢の「スタグフレーション」

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   モノの値上げラッシュが続いている。モノと賃金が比例しながら上がるインフレではなく、モノだけが値上がりするスタグフレーションが、日本で現実に起ころうとしている。

   本書「スタグフレーションの時代」(宝島社新書)は、コロナ禍によって世界的なインフレが進むなか、日本だけがそうなる理由とは何か。また、どういったメカニズムで生じたのかを、若手経済評論家がわかりやすく解説した本だ。

「スタグフレーションの時代」(森永康平著)宝島社新書

   著者の森永康平さんは、1985年生まれ。金融教育ベンチャーの株式会社マネネCEO、経済アナリスト。証券会社や運用会社でアナリスト、ストラテジストとして従事。著書に「MMTが日本を救う」や父・森永卓郎さんとの共著「親子ゼニ問答」などがある。

   スタグフレーションは造語であり、景気停滞を意味する「スタグネーション」と「インフレーション」を組み合わせた言葉だ。

   一般的には、景気が後退すれば需要が減少し、モノの値段は下がっていくはずだ。だが、原油価格や金属価格が上昇することで原材料費が全般的に高騰し、不況下にもかかわらず、物価は上昇していくという現象――スタグフレーションが起こる。

中国に「買い負け」している日本

   足元の日本における物価上昇の要因は外部の影響が大きいが、日本が自ら招いた部分もかなりあると、森永さんは指摘している。

   それは投資不足だ。

   政府が財政赤字を気にして必要な投資をしなかったことで、日本はデフレ経済を脱却できず、結果として民間企業も投資を控え、コストを抑えて売価を下げることでしか消費者をひきつけることができなくなった。気がつけば日本は、海外に多くのモノを依存することになってしまった。

   牛丼を例に、中国に対して「買い負け」していることを説明している。

   新型コロナウイルスの影響により、食肉に対する肉食需要が高まり、米国国内でも牛肉価格が上昇。輸入価格も上昇した。中国はブラジル、アルゼンチンなど主に南米から輸入していたが、経済発展と富裕層の増加により焼肉ブームが起こり、日本の仕入れルートにも手を出してきた。日本の輸入量はたいして変わらない中で、中国の米国からの輸入量は急増している。

   日本が「失われた30年」を過ごす一方、中国は巨額の投資を背景に急成長を遂げた。その結果、食料の「買い負け」という予想もしていなかったインフレ要因が新たに発生した、と説明している。

日本だけが30年間賃金が上がっていない

   国民目線で「良いインフレ」というものがあるとしたら、賃金が上がって購買力が高まり、物価上昇率が賃金の上昇幅の中で収まっている場合だ。先進各国の名目賃金がどう推移したかをグラフで示している。

   1991年を各国100として、2020年までで比較している。英国と米国が250に迫り、カナダ、イタリア、ドイツ、フランスが170から210の間まで伸びているのに対し、日本は100を切る水準だ。日本の賃金だけがまったく上昇していない。

   値上げにシビアな消費者に対して、値下げをすることで商品の魅力を訴求することを覚えた企業が、値下げをしても利益水準を保てるように人件費を抑えようと、非正規雇用の割合を増やし、投資を抑えた。

   そうすると、雇用環境が不安定な労働者が増え、値上げにシビアな消費者が増えるので、企業はさらに商品を値下げして売るというデフレの「負のスパイラル」に突入していたのだ。

   コロナ禍でのインフレは格差拡大を加速させる、と森永さんは警告する。

   クレジットカードの決済情報をもとにJCBとナウキャスト社が算出している、消費動向指数「JCB消費NOW」のデータを用いて、コロナ禍における消費はどの品目で強く、どの品目で弱かったかを見ている。

   生きていくうえで不可欠な飲食料品、水道光熱費、医療費は減っていない。一方で、娯楽、外食、宿泊、旅行など余暇の支出は大幅に減っている。

   富裕層からすれば、コロナ禍でそれらに支出することができなくなったため、現金・預金といった資産が増えた。

   そのお金を投資に振り向け、株式などは金融緩和で堅調に値上がりしたため、さらに投資で増えるという好循環となった。コロナ禍におけるインフレは、格差拡大を加速させてしまったのだ。

日本経済の処方箋...減税と一律給付がベスト

   コロナは財政の「緊縮VS反緊縮」という神学論争に終止符を打った、という項に注目した。

   長く論争が続いてきたが、1つのデータが結論を出したという。本書では、2000年から2021年までの政府債務残高、国債の利回り(10年物)、消費者物価指数の推移をグラフで示している。

   2021年12月末時点での政府債務残高は1218兆円まで膨らんでいるが、国債の利回りは0.1%、消費者物価指数は前年同月比マイナス0.7%である。

   国債の利回りと価格は逆の関係にあるので、この3つのデータを見る限りでは、「政府債務残高が膨らんでも、国債が暴落することもハイパーインフレになることもないという事実だけは確認できる」としている。

   日本経済の処方箋について、「政府が無能なら減税と一律給付がベスト」と提言している。

   単純に消費税を引き下げれば、その分だけ購買力は高まるし、現金を給付すれば消費はさらに増える。

   コロナ禍という緊急事態だからこそ国民の理解も得られたのに、政府内では検討している様子もない、と憤っている。需要が高まれば民間の投資も増える、という簡単な話だ、と。

「コロナ禍におけるスタグフレーションという外圧で目を覚ませるかどうかが日本の存亡につながっている」

   こう結んでいる。日本だけがおかしいことに多くの人が気づくべき時期がきたということだろう。

(渡辺淳悦)

「スタグフレーションの時代」
森永康平著
宝島社新書
990円(税込)

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