2024年 4月 30日 (火)

岸田政権の原子力政策、原発推進へ「政策転換」...再稼働、新増設、そして運転期間の延長着々

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   岸田文雄政権が原発推進へと、政策転換のギアを入れた。

   再稼働、運転延長、そして次世代型原発建設の3本柱で、経済産業省が先頭に立って旗を振る構図が見えてきた。福島第一原発事故以降、事実上封印してきた議論を、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー不足を契機に、一気に進めようという狙いだ。

   ただ、支持率急落する岸田内閣に、大きな政策を進める体力があるかも含め、予断は許さない。

  • 岸田文雄首相
    岸田文雄首相
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岸田首相、今夏の会合で「再稼働とその先の展開策」示すよう指示

   原発推進の舞台は脱炭素社会への投資などの司令塔となる政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」。岸田首相は7月27日、8月25日の会合で「再稼働とその先の展開策」を示すよう指示。再稼働を急ぐとともに、運転期間延長、原発の新増設に踏み込んだ。

   J-CASTニュース 会社ウォッチは、7月の会合を受け、「政府期待の『革新軽水炉』...経産省、2030年代運転への『工程表』示す だが、『新増設せず』の従来方針と矛盾...原子力政策の見直し進むか?」(22年8月19日付)で報じたように、普通の水(軽水)を冷却材として使用する現在の「軽水炉」の改良型である「革新軽水炉」を中心に、新増設、建て替えを進める姿勢を打ち出した。

福島原発事故後の規制基準強化から、長引く「稼働」の審査

   再稼働については、ウクライナ侵攻を契機にしたエネルギー価格急騰、供給懸念を受け、政府・与党で急げという議論が噴出。自民党の原発推進派の議連が2022年3月、テロ対策施設の設置ができていない原発についても、緊急稼働させるよう決議。政府は6月の「骨太の方針」に「効率的な審査」などを盛り込んだ。

   こうした意見の背景にあるのが、福島第一原発事故を受けて規制基準が強化され、審査が長引いていることへの不満だ。

   矢面に立ったのが安全審査を担う原子力規制委員会だ。9月7日、審査会合の開催を柔軟化し、頻度を上げるなど審査効率化の方針をまとめた。

   ただ、審査会合は原則公開、事前の事業者からのヒアリングは後日議事録を公開するという現行の仕組みについて、電力会社などから「本音の議論が必要」などの声が出ていたが、規制庁は公開の原則は維持する方針だ。

   具体的に、福島第一原発の事故時に54基あった原発は21基が廃炉になり、残る33基のうち27基が審査を申請し、17基が審査に合格したが、再稼働は10基にとどまる。実際の再稼働は、対策工事の進み具合や、地元の意向に左右される。

   現在の最大の焦点が、東電柏崎刈羽原発(新潟県)だ。テロ対策など安全管理に関する問題が相次いで発覚し、東電の体質まで問われ、再稼働の見通しが立たないでいる。

   審査終了から4年たつ日本原子力発電東海第二原発は、避難計画の不備を理由に、運転差し止めを命じる地裁判決が出た。避難計画が求められる30キロ圏内に100万人近くが住み、地元の同意に至っていない。

原発「運転期間」の延長へ...エネ庁は法改正検討、規制委も追認

   もう一つ、ここにきて急展開したのが、原発の運転期間の延長だ。福島第一原発事故後、原子炉等規制法(炉規法)を改正し、原則40年、規制委が認可すれば最長20年延長できることになっている。

   これについて22年9月22日で総合エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の原子力小委員会で、経産省・資源エネルギー庁は「一つの目安であり、明確な科学的な根拠はない」との認識を示し、委員からも「(期間延長は)費用対効果が優れている」と評価する声が目立ったなどと報じられている。

   さらに、10月5日の原子力規制委では、エネ庁の担当者が期間延長に向け、炉規法改正の考えを表明。規制委の山中伸介委員長は「エネ庁における検討そのものに、規制委が意見を述べる立場にはない」と、従来からの規制委の見解を踏襲する考えを示した。

   規制庁は運転延長の議論を踏まえ、老朽化した原発の安全性をどう確認するか検討するよう事務方に指示した。

   規制委は運転期間を何年にするかは「政策判断」だとして関与せず、あくまで専門家として安全審査を厳格に行う立場ということで、実質的に経産省の方針を追認するものだ。

   外国のケースは、たとえば米国は延長で80年まで認められたケースがある。英国とフランスは運転期間に制限はなく、10年ごとに安全審査を受ける。

   経産省エネ庁はこうした例も参考に検討する構えだが、当面、安全審査で停止している時間を運転期間から除外するなどして実質的に延ばす案なども浮上している。

「世論調査」の賛否、設問により真逆の結果に

   ウクライナ問題を契機に風雲急を告げる日本の原発政策だが、いまのところ、世論の方向も定まっていないようで、相反するような世論調査結果が出ている。

   新増設について、朝日新聞(8月27、28日)の世論調査では賛成34%、反対58%、毎日新聞と社会調査研究センター(9月17、18日)でも、賛成36%、反対44%と、反対多数だった。

   一方、NHK(9月9日~11日)は賛成48.4%、反対31.6%、日本経済新聞(9月16~18日)も、「評価する」53%、「評価しない」38%と、真逆の結果が出ている。

   これには設問もからんでおり、朝日や毎日は新増設の賛否をシンプルに尋ねているのに対し、NHKと日経は首相が「検討を指示した」ことへの賛否・評価を問うている点で異なる。

   脱原発のNPO法人原子力資料情報室は朝日とNHKの調査発表後、「要請 原発新設に関する世論調査について」との文書を公表。NHKの設問が「原子力発電所の政策をめぐって、政府は、次世代の原子炉の開発や建設を検討する方針です。この方針に賛成ですか。反対ですか」というものだったことを指摘し、「『次世代』や『革新炉』と呼ぶと、あたかも安全性が飛躍的に高まった未来の原発であるかのような印象を与える。しかし、現実的に建設されうるのは、現在存在する原発、またはそれが若干改良された程度のものになる」として、「次世代」などの表記が「回答者に不要な先入観を与えてしまうことになる」と批判している(2022年9月16日付)。

   電気料金の高騰など国民生活にも大きな影響が広がる中、原発をエネルギー政策の中にどう位置付けていくか、難しい議論が続く。(ジャーナリスト 岸井雄作)

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