2024年 4月 19日 (金)

待ったなしの「脱炭素経営」...対応しなければ、ビジネスができなくなる? そして、「脱炭素」時代の成長戦略とは?/野村総合研究所・小野尚さんに聞く

提供:RX Japan
「多くの企業は現在、社会課題の解決をめざすカーボンニュートラルへの取り組み、収益化できる仕組み――この両輪で進める脱炭素経営が求められています。また、自動車や機械メーカーが気にかけているのが、欧州で近く始まる『欧州バッテリー規制』や『国境炭素税』をにらんだ対応。待ったなしの脱炭素への取り組みは、さらに加速していくと思います」
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   こう語ったのは、野村総合研究所(NRI) コンサルティング事業本部 パートナーの小野尚(おの・ひさし)さんだ。ビジネスコンサルタントとして国内外の企業、ステークホルダーら関係者とのディスカッションを通じ、日本企業の脱炭素脱炭素経営に対する切迫感は増している、と小野さんは指摘する。

   今回、2023年「脱炭素経営EXPO 春展」(2023年3月15日~17日/東京ビックサイト)の基調講演にも登壇するキーパーソン・小野さんに、企業を取り巻く「脱炭素」の動向、そして、「脱炭素」時代の企業の成長戦略をテーマに話を聞いた。

  • 野村総合研究所(NRI) コンサルティング事業本部 パートナー・小野尚さん
    野村総合研究所(NRI) コンサルティング事業本部 パートナー・小野尚さん
  • 野村総合研究所(NRI) コンサルティング事業本部 パートナー・小野尚さん

気候変動によるリスク情報の開示、「プライム市場企業」に実質的な義務付け

――まずは、脱炭素、脱炭素経営を取り巻くビジネス環境を教えてください。

小野尚さん「2020年秋、当時の菅義偉総理による『2050年のカーボンニュートラル宣言』がきっかけとなり、コンサルタントとして私も、多くの企業関係者と脱炭素経営について議論やヒアリングを重ねてきました。
みなさんとの対話を通じて、進むべき脱炭素経営のポイントは、2軸あると考えています。
1つ目は、深刻化する気候変動問題の解決をめざして、あらゆる企業が力を発揮し、脱炭素社会を実現していくことです。次世代のためにも、イノベーションの創出、再生エネルギー活用などを含め、地球温暖化などへの対策は必須でしょう。2つ目は、やはり営利企業である以上、カーボンニュートラル(脱炭素)に取り組みながらも、収益の拡大を図ることも欠かせない視点です。この両輪をどう回していくか、両立させるかが今、経営者に問われている課題です」
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――カーボンニュートラル宣言から2年近くが経ち、経営者のマインドは?

小野さん「大きな方針だけが決まった2年前は迷いもありましたが、今は違います。どのように脱炭素を進めるべきか、まさに実行する段階にきています。その入り口として、関心が高いのは、GHG(温室効果ガス)排出量算定でしょうか。プライム市場企業には、気候変動によるリスク情報の開示が実質的に義務付けられており、その対応が不可欠です。先進的な企業では、削減目標の設定、削減計画の策定もどんどん進んでいます」

――GHG排出量はどのように算定するのでしょうか? また、課題は?

小野さん「GHG排出量は、国際基準の『GHGプロトコル』にもとづいて算定するものです。GHGプロトコルには、排出区分として、スコープ1(自社での直接排出量)、スコープ2(自社での間接排出量)、スコープ3(その他の間接排出量=自社排出以外で、調達や出荷などにかかる排出量)があります。
このうち、各社(の担当者)を悩ませているのが、スコープ3の算定。スコープ3は15のカテゴリーに細分化されているなど仕組みが複雑なうえ、排出情報について、取引先企業、パートナー企業などから広くデータを収集する必要があるからです」

――そうした課題に対して、NRIではどのような解決策やソリューションを考えていますか?

小野さん「そこで、GHG排出情報のトレース(追跡)を可能にする、SaaS型(クラウドサービス)のカーボントレーシングシステム『NRI-CTS』の開発を進めています。データ収集や算定の負担感を減らし、スコープ3の把握に役立つものです。2023年夏の正式ローンチに向け、実証実験を経て、開発は最終段階を迎えています。今回、『脱炭素経営EXPO 春展』(=下の囲み参照)にも出展して、アピールしたいと思っています」
◆野村総合研究所も出展する、日本最大の脱炭素経営の展示会「脱炭素経営EXPO【春】」
3年目を迎えた本展示会の見どころとは? 主催者の小笠原氏が語る

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3年目を迎える2023年「脱炭素経営EXPO 春展」(2023年3月15日~17日/東京ビックサイト)では、これまで以上に多くの方が来場される見込みです。
今、脱炭素経営について、ポジティブにとらえる動きが強まっているように感じているからです。大きな変革期には必ずピンチがあり、裏を返すとそれはチャンスでもあります。
たとえば今回、初出展の野村総合研究所(NRI)、三井住友銀行、総合商社の三井物産をはじめ、大手企業の出展が目立ちます。大企業も脱炭素をビジネスチャンスととらえる動きが形になってきた表れではないかと思います。
また、国際展としてのカラーが強まったことも象徴的です。環境意識の高い米カリフォルニア州からは、「気候テック」のベンチャー企業が来日。そして、同州のカーボンニュートラル政策をテーマに、官民の関係者らによるパネルディスカッションを開催します。政府と民間の両面からどう環境とビジネスを結びつけるか――この視点は、日本の政府・自治体や企業、起業を目指す人にとってヒントとなるはずです。
脱炭素とビジネスをどうつなげられるかは、ビジネスパーソン全員の喫緊の課題です。その解決の糸口が得られる2023年「脱炭素経営EXPO 春展」。リアル展示会にご来場いただき、脱炭素経営への取り組みを具体化する場にしていただきたいと思います。(「脱炭素経営EXPO」主催・RX Japan株式会社:小笠原徳裕)
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欧州の動向がビジネスを左右 付加価値型の製品開発も今後のカギ

――「NRI-CTS」の特長について教えてください。

小野さん「『NRI-CTS』は設計思想として、世界中の会社と排出情報のやりとりができる仕組みを構築したいというビジョンを描いています」

――GHG排出情報のやりとりをする...どういうことでしょうか?

小野さん「順を追って説明すると、『カーボンフットプリント』という考え方があります。これは、ひとつの製品やサービスに対して、原材料の調達から生産、流通、そして廃棄やリサイクルに至るまで――製品のライフサイクル全体を通して排出されるGHGの排出量を(CO2に換算して)数値化して表すものです」
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小野さん「このカーボンフットプリントについて、今、日本企業のなかでは自動車や機械メーカーなどがとくに気にかけています。
背景には、欧州で2024年7月から順次適用が始まる『欧州バッテリー規制』があります。電気自動車などに欠かせないバッテリーの、ライフサイクル全体の排出量――カーボンフットプリントの申告などが義務付けられるのです。
さらに、欧州はこの先、環境規制の緩い国からの輸入品に関税を課す『国境炭素税』の導入にも動き出しています。グローバルでビジネスを進めるうえでも、これまで以上に、排出量の正確な把握は欠かせなくなりそうです」
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――この時、それぞれの部品の供給元であるサプライヤー由来の排出量まで、すべてさかのぼってデータを収集し、開示していく必要があるのですね。

小野さん「ええ。とくにバッテリーや自動車の製造工程では、関わるサプライヤーも多く、何十階層にもわたるなど、すべてをたどるのがとにかく大変です。こうした課題を解決するのが『NRI-CTS』。しかも、GHG排出量の見える化・算定システムはすでにいくつかありますが、『NRI-CTS』のユーザーは、サプライヤーが他社製のシステムを使っていても、データの受け渡しがスムーズにできるのが最大の特長です」

――こうした仕組みを通じて、世界中の会社との排出情報のやりとりを実現するわけですね。一方で、企業の「収益の拡大」ではどのような取り組み方が考えられますか。

小野さん「CSR(企業の社会的責任)的な社会貢献としてのカーボンニュートラル推進ではなくて、企業の収益も上がっていくような、価値を持つ製品やサービスの提供については今後、考えなくてはならないポイントだと思います。
たとえば、カーボンニュートラルをうたった、付加価値型の製品を展開していくやり方があると思います。これは今、アパレル、食品・飲料などの分野では少しずつ広がりを見せています。通常に比べて割高な設定でも、生活者の理解を得るかたちで提供していくのです。こうした動きが他の業種にも波及していくと、社会全体に脱炭素がもっと浸透していくと思います」
「脱炭素経営EXPO」の様子。リアルな展示会だから、商談が進みやすいのもメリット
「脱炭素経営EXPO」の様子。リアルな展示会だから、商談が進みやすいのもメリット

――最後に、企業が脱炭素を推進するうえでのポイントを教えてください。

小野さん「つらい思いを強いられやすいコスト削減のような意識で取り組んでも、どこか社員のみなさんは前向きになれません。そういう意味でも、繰り返しになりますが、企業はカーボンニュートラルに取り組みながらも、新たな価値を生み出し、利益を上げていくことが大切です。
事業を推し進めるには、トップのリーダーシップはもちろん、これからは現場をリードする人の役割も重要。全社的な取り組みとして、一体化していく必要があるでしょう。いうまでもなく現場には、ビジネスのヒントがたくさん隠されているのですから」

――ありがとうございました。

   企業の「脱炭素経営」のヒントとなるソリューションが一堂に会する、国内最大規模の脱炭素経営に特化した専門展「脱炭素経営EXPO」。2023年「脱炭素経営EXPO 春展」(3月15日~17日/東京ビックサイト)では、脱炭素の潮流や先進事例などを取り上げるセミナーが充実。「基調講演」には小野さんも登壇予定だ。

【プロフィール】
小野 尚(おの・ひさし)

野村総合研究所 コンサルティング事業本部 パートナー
https://www.nri.com/

1990年、NRI入社。NRIソウル支店長、グローバル事業コンサルティング部長、グローバル事業企画室長などを経て現職。専門分野は、クロスボーダーの事業開発、ビジネスモデル変革、新規事業開発。実施プロジェクトは、日本企業と外国企業とのM&A・アライアンス、事業評価に基づくポートフォリオ改革、海外市場展開など成長戦略の実行支援。米コーネル大学MPA。

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