今回紹介する本の著者は、ナレーター・声優のプロとなって20年間、産休以外で仕事を休んだことがない。フジテレビ「土曜はナニする？！」、関西テレビ「ちゃちゃ入れマンデー」などの人気番組でナレーションを担当してきた、中村郁さんである。じつは発達障害だったという。本書では、ご自身が取り入れている、ビジネスシーンでも参考になりそうな数々のライフハックが明かされている。『発達障害で「ぐちゃぐちゃな私」が最高に輝く方法』（中村郁著）秀和システム買ってはいけないものがある著者の中村さんは日常的にモノをなくすことが多い。そんな中村さんには「買ってはいけないモノ」があるようだ。ここで紹介したい。＜高級な傘＞「私は傘をなくします。絶対になくしてしまうのです。どんなに気をつけていても、必ずなくなります。なくなるタイミングは、無限にあります。出先でお手洗いに行った瞬間、電車のなかでイスの手すりに傘をかけた瞬間、お店の傘立てに入れた瞬間......。一日中雨が降っている日よりも、途中で雨が上がってしまったときがいちばん危険です。傘が自分の手を離れた瞬間、その存在を忘れてしまうのです」（中村さん）では、どんな対策をしているのか？「電車でなくさない方法として、傘の柄を自身のバッグに引っかけたり、ジャケットのポケットに引っかけたりする方法を教えていただき、さっそく試してみました。おかげさまで、電車内でなくすことはありませんでしたが、その後ショッピングモールのイスに腰かけて休憩した瞬間なのか、お手洗いに行った瞬間なのか思い出すことができませんが、電車のトラップを切りぬけたのに、その日どこかでなくなってしまいました」（同）話が少々脱線してしまうが、私は以前、イギリス帰りの知人から、英国紳士は傘をオシャレアイテムとして使っていると聞いたことがあった。その彼は、FOXUMBRELLAS（フォックス・アンブレラ）の傘を愛用していた。しかし、少々の小雨では傘を開かない。いぶかしげに尋ねると、「傘をさしたら形が崩れてしまう」という答えが返ってきた。小雨程度なら、傘は開かないらしい。また、FOXUMBRELLAS（フォックス・アンブレラ）をはじめ、老舗メーカーの傘の多くは重要な機能を有していない。じつは、長時間さらすと、濡れてしみてくるのである。つまり、英国紳士にとって傘はオシャレアイテムで、防水機能は度外視されているということだろう。傘をステッキのようにきつく巻いてある状態が一番美しい状態だと教えてもらった。本書を読みながら、英国紳士の知人のことを思い出してしまった。かれこれ10年は会っていない。そういえば、彼は真夏でも上着を脱ぐことはなかった。英国で上着を脱ぐことは下着になることと同じだとも教えてもらった。閑話休題。本書は発達障害の人の特徴を照射しながらエピソードを重ねているので、非常にわかりやすい。今回は傘について取り上げたが、ほかにも、シワになる素材の服（アイロンがけが苦手）、イヤリング（すぐになくなってしまう）などの話題も豊富。共感する人も多いのではないかと思う。じつは「普通」がむずかしい著者の中村さんは幼いころより体が弱く、癇癪や、過剰に集中し過ぎてしまう「過集中」、さらには物忘れがひどく大変な毎日を送ってきたそうである。大学受験では過集中がプラスに働き、偏差値40を70まで上げて志望大学（同志社大）に合格するも、入学後は華やかな学生たちに馴染めず、人間関係も思考もぐちゃぐちゃに......。ところが、「過集中」がプラスに働いて、「声の世界」へはいることとなった。ナレーターの道を勧められ、大学卒業と同時に現在の事務所に所属することになる。ナレーターは高い集中力が必要な仕事で、短所を長所として活かしながら活躍している点も興味深い。「過集中」しているときには、人の声が聞こえないらしい。気が散らないから、全く噛まずに読めるそうだ、また、何かに没頭すると、徹底的に調べまくるクセがある。表現力・国語力の高さが評価され、数々のオーディションに合格した経験もある。この本では、著者を長年の成功に導いた数々のライフハックを公開している。ビジネスですぐに使えるものから、プライベートの悩みを解決するものまで盛りだくさん。いずれも自分の人生を幸せにしてくれる、非常に「シンプル」な方法ばかりである。（尾藤克之）
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