2026年の夏も例年より暑くなるという予報がでている。熱中症にならないために水分を補給することが多くなるが、甘いジュースや炭酸飲料に手を伸ばしてはいないだろうか。
ただ、飲み過ぎると、糖尿病という落とし穴が待っていることには注意したい。糖分の多い清涼飲料水を大量に飲み続けることで高血糖になり、「ペットボトル症候群」を引き起こし、重症化すると救急搬送されることもある。
5人に1人が糖尿病または糖尿病予備群ともいわれる日本。発症しないようにするにはどうしたらいいか。また、発症してもダメージを少なくする方法、水分補給方法、血糖管理の仕方などについての講義を聞く会が2026年6月25日にアボットジャパンの主催で開かれた。講師として、糖尿病専門医で、「おばな内科クリニック」院長・川名部新医師が務めた。
症状がなく、知らない間に進行している糖尿病
そもそも糖尿病とはどんな病気なのだろう。
「一言でいえば、血糖値が慢性的に高い状態が続く病気です。では、なぜ血糖値が上がったままになるのか。食事をすると身体の中に糖分が入り、血糖値が上がるのですが、インスリンが分泌され血糖値が下がります。と同時に、糖を細胞に取り込み、エネルギーとして利用します。しかし糖尿病のある人は、インスリンの分泌量が足りなかったり、分泌されていても効きにくい状態であったりするのです」(川名部医師)
糖尿病の怖いところは合併症だ。川名部医師によると、「高血糖の結果、血管が障害されて合併症が起きる」という。たとえば、細い血管が障害されて起きる糖尿病網膜症。失明するケースもある。また、腎臓も無数の細い血管が行き交っているが、糖尿病になると十分な機能が果たせず、糖尿病腎症になる。この場合は透析が必要になることもある。足の神経に栄養を送る血管が傷つくと足のしびれや痛みがでて、足を切断せざるを得なくなることもある。一方、太い血管が障害されて起きるのが動脈硬化で、進行すると脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こすケースもある。
「ただ、糖尿病のやっかいなところは、症状がないことで、知らない間に糖尿病にかかっていて、健診で見つかるケースも珍しくないことです」(川名部医師)
500mlのペットボトル飲料水に3~17個の角砂糖が含まれることも
これからますます暑くなるにつれ気をつけたいのは、飲み物である。熱中症を防ぎたいと、つい甘く美味しいジュースや清涼飲料水などに手が伸びがちだが、飲み過ぎると高血糖を招きやすくなり、「ペットボトル症候群」(正式名:清涼飲料水ケトーシス)を引き起こすと川名部医師は警告する。
「糖分の多い清涼飲料水をたくさん飲むと血糖値が上がります。すると脳の口渇中枢が働き、喉の渇きを感じるようになります。その結果、さらに甘い飲み物を飲んでしまうと高血糖が悪化します。尿の量も増えて脱水が進み、さらに喉が渇いて甘い飲み物を飲むという悪循環に陥るのです」(川名部医師)
すると、たとえば、体重の減少をもたらす恐れがある。なぜ体重が減るのかといえば、高血糖のレベルが高くなりすぎてインスリンが足りなくなることが影響している。インスリン不足により、糖をエネルギーとして利用できないため、体内の脂肪や筋肉を分解してエネルギーを作り出す。その結果、痩せるのだ。
「問題はそれだけでなく、脂肪や筋肉を分解した副産物としてケトンという物質がでて、それによって血液が酸性に傾き、倦怠感や集中力低下、眠気、さらには意識障害を引き起こすのです。そのうえ脱水症状もでてくると、救急搬送されることがあります」(川名部医師)
清涼飲料水は美味しいので、どれぐらい多くの糖分が入っているかに気づきにくいが、代表的な経口補水液で角砂糖(約4g)約3個程度(500mLボトル換算、以下同)、スポーツドリンクが同約8個、カフェオレで約10個、甘い炭酸飲料で約17個と言われる。
ペットボトル症候群にとくに気をつけたいのは、次の4つに該当する人だと川名部医師は言う。
(1)糖尿病のある人、(2)糖尿病予備群(肥満傾向があり、健診で血糖値が高いと指摘された経験がある人)、(3)運動不足で汗をあまりかかない人、(4)糖分の含まれた清涼飲料水1日に1リットル以上飲む習慣がある人。
血糖値を抑えつつ熱中症対策をするには
では、血糖値を抑えつつ熱中症対策をするにはどうすればいいのか。川名部医師は「4つのS」が大切だという。(1)Soon(喉が渇く前に、こまめに)、(2)Sugarless(糖分を含む飲料を控える)、(3)Simple drink(日常の飲み物を水かお茶にする)、(4)Salt(汗をかいたら塩分を摂る)。
(2)について補足すると、「無糖」「カロリーゼロ」と表示された飲み物ならばいいのではないかと思いがちだ。しかし......。
「『無糖』や『カロリーゼロ』だからといって、水やお茶と同じような感覚で飲むことはおすすめできません。毎日の水分補給は、水やお茶を基本にしましょう」(川名部医師)
それに関連して、1日に摂取する水分量だが、3食の食事からも700~800mL程度の水分を摂取できるといわれているため、日常生活では午前・午後にそれぞれ500mL程度を目安に、発汗量や体調に応じて調整するとよい。
また、甘い物をずっと我慢するのもたいへんだ。どうしても清涼飲料水を飲みたいときには、3食に合わせて飲むのがコツだという。
「理想的な血糖値カーブは、3食に合わせて高くなり、あとは下がっている状態です。3食の間に甘い物を摂ると、血糖値が下がる時間がなくなるのでよくありません。どうしても甘い物を飲みたいときには、3食のあと、デザートのように少し飲むことを患者さんにはお勧めしています」(川名部医師)
血糖コントロールをするときに大事なのは、何を食べれば、血糖値がどれだけ上がるのかという血糖トレンドを知ることだ。以前は血糖値を測定するにはその都度針を刺していたが、いまは持続グルコース測定(CGM)というツールがある。コインほどの大きさの小型センサーを上腕後ろの部位に常時装着することで、24時間血糖値変動をモニタリングすることができる。
「清涼飲料水を飲んだら血糖が上がり、運動をすると下がるということが目でわかります。食べ方・飲み方、それぞれのタイミング、生活習慣を見直すいい材料を提供してくれます」(川名部医師)
CGMは病状や治療内容に応じて健康保険が適用される場合がある。
朝食はインスリン分泌の準備運動になる
さて最後に明日からできる血糖リスク予防を紹介しよう。
食事に関しては、まず朝食を食べること。川名部医師によれば、「朝食はインスリン分泌の『準備運動』のような役割を果たし、その後の昼食後の血糖値も上がりにくくなることが知られている」という。
それ以外には、ベジファースト&カーボラスト。つまり野菜は最初、炭水化物は最後に食べる。食物繊維を最初に摂ると血糖値が上がりにくくなる。アルコールは週1~2回に。そしてよく噛むこと。できれば30回噛んで飲み込むことを心がけることも大事だ。
次に運動だが、座りっぱなしにならないで、立つ時間を増やすことを心がけてほしいという。
「1日10時間以上座っていると糖尿病のリスクが高くなるという報告があります。ただ、現実には難しい方も多いと思いますので、食器を洗うなど家事で体を動かしたり、こまめに立って歩いたりするなど、『座る時間を減らす』ことを意識してみてはいかがでしょう。また、エレベーターではなく階段を使うなど、『移動を運動に』する習慣をつけるのもおすすめです」
糖尿病があると平均寿命が約6年短くなるという報告もあります。しかし川名部医師はこう言う。
「合併症がでないように血糖コントロールしていき、糖尿病がない人と変わらないくらいの人生を送っていただくことを私たちの目標にしています」
健診で血糖値を指摘されたり、倦怠感、体重減少など気になる症状があったら専門医を受診してほしい。