生成AI時代、制作会社は何で稼ぐのか デジタル企業が「リアル店舗」を持つ理由
生成AIの普及によって、イラストやゲームをはじめとするコンテンツ制作の環境が大きく変わりつつある。
画像を短時間で生成できるツールが登場し、これまで外部のクリエイターや制作会社へ依頼していた業務の一部を、企業が自社で行うことも可能になった。
では、制作そのもののハードルが下がるなかで、クリエイターや制作会社にはどのような価値が残るのか。
イラストなどのデジタルコンテンツ制作を手掛ける一方、カフェやバーといった実店舗も運営するヴァンパイア株式会社代表取締役の加藤洋平氏に、生成AIへの向き合い方と、デジタル企業がリアルな拠点を持つ理由について聞いた。
AIか人間かではなく「何を求めるか」

生成AIをめぐっては、著作権やクリエイターへの影響など、さまざまな議論が続いている。
制作会社にとっても、その存在を無視することは難しい。
ヴァンパイアでは、AIを使うか使わないかという二択ではなく、依頼内容に応じて制作方法を選択する考え方をとっているという。加藤氏によれば、短期間で多数の画像が必要なケースや、制作コストを抑える必要がある案件では、AIが活用できる場面もある。
一方で、特定の作家による表現や、長期間にわたって同じ世界観やキャラクターを維持することが重要な案件では、人による制作が求められることもある。
同社では、「AIのみ」「人間のみ」「AIと人間を組み合わせる」という複数の方法を実際に試し、制作時間やコスト、品質などがどう変わるのかを比較しているという。AIを画像生成だけに使うのではなく、市場調査や商品企画、業務改善などで仮説を検証するためにも利用している。
ただし、AIによって制作工程の一部が効率化されれば、これまで人が担ってきた仕事の価値が変わる可能性もある。
「AIで十分な仕事」と「人に頼みたい仕事」をどう分け、それぞれに適切な価格を設定するのか。制作会社にとって今後重要なテーマになりそうだ。
制作会社がなぜカフェやバーを運営するのか
デジタルコンテンツを手掛ける会社でありながら、ヴァンパイアではカフェやバーなどの実店舗も運営している。
もともとは、それぞれの事業が必ずしも一つの経営戦略から始まったわけではなかったという。
加藤氏によれば、「やりたいこと」として個別に始まった事業を続けていくうちに、「ヴァンパイア」という共通のブランドを通じて結びつくようになった。実店舗では飲食物を提供するだけでなく、イベントを開催したり、新しい企画を試したりすることもできる。
また、制作部門のデザイナーやイラストレーターが、店舗のビジュアルや商品づくりに関わることもあるという。デジタル制作の場合、完成したコンテンツに対するユーザーの反応は、アクセス数やSNSなどを通じて確認することが多い。店舗では、来店客の反応をその場で確認できるという違いがある。
一方、実店舗を持つことには当然コストも伴う。
家賃や人件費、光熱費など、デジタル事業にはない固定費が発生する。ブランドづくりや他事業への効果があったとしても、それだけを理由に赤字の店舗を維持し続けることは難しい。
リアルな拠点が制作事業とどのような相乗効果を生むのかと同時に、店舗単体としての採算性も問われる。
リアル店舗から社員が生まれることも

店舗を運営する中で生まれた意外な効果の一つが、人材との接点だったという。
加藤氏によれば、現在オフライン事業を統括する副社長や営業担当者の中には、もともと店舗スタッフや客として会社と接点を持った人物もいる。
一般的な採用では、求人情報を見た人が応募し、書類選考や面接を経て入社する。一方、店舗があれば、採用活動とは関係のない段階から企業や働く人と接することができる。店の雰囲気やスタッフとの会話を通じて会社を知り、その後、働く側として関わるようになるケースもあるという。
ただし、この方法を一般的な採用手法として再現できるかは別の問題だ。誰と出会うかは偶然に左右される部分も大きく、店舗を出せば自動的に採用がうまくいくわけではない。
それでも、オンライン上だけで事業を行う会社が物理的な場所を持つことで、通常の採用活動とは異なる人との接点が生まれることはある。リモートワークが広がった現在だからこそ、「会社と偶然出会う場所」の意味は以前とは異なっているのかもしれない。
多角化はリスク分散になるのか
クリエイティブ事業と飲食店では、市場も収益構造も大きく異なる。複数の事業を持てば、一つの市場環境が悪化した際の影響を抑えられる可能性はある。一方で、異なる事業を同時に運営すれば、管理すべき範囲も広がる。
ヴァンパイアでは、ブランドやコミュニティへの効果だけを理由に各事業を維持するのではなく、それぞれの事業が単体でも成立することを重視しているという。店舗についても通常の飲食営業だけでなく、イベントや営業時間外のスペース利用など、同じ場所を複数の用途で活用する方法を試している。
重要なのは「事業を増やすこと」そのものではなく、一つひとつの事業をどのように成立させ、その間にどのようなつながりをつくるかだ。
事業領域を広げすぎれば、人材や資金が分散し、本来の強みが薄れる可能性もある。
多角化が経営の安定につながるのか、それとも経営を複雑にするのかは、事業同士の関係性によって変わる。
AI時代、制作会社の価値はどこに残るのか
生成AIの性能がさらに向上すれば、画像を「作ること」そのものは今以上に容易になる可能性がある。そうなれば、制作会社に求められる役割も変わっていくだろう。
単に依頼されたイラストを制作するだけでなく、どの表現が適切なのかを考える企画力や、ブランドの世界観を長期的に管理する力、AIを含めた複数の制作手段を使い分ける能力などが重要になる可能性がある。
ヴァンパイアがデジタル制作とリアル店舗を並行して運営していることも、そうした変化への一つの対応と見ることができる。ただし、店舗を持つこと自体が制作会社の新たな正解というわけではない。
リアルな場所を持つコストを上回る価値を生み出せるのか。そこで得た人とのつながりや顧客の反応を、本業にどう生かせるのかが重要になる。
AIによって制作工程が変わり、企業による内製化の選択肢も広がるなか、制作会社は「何を作れるか」だけでは差別化しにくくなっていく可能性がある。デジタルとリアルを行き来しながら、顧客やクリエイターとの接点そのものをどう価値に変えるのか。制作会社の役割も、生成AIの普及とともに変化していきそうだ。
【取材協力】
ヴァンパイア株式会社
代表取締役 加藤洋平
http://www.vampirekk.com/