「顧客に過度の期待を抱かせるな」 キャピタリスト・辻俊彦氏に聞く(下)

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   ベンチャー企業の経営者や社員に向けたメッセージをまとめた「愚直に積め!」という本が出版された。著者はベンチャーキャピタリストの辻俊彦氏。IT化やグローバル化で経営環境が激変する今、ベンチャー企業の経営者はどうあるべきなのか。辻氏に聞いた。

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ベンチャーキャピタリストの辻俊彦氏
ベンチャーキャピタリストの辻俊彦氏

――このインタビューの「上」では、ベンチャー企業で働く社員の人に向けたアドバイスをうかがいましたが、今回はベンチャー企業の経営者はどうあるべきなのかについて、お聞きしたいと思います。ベンチャー企業というと、米国などでMBAを取得した人が華々しく立ち上げるというイメージもあるんですが、実際はどうなんでしょうか?

 それは、ベンチャー企業の現状を知らない人が抱く「妄想」でしょうね。ほとんどのベンチャー企業では、MBA的な効率性最優先の経営手法は通用しません。ベンチャー企業は大企業と違い「成功法則」が確立していないのですから、いたずらに効率性を追い求めても結果が出ません。それよりも失敗から学び、新たな仮説を実行していく「愚直な実行の積み重ね」が重要です。

   ベンチャーが成功するためには、仮説をより多く実行して検証していくことです。そのためには、とにかく仕事に張り付き、24時間考え続けることが大切だと思います。ベンチャーの経営者なら、「週100時間以上働く」ぐらいの気概があってもいいでしょう。

――「週100時間以上」とはすごいですね。そのような「愚直な積み重ね」を継続していくために、ベンチャーの経営者に求められることはなんでしょうか?

 ひと言でいえば、経営者の仕事は、ビジョン、すなわち夢を示すことと金繰りにつきます。夢を語り続けることによって社員の行動にスピード感が生まれ、キャッシュが尽きない限り、新たな仮説にチャレンジすることが可能になります。

   特に、経営者が絶えずビジョンを示して、メンバーに共通の目標を持たせることは重要です。年商1000億円のビジネスをゼロから起こしたある経営者は「組織のすべての人間を同じ方向に向かせることができれば、どんな業界でも、どんな市場でも、どんな競争相手に対しても、いつも圧倒的な優位に立てる」と語っています。
東洋経済新報社から出版された辻氏の著書「愚直に積め!」
東洋経済新報社から出版された辻氏の著書「愚直に積め!」

――経営者が社員を動かしていくうえで、気を配るべき点はなんですか?

 モノもカネも不足しているベンチャー企業で、成長を支える源はヒト、つまり「人財」です。ベンチャー企業ほど、社員の意識を経営に生かすよう努めなければいけません。ヒラ社員がどういう意識でやっているか。どれだけ社長の言っていることに共感できているかが、その会社の命運を左右します。どんなに作戦が良くても、実行部隊が動いてくれなければ失敗してしまうのですから。そのためには、当たり前のことですが、日頃のコミュニケーションが大事ですね。

   それから、ベンチャー企業で特に重要だと思うのは「笑い」です。新しいことに挑むベンチャー企業では、失敗は日常のことですが、失敗は苦痛を伴います。そんな中で、会社の雰囲気を軽く保っていくのはとても貴重なことです。ノリのいい軽い雰囲気の中で、真剣さと笑いを共存させることが、「挑戦を継続する起業風土」となるんだと思っています。

――社外の顧客との関係で注意すべきことはありますか?

 ベンチャー企業は、新しい価値を未来に創造していかなければなりません。その「未来」はターゲットとする顧客の心の中にあります。しかし「ニーズはなんですか?」と顧客に聞いても、モノあまりの今の時代、答えは返ってこない。ニーズを「探る」のではなく、「掘り起こす」ことにポイントがあります。

   もう一つ、特にベンチャー企業が注意すべき点として、「顧客に過度の期待を抱かせない」ということがあります。顧客とのトラブルの原因は、商品やサービスの結果そのものにあるのではなく、事前の期待と結果との「乖離」にある場合がほとんどです。できないことは引き受けない、ということが重要なんです。

――辻さんはベンチャーキャピタリストとして多くの経営者を見てきたと思いますが、経営者の資質として最も重視しているのは、どんな点ですか?

 難しい質問ですが、投資判断をするとき、私は経営者が「素直な人かどうか」を見極めるようにしています。ベンチャーの場合、事業計画書どおりに事業が進むことはまれです。普通は計画の倍以上の時間がかかり、その間に経営環境も大きく変化します。そのとき、自説を捨てて事実に向き合うことが経営判断をしていくうえで非常に重要になります。

   また、素直な心をもった経営者は、顧客の声にも耳を傾け、社風や社内の人間関係にも無関心ではありません。さきほど述べた社員や顧客との関係を良好に保つうえでも、「素直さ」は重要なファクターとなるのです。 新規事業を進めていくうえでは、想定外のことが数多く起こりますが、それらを乗り越えていくには、事実と真正面から向き合う素直さが不可欠です。そして、素直な人ほど周りからの支援も多く得られるものなのです。

   ※「ベンチャーにはこんな人が向く」 キャピタリスト・辻俊彦氏に聞く(上)


【辻俊彦氏プロフィール】
1960年福岡県生まれ。東京大学法学部卒。住友不動産にて新規事業の企画に従事し、複数の子会社設立を推進。その後、ベンチャー投資や事業会社での経営参画やIPO準備を経験し、2001年6月より住信インベストメントに参加。投資先企業に積極的な経営関与をするハンズオン投資を手がける。そのうちアイティメディアなど数社が株式公開を果たした。現在、同社投資第一部長として、ブルーオーシャンシステムズやチャイナ・コンシェルジュをはじめ、ベンチャー企業8社の社外取締役を務めており、ハンズオン投資を地道に実践中。ブログ「辻流」や「キャピタリストの視点」で日々の仕事で感じたことやさまざまな本の書評を記している。

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